06.作戦終了
明るいうちから湯船に浸かり、ぼんやりする。
訪問出来る老人宅は全て行った。もうどこにも訪れる家がない。
全ての神仏妖霊スポットにも行った。二巡目なんてとんでもない。
ここがもう潮時だろうな。「思い出した!」という老人もいないし、不思議な声が聞こえてくることもないし、神様の声が聞こえてくることもない。やることはやった。あと出来ることといえば、私の考えられる範囲としては、祭りのときだな。よその能力者でなく、この土地の力を持つ人や神様を敬愛する人たちのパワーで会ってくれるかもしれないが、私がそこにいる必要はない、誰か別の人を派遣するだろうな。
ぼんやりしていたら、扉が開く音がして、誰かが入ってきた。めずらしいな、別の宿泊者が来たのか。
かけ湯をする音がして、こっちに歩いてくる。場所を開けようと、入ってきた来た人の方を見たら…女軍人だ。
全く前を隠しておらず、私を見て
「ほう、貴様がいたのか」
二人称を驚く間もなく、「えっちょっちょっちょっ」と言葉も出ない。
私の驚く様を見て、なんの恥じらいもなく湯船に入ってくる。
「なるほど、ここで私が大声を上げたら貴様の人生は終了するわけだ」
「勘弁してくださいよ!あなたが後から入ってきたんじゃないですか!」声が大きくなる。
「警察が貴様と私のどっちの言い分を信じるか。確かめてみるか」
「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや」
覗きじゃないんだから、女性でもまさしく軍人て人と、そこらにいる一般人の言い分のどちらを信じるかなんて、そりゃこっちに決まっているだろう、とは思うが言い合いをしても仕方がないので黙る。
しかし一瞬でも裸をまじまじと見てしまったのは事実だから、こちらが分が悪いのか?胸やあそこよりも、全体の筋肉質しか目に入ってこなかったが。
女軍人はそれ以上私をからかうつもりはないようで、両腕を浴槽の縁にかけ、天井を見上げ、湯を堪能しながら本題に入ってきた。
「この町でずいぶん調べ物をしているようだな。私の姪のことも調べてくれたか」
「あ、それは聞きました。でもこの町の人全員、あなたが調べていたことを知ってましたよ。女の子どこに行っちゃったんだろうねと心配していました」
私にしてみれば誰一人として最悪なケースを想定していなかったのが不思議だった。言われなかったので、こちらから野次馬の質問はできなかったのだ。
しかし女軍人はその先を取った。
「あそこから身を投げたら、必ず漂着する入江があるんだ。しかしそこにはここ数年誰も来ていない。この岬の歴史が始まって以来、ただの一度も例外がないことだ。そこに来ていないのであれば、身を投げてはいないことになる。町の者はそれを知っているんだろう」
なるほど。歴史的に投身自殺で有名な岬だものな。
「じゃやはり、別の所に移動したか、誰かに連れ去られたしかないですよね」
「別の所に行ったのなら、子供の足だ。バスに乗るにもタクシーに乗っても必ず誰かの目に付く。それがないということは、誰かに車で連れ去られたとしか考えられないが、この町の目を逃れられることはありえるのだろうか」
確かに。私が歩き回ったのは、不審者じゃないことをアピールするために大声を出して歩き回っていたようなものだが、深夜の御神体行脚が毎日誰かに見られてすぐに話が広まっているのには驚くしかない、それくらい隠密活動は難しいはずだ。
「相手が嘘をついていた可能性は?」
「人を見る目は持っている。私に嘘を突き通せる者はいない」
「そうですか」
そう言われてしまったらいろいろ何も言えなくなる。
「貴様に、隣町まで調べてもらうのはどうか」
「いやいや、私もここに来たのは仕事でして、一段落したから帰ろうかと思っているんですよ」
「報酬ははずむが」
「無能に打ちのめされている私にそういうこと言わないでくださいよ、私の前に来たエリート集団が駄目で、能なしの私がローラー作戦をやって駄目で、次に来る人がどんな方法を採るか見当もつかずうんざりしてるんです。行方不明者の捜索なんて、それくらい私には才能がありませんよ」
「そうか」
こっちの仕事とは違い、この人のケースではキーポイントが決まってしまっている。飛び降りていないのならどこに行ったか、それも町の人の目をかいくぐって、それだけである。
これはもう「解らない」としか言いようがないだろう。
女軍人は「邪魔したな」と言って立ち上がり、湯船から出てそのまま脱衣所に出て行った。
形の素晴らしいお尻に見とれたりなんてしない。
一気に緊張がほどけ、ぶわーっと湯船に浮く。
さすがに軍人なのだろう、こっちの事情は一切聞かなかった。
風呂場を出るとき、まさか「この時間女湯」なんて札が架かってないだろうな、と思ったけど、やはりそんなものはなかった。