お尻ぺんぺん
魔力を回復させる薬を飲ませると、ほどなくしてカーミラが目を覚ました。
「身体の調子はどうだ?」
リーディアの勘違い事件があったので、目を覚ましたカーミラに武器を持って近づいたりはせず、ある程度の距離を離した状態で声をかけた。
「大分、よくなった。だけど、殺されるかと思った……」
凛とした表情からすぐに涙目になって呟くカーミラ。
魔王の娘とはいえ、年下の少女にこうも怯えられると傷つく。
「おいおい、最初の威勢はどうしたんだ」
「そうなるのも仕方がないでしょ。あんなむごい倒し方をしたんだから」
俺の戦い方はそんなにむごかったのだろうか。リーディアが呆れるような視線を向けられた。
蔓で縛り上げて、木で拘束して魔力を吸い上げて――あれ? 振り返ってみると、中々にえぐいことをしているような気がする。
「まさか、オマエみたいな軟弱そうな人間がこんなに強いとは思わなかったぞ。何が狙いだ? 父上から魔王の座を奪って、国を支配するつもりか?」
「いや、別にそんなことに興味はないぞ。俺は普通にここで暮らせればそれでいいんだ」
「アタシをあんなに簡単に倒せるほどに強いのに魔王に興味がないのか? オマエなら多分、父上でも倒せるぞ?」
無垢な顔で実の父上を倒せるとか言うんじゃない。
「本当に魔王とか興味ないから」
「そうなのか。ハシラは変わったやつだな」
魔族というのは強ければ魔王になりたがるのだろうか。魔族の考え方が俺にはわからない。
たとえ、なれるような力があったとしても、魔王になるなんてごめんだ。
「とはいえ、魔王の娘であるアタシに勝ったんだ。望みを言え!」
「妙にそこに食い下がるな」
「種族にもよるけど魔族は実力主義なところがあるから」
「負けた者は勝った者の言い分し従うのがルールだ。ハシラにはその権利がある」
単純だけど、その潔い精神は嫌いじゃない。正直、また暴れられでもしたら困るからな。
急に望みを言えと言われて戸惑う俺であったが、その前にやってやりたいことはあった。
「望みの前にやってやりたいことがある。尻を貸せ」
「なっ! もしかして、アタシの身体を所望するのか!? ま、まあ、アタシより強い男にそう言われるの
は悪い気もしないが……」
顔を赤くし、身体をもじもじとさせるカーミラ。
俺の言い方が悪かったかもしれないが、出会ったばかりの少女にそのようなことをする趣味はない。
「何を勘違いしてるんだ。そういう意味じゃない。畑と家を燃やした罰としてお尻ぺんぺんだ」
きっぱりとそう告げるとカーミラだけじゃなく、リーディアもホッとしたような顔をしていた。
急に目の前でいたすと思っていたのだろうか。俺がそんなことをすると思われていたのなら心外だ。
「お、おい。それならさっき魔力を限界まで吸ったからチャラではないのか?」
「あれは戦闘であって罰じゃない。それともガイアノートのレントにやってもらう方がいいか?」
その言葉を聞いて、レントが大きな拳を力強く打ち付ける。
まるで鞭を打ったかのような音が鳴り、風圧が巻き起こる。
レントにお尻ぺんぺんされるなんて考えただけでもお尻が痛くなりそうだ。
「わ、わかったのだ! わかったからアレだけは勘弁してくれ!」
カーミラは顔を青くすると、素直にこちらに寄ってきて四つん這いになる。
そして、自らの短パンを下ろして真っ白なお尻をさらけ出した。
いや、別にお尻まで出さなくてもいいんだが……と思っていると、お尻の辺りに黒い尻尾の付け根が見えた。
悪魔の尻尾のような黒く、細長くて先の方が尖った感じだ。
「ひゃうっ!?」
好奇心から思わず手を伸ばすと、カーミラから聞いたことのない艶っぽい声が出た。
「ちょっと! 身体が目的なんじゃないんでしょ!? 魔族にとって尻尾は大事な部分なんだから!」
「あ、ごめん。知らなかったんだ。気になってつい」
どうやら敏感な部分のようでリーディアに怒られてしまった。犬や猫の尻尾感覚で触ってはいけないらしい。
やってしまった。完全にセクハラだ。前世なら確実にお縄についていたところだ。
とりあえず短パンを被せて丸出しになっているお尻を隠す。
にしても、カーミラの尻尾って意外とツルツルしているんだな。不思議な感触だった。
「じゃあ、気を取り直して」
自分の中にある妙な感覚を振り払うように、俺はカーミラのお尻をぺんぺんしてやった。
◆
「うう、遠慮なく叩きおって」
罰を終えて、解放されたカーミラが涙目になりながらお尻をさする。
「カーミラが調子に乗るからだな」
「だからといって、蔓で叩くのは卑怯なのだ」
最初は普通にぺんぺんしていたのだが、調子に乗って全然痛くないなどと強がるので蔓を生やして叩いてやった。
俺の手よりも何倍も強く、高速で叩ける蔓はかなり痛かったらしく効果はてき面だったようだ。実際に鞭で叩いたかのようなすごい音が鳴っていたしな。
「さて、罰が終わったことだし望みを言おうか」
「おい! まだ何かさせるつもりか!?」
「あれは罰であって望みとは別だ」
畑を燃やしてくれた報いをさせたのであって、あれは勝者の特権とは別だ。
別にカーミラをこのまま帰らせてもいいのだが、農家をバカにするような発言は許せないからな。それに燃やしておいてまた育てればいいなんて考えは矯正してやりたい。
「なにが望みなんだ?」
「うちの畑仕事を手伝え」
「……アタシが畑の世話をするのか?」
「ああ、カーミラのせいでいくつかの作物が台無しになったからな。その弁償をしてもらいたい」
引火させないように処理をし、リーディアが水魔法で速やかに鎮火してくれたので作物の被害は最小だ。
しかし、それは最小なのであって被害がないわけではないのだ。
「どうしてアタシが土いじりなんか……」
畑仕事をすることが不満なのか、カーミラがしょぼくれたように言う。
自分だって畑で収穫したものを食べたことがあるのに、どうしてそのように見下すような発言ができるのか。
「勝った方の望みを聞くのがそっちの流儀なんだろう? まさか、魔王の娘とあろうものが流儀を違えるの
か?」
「誰がやらないと言った! ええい、それがオマエの望みならやってやる!」
敢えて挑発の言葉を投げかけると、カーミラは見事に乗ってきた。
強さはあるものの思っていた以上に単純だな。精神年齢は見た目相応といったところだ。
まずは作物を育てることの大変さを教えてあげよう。当然、カーミラの作った畑に成長促進を使ったりはしない。
自分の手でじっくりと育てさせて、作物を育てる苦労や達成感を教えてやろう。
少なくても自分で燃やしておいて、また育てればいいなんてことは気軽に言わせないように。
「ハシラ、顔が怖いわよ。あまりやり過ぎないようにね」
「ああ、わかってる」
俺の考えがわかっていながらも、軽い注意しかしてこないのはリーディアも賛同している証だった。
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