03.移動中
電車の中で報告書を読む。
神様のこと自体は市販の旅行のガイドブックにだって書かれているんだよね。
大昔、小さな漁村だったこの地に海から小さな舟が辿り着いた、その舟には身体にかなりの障害を負った赤ちゃんが一人。
村の人はその子を歓迎し、神様として遇したって、まんま蛭子伝説だな。今にしてみればご当地キャラか。
浜が一望出来るところに社を建ててそこで育てていたんだけど、いつの間にか立派な石に変わっていた、なのでその石を御神体として祀って漁の安全を祈願したと。
しかしこの漁村、天変地異も絶望するほどの不漁もなく、戦地となることもなく、他の土地に比べたら平穏無事な歴史しかなかったとか。
そのためこの神様、日常生活の不満や嬉しいこととか世間話の相手とか、歌や踊りが上手に出来たときに見てください聞いてくださいと披露される対象と、平和の神様である。
あっちの怒った神様と、どこで接点を持ったんだろう?
しっかし、この報告書、いやー、エリートだエリートだ、文章の語彙から説明の仕方からキレッキレで、仕事をしましたってだけでなく、後に続く人に解りやすく書いている。
切れ者や手練れが五人、御神体を管理している人に民俗学の調査と言って祭りや儀式の話を聞き、神様にコミュニケーションを試みること五通り、いずれも不発に終わったという。
観光にはシーズンオフだったから、知られたのは町の人くらいで、一般客には全く知られなかったか。今もシーズンオフだ。
事の秘匿性から会ったのは管理してる人と町の偉い人くらいか。夫人は音についての手がかりは電話報告のときだったと言っていたが、報告書には全く触れられていない。
やれることって、ここだよなー、この人達がやらなかったことでやってみよう。
てかなー、私は高校生の時からそうだった、部活で新しく始めたことの責任者に指名されて、始めて三年目なんでノウハウも蓄積されていないし、顧問は忙しいし先輩は後輩指導のやりかたを知らないしで自分で考えてやらないといけなかったんだよなー。
結局みんな出来に満足してたんだか不平を言っていたのか、とうとう解らなかった。大学を出た後の社会では、そこまで結果が不明でモヤモヤしたことはなかった。いや、記録された映像を見たら内容はダメダメだったんだけどね、顧問から「みんなお前がやれって言ったことをやったんだから、お前だけはダメだったと言ったら駄目だぞ」と言われたんだけどね。でも引退してから、下級生が卒業するまでは、みんな先輩先輩と立ててくれていたんだから、まぁ良い方に解釈したい。
で、これかー。
別に神様全般の知識もないし、エリートでも駄目だった神頼み、素人がノタクタと這いずって成功させないといけないって、成功できんのかね?これ。