お米のある朝食
一年ぶりくらいの更新です。大変お待たせしました。
「うん、美味い」
今日の朝食は野菜炒めにご飯、山菜スープといったシンプルなもの。だが、そのシンプルさが素晴らしい。
本当は味噌汁に卵焼き、鮭の塩焼きやお浸しといったものが恋しいが、まだ味噌が見つかっていないし、家畜を育てる準備もできていないので実現はできていない。
「お米ができてからハシラはご機嫌ね」
「ここにくるまでは、ずっとこれを食べていたからな」
ずっと米がなかったので、朝食に米があるだけで幸せだった。
パンよりも米派だったのでその気持ちはひとしお。
米を食べると、朝がしっかりとはじまるような感じがする。
「うむ、この米というのはお腹にどっしりと溜まっていいな!」
「お嬢様、頬に米粒がついております」
「モチモチの実も悪くはないけど、腹持ちという意味ではこっちに分がありそうね」
一緒に囲炉裏で食事をしている、カーミラ、クレア、リーディアもお米が収穫されてからはお米を食べている。
モチモチの実という主食があるとはいえ、やはりずっと同じものでは飽きてしまうものだからな。新しい主食の可能性を探っているようだ。
「ハシラ、お代わりなのだ!」
「いや、目の前に土鍋があるだろう。自分でよそえ」
「それもそうか!」
きっぱりと断ると、カーミラは気にした風もなく自分で土鍋からお代わりをよそい始めた。お茶碗から大きくあふれ出すような白い山を築いている。
しゃもじでパンパンとお米を圧縮すると、カーミラは野菜炒めを口に入れ、豪快にお米を口にかき込んだ。そして、幸せそうに顔を緩める。
一人で大盛り三杯以上は食べるので、少量ではすぐになくなってしまうほどだ。
俺よりも小さな身体をしているのに、一体どこに入るのだか。
「……ハシラ殿、蜂蜜とお米は合うと思いますか?」
スプーンの上に載っている黄金の蜜とお米を見比べるクレア。
「合わないと思う」
「そうですか」
バッサリと切り捨てると、クレアはちょっと残念そうにして蜂蜜だけを味わった。
いくらお米が何にでも合うとはいえ、限度というものがある。
一方、リーディアは米そのものの味を楽しみながら、たまに野菜炒めと一緒に食べるという上級者向けの食べ方をしていた。
ちょっとお婆ちゃんっぽい――などと思っていると、お米を食べているリーディアがこちらを向いた。
「ハシラ? 何か変なこととか考えてる?」
「……そんなことはない」
妙に迫力のある笑みを浮かべるリーディアに俺は視線を逸らしつつ答えた。
別に口に出していないはずなのにどうしてわかったんだ? 不思議でしょうがない。
長い時を生きるハイエルフには人の心を読むような力が備わっているのだろうか。
俺はこれ以上、変なことを考えないように無言でお米を口に入れた。
◆
朝からお米を食べて満足した俺は、準備を整えて外に出た。
家を出ると、強い太陽の光が差し込み、思わず目を細める。
季節は春を過ぎて初夏になった。
まだ本格的な暑さに見舞われてはいないが、随分と気温が暖かくなってきたのを感じる。
異世界の樹海の夏はどれ程の気温になるのか。未知なために想像がつかないが、多分前世の日本よりはマシな気がする。ここは緑が多いし、風通しもいいからな。
玄関を出て、歩いていくと大きな丸い物体が行く手を阻んだ。
家の傍に生えているマザープラントである。
樹海で見つけ、家の傍に移植した時よりもかなり成長し、すっかりと大きくなっている。
俺よりも遥かに大きいので今では、こうやって向こうから頭を持ってきてもらわなければ撫でることすらできない。つまり、こうやって頭を差し出しているのは撫でてほしい合図だ。
「よしよし、本当に大きくなったな」
身体から伸びている蔓には凶悪な棘が生えているのが、頭はツルリとしていて撫で心地は良かった。
撫でてやり、ついでにポケットから手に平サイズの魔石を差し出す。
すると、マザープラントは器用に魔石だけをパクッと食べた。
ガリボリと魔石を嚙み砕くような音が響き、ゴクリと呑み込むとマザープラントは嬉しそうに蔓を揺らした。
国潰しなどという物騒なカテゴリーに入っているらしい魔物であるが、うちでは気さくで頼りになる隣人だ。
うちの畑が獣や虫の被害に遭わないのは、マザープラントが目を光らせてくれているお陰だ。本当に頼りになる。
「ちょっといいかの?」
マザープラントとじゃれ合っていると、野太い声がかかった。
振り返ると、そこにはドワーフのドルバノとゾームがいた。
普段、工房で作業をしている二人が、こちらにまでやってくるのは珍しい。
「どうした?」
「獣人たちの生活道具を作り終わった。酒造りに戻っていいか?」
用件を尋ねると、ドルバノがきっぱりと言った。
前回、酒造りに取り掛かろうとしたが、樹海の端に住んでいた獣人たちを迎えるために中断となっていた。
それらの作業が終わったので、また酒造りを再会したいということだろう。
「そうだな。作業が済んだのなら酒造りをやっても構わないぞ」
「わかった。それと追加で頼みたいんじゃが、ブドウの増産をしてくれんかの?」
「ここのブドウを使えば、絶対にいいワインが作れるんじゃ!」
拳をグッと握りしめながら語ってくる二人。
俺はあまり酒を嗜まない上に、酒にあまり詳しくない。二人の言葉は半分程度しか理解できなかったが、とにかく美味しいワインが作れるようだ。
美味しいワインが出来れば、お酒の飲める者は大喜びだろう。
衣食住が安定してきた俺たちであるが、まだまだ嗜好品や娯楽といったものが足りない。
そういった物を開発する意味でもワイン造りは有意義なように思えた。
「わかった。ブドウ作りも急がせよう。すぐに収穫できる方がいいか?」
数少ない職人であるドルバノとゾールには大きな負担をかけている。
二人が望むのであれば、お米作りのように上質な魔石を肥料として早期による収穫を行うのも許されるだろう。
「いや、圧搾機がまだできておらんから、そこまで急がなくてもいい」
「じゃが、二週間後くらいにはあると嬉しい」
「わかった。二週間後に収穫できるように育てておこう」
願望を汲んで頷くと、ドルバノとゾールは嬉しそうな声を漏らして去っていった。
きっと、今から圧搾機をはじめとする酒造りに必要なものを作っていくのだろうな。
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