お嬢様は張り切らない
学園祭は明後日。エリーゼたちのクラスの劇の練習は続いており、脚本から結局は演出を兼ねるようになったリューネ姫はノリノリだ。
「そこはもっと悲哀に満ちた声を出すのよ。今のままでもよいけど、体の表現も使えば、より別離の場面の悲しみが伝わるわ!」
「はい、先生!」
「姫の舞台にかける思いは熱いわね……いつのまにか演者だけじゃなくて、クラスメイトたちみんな、劇指導の間は、姫のことを先生と呼んでるし」
リデアが劇の練習を見ながら、エリーゼに囁く。
「さすが姫と言うべきか、指摘も的を射てるし、皆が情熱につられて盛り上がってる感じはあるわね」
エリーゼが返す。敬語はやめてほしいとヘレネに言われてやめた。ヘレネがいなくなったからということもあるだろうが、最近はリデアはエリーゼにべったりだ。
「まあ、本気でお好きだから……。みんなもそれがわかってきたというか。それに姫は、本格的な劇をよく見てらっしゃるからー。王族の社交とはいえ、役得でいつもうらやましいのよ」
「リデアは劇が好きだもんね」
「大好き! でも親たちは刺激的だからって、恋愛劇は見せてくれないのよ! 頭がかたいと思わない……? 個人的には、私たちみたいな年齢の娘こそ、ああいうのを見て学ぶべきじゃないかしら?」
頬をぽっと赤く染めて言うリデア。
ふと、エリーゼは思い出して、口に出した。
「そういえば、ダヴィット様との話はどうなったの?」
ダヴィットはリヒャルトに勝ったら回答を求めると言っていたが、あそこまでの騒ぎになって、家同士の話がされていないわけもないだろう。
正直、もう、なにがしかは話が進んでいるのではないだろうか。
「え、ええ……」
しかし、リデアは小さな声でうつむいた。
「……あまり、家の回答は芳しくないの?」
「はっきり言ってしまうとそうね。家のつり合いとしては問題ないのだけど、やはりあそこのお家の属しているのが……ね」
リデアの家は王弟派。ダヴィットのアスカン家は中立派だが王子派より……だったか。
やはりそのあたりがネックになっているようだ。
「リデアはどうなの? ダヴィット様自身のことは、どう思ってる?」
「そ、そんなのまだわかんないけど、でも」
リデアは真っ赤になった。
「あんなふうに言われて、心が揺れない女なんていないと思わない?」
「そうね」
あけすけに好意を語られれば、普通、誰だって心は動くだろう。
しかし、リデアはなぜか不満気な顔でエリーゼを見た。
「エリーゼ、あなた本当にそう思ってる?」
「へ?」
「ま・え・の、エリーゼの顔をしてた!」
「え?」
リデアは、少し怒った感じで、エリーゼの額を人差し指でつついた。
「私たちのことなんて本当は興味なくて、てきとーに話を合わせときゃいいって頃の、エリーゼの顔をしてた!」
ーーそんなことを思われていたのか
まあ、本当に他人に興味がなかったから仕方がないのだが、自分ではそれなりにうまいことやっていたつもりで、色々と周囲の人たちには見抜かれていたのだなあと、今更ながらに冷や汗が出る思いがする。
「その、恋愛のことはわからないから、私……」
「リヒャルト様はどうなの?」
「まったく、なにもないわ」
「この機会に、何らかのアタックを……」
「リヒャルト様に興味がないの」
「うわあ、ファンが聞いたら卒倒しそうなセリフ」
「というか、私がこういう感じだから、パートナーに指名されたわけで……」
「そうなのでしょうけど」
リデアは、ふむ、とうなった。
「まあ、あの姫が、リヒャルト様のパートナーに選んだのだから、エリーゼがリヒャルト様に興味がないことなんて、私や……ヘレネくらいだとまるわかりなんだけどね」
リデアは、少し勇気を出して、ヘレネと名前を出したようだった。
「まるわかりなの?」
「そうなのよ!」
リデアはにやりと笑った。
「エリーゼは知らないだろうなー。まだお傍にあがっていない時代だもんね」
なにそれ。気になるんですけど。
そう、エリーゼの顔に書いてあったのが見えたのか。エリーゼが問う前に、リデアはおどけた顔で、ひみつー、と言った。




