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お嬢様は何度でも死亡フラグを折る  作者: 蓮葉
お嬢様は学園祭準備で巻き込まれる
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エピローグ:いつかの未来


 王子、いや、王は憔悴していた。

 大陸を吹き荒れる革命の嵐に巻き込まれ、国を追われ、父替わりの叔父たちを失い、一族を率いて亡命し、しかしその地もまた裏切りで追われ、無二の親友をさえ、失ったのだ。

 憔悴していない方がおかしい。


 しかし、彼は毅然としていた。

 その瞳は光を失っていなかった。希望などなくとも、義務と責任のために、最後の最後まで彼は王として誇りを失わないだろう。

 そんな人だった。


 「まさか、お前が助けてくれるとは思わなかった。お前がいてくれなければ間違いなく全滅していた」

 

 ディールは、黙って彼をーーフェリクスを見ながら立っていた。

 30代になったフェリクスは、年齢よりも老けて見えるようになっていた。

 10年以上も会わなかった『昔の友』ーーそもそも友と言っていい間柄だったのか不明だがーーに対しても、まるで昨日別れたかのように気さくに振る舞ってみせる。

 長らくの不義理をなじることもしない。


 庶民に身をやつし、匿ってくれている商人ーーまあディールの変名なのだがーーの屋敷で、不自由なくらしをしているのに泰然としている。

 ディールのことも、立って迎えた。本来、王族と庶民ならば、座って迎えるはずなのに。

 友人として、ディールを迎えたのだ。


 「知り合いを見殺しにするのも気分が悪い」

 「いや、助かったよ。リューネが身重だからね。甥か姪かわからないが、あの子は生まれてくれないと困る。王家の次代は多い方がいいからな。まあ、後の2人ともリューネの子なんだけど」

 「あなたは結婚していないのか」

 「亡国の王との縁組など、この状況下だ、何回か流れてしまってな」

 「それで、アリィシアと結婚するのか?」

 「そうだな……」

 もうすぐアリィシアとの結婚を控えているのだと聞いたときには、ディールもさすがに驚いた。しかもアリィシアは既に妊娠しているのだという。

 アリィシアはどこの王家の血も引いていない。貴族であるから子供は嫡出として扱われても、王位継承権はかなり低くなる。両親ともに王位継承権を持つ者同士の結婚であるリューネ姫の子が、今後の正統と扱われることになるのは間違いなかった。

 ……もう王として立つべき国を失った身であるならば、意味がないというのだろうか。

 それでも、フェリクスの『結婚』ともなると利用価値があるため、今まで独身で来たのだろうに。


 「おそらく、もう長くはないだろうと、アリィシアが言ったんだ」

 そんなことではないかと、ディールも気づいていた。

 「だから、私のわがままを通してもらったんだ」

 

 窓の外の嵐に目を移し、フェリクスはそうつぶやいた。


 「ディール、戻って来てくれないか。そうすれば、私たちも助かるんだが」

 「匿えと言われたなら、いつまでも匿うさ。でも、ここから出ていくならば、お別れだ」

 「やはりそうか」

 「まあ、あなたたちの次世代のことは守って差し上げるつもりだけどな」

 「ははっ。それは気の長い話だが、ありがたいな。……子供たちには罪がないからか」


 フェリクスは目を伏せた。


 「エリーゼ嬢のことは、本当に申し訳なかった」

 「何について謝っているのかわからないな。じゃあ聞くが、あなたたち・・には、彼女を死なせない選択肢はあったのか?」

 「いや……なかった……」

 「それなら、謝る必要などない。そうだろう」


 「それでも、彼女がお前にとって大事な人なのだと知っていれば、何も知らせずに決めることなどなかった」


 二人の視線がぶつかった。

 先に目をそらしたのは、ディールだった。


 「知らされても、どうにもならなかっただろう。お嬢様は死ぬべきだった。それしかなかったならーー知っていても、俺は何もできなかった」

 「だが、お前はここまで傷つくことはなかっただろう。最後に会うことだってできたかもしれない」

 「同じだ……結局は同じさ」


 国から留学したにもかかわらず、エリーゼの死の一報を聞き、すぐさまディールは姿をくらませた。

 ディールとエリーゼの間に親交があったと、ディールの養母ししょうから聞いて、はじめてフェリクスは知った。

 ディールが養子となった後援がエリーゼの実家であるシュッツナム家だったのは書類等で知っていたが、学園では、二人はまったく親交がないように見えたから……。


 「敵を討つべき相手も、もう、いないか」

 「アルベルト先生は、敵じゃないだろう」

 ディールの意外な言葉に、フェリクスは驚いた。

 「アルベルト先生は、『装置』でしかなかった。勇者の力を失った以上、死ぬのは必然だ。あの人もまた、犠牲者だ」

 

 ディールが、一歩前に進む。嵐の中で雷が閃き、その横顔を照らす。

 再会してから、間近でその姿をしっかりと見るのは初めてだ。あまりにも若くて、記憶のままの姿だと、フェリクスは驚いた。


 「お前はいつまでも変わらないな。びっくりするほど変わらない」

 「だって、知ってる時の姿じゃないと、お嬢様が俺のことをわからなくなってしまうだろう?」

 「……?」


 その声はあまりにも平坦で、だからこそ、フェリクスの背筋に冷たいものが走った。

 狂気だ。

 彼の昔馴染みは、静かに何かを狂わせている。



 「生きてあがけよ、王様。国がなくとも、あなたたちには守るべき使命があるのだろう。その血脈を永遠に保て、そして……この世界を救い続けろよ」


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