お嬢様は知ってしまう
リヒャルトの言葉に泣きそうになっていたのだが、その涙も一瞬で引っ込んだ。
エリーゼの唖然とした表情が面白かったのか、リヒャルトは声を上げて笑った。
「あはははは、そんなに嫌な顔をしなくても!」
「そ、そ、な……」
もう、なんだか、言葉にならない。
エリーゼは衝撃のあまりよろめいた。
「いや、本当にね、あなたとアリィシアはそっくりだと思ったんだよ。自分を勘定に入れないところとか、でも『楽しい』ことにはまっしぐらで、誰の忠告も結局聞かないところとか、周りを振り回して、でも結局みんな助けられちゃっているところとかさ。アリィシアが篭絡されたわけじゃない、シンパシーを感じて懐いてるんだなあれは」
「し、シンパシー?!」
「ディールもあれ、つまりは俺や王子がアリィシアを好きなのと一緒だろう。あなたに助けられて、もうすっかり心酔してしまってるわけだ。もう、それに気づいたら、おかしくておかしくて」
「な!、な、まいって?! というか、リヒャルト様、好きって、あなたはっきりそんな、そんなことーー!!」
もうエリーゼの頭の中はぐちゃぐちゃである。というか、リヒャルトがこんなにぶっとんだことを言う人だったとは、問題外の範疇外の計算外である……!
「あはははは」
「笑いことではございませんわー!!」
◇◇◇
「落ち着いた?」
「誰のせいだとお思いですかっ」
「うん、俺のせいだね」
やけに優しい表情で微笑まれると、さすがのエリーゼもドキッとする。
今更だが、リヒャルトはとてつもない美形なのだ。笑顔の破壊力もすごい。
学園の片隅、教会の裏。人が通りかからない裏手だからこそ、リヒャルトと並んで座って二人で話をしていることが、今になって気になってきた。
「俺はアリィシアが好きだ」
「私に告白されても困ります」
「まあそうだろうね。そして、王子もアリィシアが好きだ。恋してるって意味だよ」
「……そんな重大なことを、私に告白されても困ります」
「またまた、どうせ気づいていただろう」
「あからさまですからね!」
ヤケになってエリーゼは言い捨てた。
またリヒャルトが笑う。この人、意外と笑い上戸なのか? とエリーゼはリヒャルトの人物評を書き改めたくなった。
「ロイヤルな三角関係なんて醜聞、気づきたくなかったです!」
「まあ、エリーゼ嬢には災難だろうが……三角関係じゃないぞ」
「は?」
エリーゼは聞き返し、真っ青になった。
「聞きたくないです! 私を何に巻き込むおつもりですか!」
「あっはははははは! いいね、エリーゼ嬢、あなた本当にいい反応するよ!」
リヒャルトは体を二つに折り、それでも足りずに笑いながら体を揺らした。
制服が汚れるぞ、とエリーゼはハラハラする。
「俺はね。王子が大好きなんだ。幼い頃から仕えて、友人で主君ってのもあるけど、王子自体がいつも一生懸命で、かわいそうなくらい自分の立場をわかっている人でさ、守って差し上げたいって思ってるんだよね」
「へえ。リヒャルト様が女なら、王妃になれたのに残念ですね」
少し皮肉のつもりでエリーゼが言ったのに、以外にもリヒャルトは「そうだね」と首肯した。
「あ、そういう意味じゃないよ」
「私、何も言っていませんわ」
「今、そういう趣味だったのか、という顔をしたじゃないか。まあ、いいさ。そういうんじゃないんだけどーー」
リヒャルトはごろりと寝ころんだ。
「俺が好きになるのは、いつだって、王子に恋してる子なんだよな」
「王子に恋してる子? 王子が恋してる子、ではなく?」
「そう。王子に恋してる子。不毛だと思わないか?」
「思いますね。というか、その……少し趣味趣向が通好みというか、玄人っぽいというか……」
なんでこんな爽やかな青い空と風が気持ちいい昼下がりに、自分はリヒャルトとこんな性癖の話をしているのだろう、とエリーゼは少しむなしい気持ちになった。
「初恋、というほどのものじゃないんだけど。いや絶対違うんだけどさ、一番最初にかわいいなって思ったのに振られた人もそうだったんだ」
「へえ、そうなんですね」
棒読みである。
既にエリーゼが興味をなくしているのがわかったのだろう、にやりと笑うと、エリーゼの顔を覗き込む。
「誰だと思う?」
「誰でしょう? 私も知っている人でしょうか?」
「知っているさ。何しろーーリューネ姫だからね」




