お嬢様は会いに行くことにする
「ヘレネが病気だって、リューネ姫から聞いたのよ。学園祭に出られないほどなのかしら。普段からあんなに元気だったのに、まあ顔色はいつも悪かったけど、いつものことだと思ってたのに。でもまあ、確かに昔から時々体調は崩していたのよね。でも、学園の寮から屋敷に帰るほどって、どんな病気なのかしら、何か聞いている?」
ぶつぶつと独り言と会話の中間のように早口でまくしたてるリデア。喧嘩中だというのに、いや、だから余計にか、心配は募るようだった。
昼の中庭。最近ではすっかりエリーゼと、勝手についてくるアリィシアと、更にちゃっかりついてくるリデアの3人で昼ご飯のお弁当を食べる習慣となってしまっている。
アリィシアの人たらし能力というか、能力の成果というか、もうすっかりリデアは籠絡され、2人に心を許してしまっているようだった。
チョロすぎというか、アリィシアがすごいというか、なんか見てはいけないものを眼前で見せられている気持ちがして、エリーゼにとっては、なんとも居心地が悪い時間だ。
「わたしもエリーゼ様も、同じことしか聞けませんでした」
ねえ、としれっと嘘をつくアリィシアに、心苦しさを感じながらもエリーゼはうなずく。
「そうよね……。ヘレネも、なにも言わずに屋敷に帰るなんて……」
「そりゃおふたりは喧嘩中ですもの。ヘレネ様もバツが悪くて言えなかったのでは?」
けろりと言うアリィシアを、エリーゼは形だけでも咎める。
「アリィシア! そんな言い方はないでしょう!」
「そうでした。ごめんなさい」
「……いいのよ。ヘレネ……まだ怒っているのかしら……」
怒って距離を置いていたのはリデアでは? とエリーゼは思ったが、そこを指摘するような無粋なことはしない」
「怒って距離を置いていたのはリデア様の方では?」
「アリィシア!!」
「わかっているのですわ……」
言うか、それを言うか? 追い打ちをかけられたリデアががっくりと肩を落とした。しかし、エリーゼに叱責されたアリィシアは、任せとけと言わんばかりの視線を寄越した。
「逆に、いい機会じゃないですか」
「いい機会?」
「そうですよ。病気をすれば心細いもの。そこへリデア様がお見舞いに行き、心を尽くせば、すっかり仲直り!」
「でも、ヘレネはひどいことを言ったのに謝ってくれないのよ? わたくしから頭を下げるのは違うと思うの」
「リデア様のお気持ちはよくわかります。割り切れないお気持ちはありますでしょう。でも、ヘレネ様がそんなことを言ったのも……いつも通りのヘレネ様ではなかったからでは?」
「……どういうこと?」
「学園祭まであと2週間というこの時期に屋敷に帰るほどの病気ですよ。ずっと気分がすぐれなかったに決まっています。そういうときって、イライラしちゃうのでは? そして心にもないことを言っちゃったりするのでは? ってわたしは思うんですけど、リデア様、どうです?」
「心にもないこと……」
「そうですよ。頭が痛い、おなかが痛い、吐き気やめまいがする……まあなんでもいいですけど、そんなときに、つい言葉がきつくなってしまうことってあるのでは?」
「そうね。そういうことってあるかも……」
「だったら、きっと少し体調がよくなったら、ヘレネ様は後悔なさるんじゃないでしょうか。お二人は昔からのご友人でしょう。リデア様が寛大なお心で、優しく包んで差し上げれば、ヘレネ様も憂いなくご病気をなおすことができるんじゃないでしょうか!」
「……そうね。心細くなっている病人なんだから、寛大な心でやさしくしてあげなきゃね……」
「エリーゼ様もそう思いますよね?」
「え、ええ。そうね」
「寛大な心で……ヘレネを包み込む……素敵な私……」
多分、何も知らない人が見れば美しい説得の場面なのかもしれないが、アリィシアの瞳の桃色の煌めきが眩しすぎて、何とも言えずしょっぱい気分にしかなれない。
目の前で繰り広げられるあからさまな洗脳劇場を、エリーゼは頭痛をこらえて眺め続けた。
「もし、エリーゼさんさえよければ、ヘレネの屋敷についてきてくれないかしら?」
「えっ!」
リデアが潤んだ目でエリーゼを見上げている。
急な話の展開に、心がついていけていない。思わずエリーゼは口ごもる。
穴だらけではあったが、ヘレネの計画を潰したのは、結局エリーゼだ。
そんなエリーゼに、ヘレネに合わせる顔はあるのかーー。
「はい、よろこんで!」
「あなたには言っていないわ」
「リデア様冷たい……」
軽い調子で声を上げるアリィシアを見て、エリーゼは心を決めた。
多分、アリィシアはこの展開に持って行くために、リデアを焚きつけたのだろう。
ならば……ここは、話に乗らなければならないだろう。
そして、アリィシアも巻き込んでいいということだろう。巻き込んでやる。
「もちろん、喜んで行かせていただきますわ」




