01.斡旋
私の請け負う仕事は依頼人と二度と会うことはないものである。人は普通、生涯に引き摺る音があっても二つはないし、二つあっても高い費用に高い失敗率を言われたら、そこまでお金は出せないものだ。
個人的に私を気に入った人がいても、私は自分のことを話さないので会話を膨らませることができない。これではまた会おうと思う人はいないだろう。
なので立て続けに三人、それも私が会った依頼人の中で特別社会的地位の高い三人が、別ルートで「人に会って欲しい」と連絡をよこしてきたのには驚いた。
なんでもその人は「伯爵夫人」と呼ばれているのだそうだ。
この国では戦争が終わって華族制度が廃止され、世間の荒波に飲まれて消えていった家は物語になるほどだが、別に全ての華族様が消えたわけではない、きちんと能力を発揮し、威厳を保ち、社会的に成功し続けている華族様も大勢いるようだ。ただ私のような庶民とは生活圏が違うため活躍を耳にすることがないだけのようである。
その「会って欲しい」と言われた華族様も、祖父母や両親が仕事で成功を収め、本当は伯爵の称号も娘が継ぐべきなのだが諸々の事情で結婚し、実力を発揮し続け、周囲から尊敬の念も込みで「伯爵夫人」と呼ばれているのだという。
伯爵家に電話をかけ三人から言われたとおりのことを言う。
向こうは、執事なんだろう、「こちらの都合なのでいらしていただくのは申し訳ないのですが、内容が内容なので」と日にちと時間を指定される。裏口ではなく正面玄関を言われたので怒る道理もない。
迎えは断った。雲上人の住まう町は散歩コースに最適なのだ。遅刻しないことを約束して電話を切った。