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お嬢様は何度でも死亡フラグを折る  作者: 蓮葉
お嬢様は学園祭準備で巻き込まれる
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お嬢様は事情を聞く

 学園に帰ると夕方だった。

 ディールはエリーゼとリヒャルトをリューネ姫の住む寮の離れへと

案内し、離れに入ると、待機していたのであろう医師のところへリヒャルトは案内された。

 そして、エリーゼ1人がリューネ姫のいる部屋へと通されたのだ。


 「どういうことなのか、ご説明いただけると思っております」

 「あなたにしては強気ね」

 相変わらずにこりとリューネ姫は笑った。ネズミを猫がいたぶるような笑いだ。

 珍しく、本当に珍しく。エリーゼは従順な令嬢の皮を脱ぎ捨てて姫を睨んだ。

 

 「まあ、そんな怖い顔をしていないで、お茶を飲みなさいな。お菓子もつまんでいいのよ。街をふらふらしてお腹も空いたでしょうに」

 確かにお腹が空いているが、言いくるめられる気はない。

 そう言いたげなエリーゼの様子に、姫はふう、とわざとらしくため息をついた。

 「心配しなくとも説明はするわよ。そんな怖い顔をしなくともいいのよ」

 「すべて、ご説明いただけるのですか」

 「まあ……そうね、あなたの関わった範囲内くらいは説明するわよ」

 「……範囲外があるのですか」

 「少し事柄が入り組んでいるのよ。国家機密もあるので、そこまでは言えないわ。そこはわかってほしいわね」

 国家機密。

 エリーゼはごくりと唾を飲み込んだ。怒りの波が多少ひいていくのを感じる。

 「どこから話しましょうか……」

 「姫は、ヘレネさんが何をしようとしているのか、知っていたのですか」

 ヘレネはなぜ、自らを狂言誘拐しようとなどしたのか。

 そして何故、リューネはそれを自分たちに止めさせようとしたのか。

 リューネ姫は、ふっと無表情になった。鋭い眼光でエリーゼを見据える。

 「ヘレネの家のことは、どこまで知っているのかしら」

 ヘレネの家。つまり、実家のベッケンブルク家のことだろうか。

 

 「……建国時から王家に仕えていた名門で、ランサイスとの国境にほど近いリュレーヌ地方の領主で、現領主であるヘレネさんの父の祖母にあたる婦人がランサイス王家の出だと伺っております」

 「そうね。かなり昔に我々王家の血も入っているわ。だからヘレネにはこの国のかなり低い王位継承権と、大国ランサイスのかなり高い王位継承権がある。現当主の兄の息子であるヘレネの婚約者にもね」

 「はい」

 「最近、ランサイスよりもさらに西、大陸のはずれにある海洋大国、ポルガーニャに深刻な跡目騒動が起きたことは知っているかしら」

 「……いいえ」

 エリーゼはここからの話を察して、背筋を正した。


 外交問題・・・・


 この国は、とても小さい内陸の国であり、周囲を他の国に囲まれている。内陸の交通の要衝として位置するメリットと、周囲の大国の力関係に翻弄されるデメリットが背中合わせとなっている。外交問題抜きには、生きられない国だ。

 エリーゼの実家の領地は、山を隔てて南の古王国ロムニスに接しているため、南への要衝である。とはいえ、ロムニスとの関係は長らく良好であり、ロムニス自体が小国の寄せ集めで山を越えて領地拡大ということを考えにくい土地柄であるため、戦争は現実的ではない。

 北の共和国とも友好的であり、東のラントーは昔ながらの脅威であるが、しばらく国内の内紛が続いており、こちらに政治的に干渉してくる可能性はあれど、戦争として拡大してくる余裕はないというのが定説だ。

 しかしながら、『西側』の国々は脅威である。ランサイスが盾になっているとはいえ、島国イングルや、海洋大国ポルガーニャは好戦的で拡大主義であり、その情勢は、無関係ではありえないのであった。


 「ポルガーニャの王には子供がいない。国内の親戚にもめぼしい跡継ぎがいない。そこで、近隣諸国に嫁いだ一族の女が産んだ子供の誰かを跡継ぎにしようという動きがあるの」

 「ありがちな話ですね」

 「そうね。血筋が先細った家にはよくある話よ……。その候補として、ランサイスの王家の親戚と、イングルの王家の親戚と、ラントーの王家の親戚がそれぞれ手を挙げている、という状況でさえなければ」

 「……! それは……3国間で戦争になりそうだということですか?!」

 エリーゼは思わず大声を上げ、慌てて口をつぐんだ。

 その昔、ランサイスとイングルとの間で、100年に渡り、継承権を巡る戦争が起きたことがある。国土は荒廃し、周囲の国々も巻き込まれたと聞くが……。

 まさか、この時代にその再現がなされるというのか。


 「どこの国も、今の軍事大国ランサイスと戦争までは望んでいないでしょう。そこまでの余裕はきっとないわ。でも、きな臭くはなってくるでしょうね」

 小競り合いはどこかで起こるかもしれない、ということだろう。

 「それで……その話が、ヘレネさんとどう関わってくるというのですか……?」

 「玉突き、よ」

 姫はそう言うと、少し遠い目をした。

 「ランサイスが候補に立てようとしているポルガーニャの血を引く家系は、ランサイス王家の傍系のボルドネル家の方よ」

 「王家の血筋がいなくなったら、その次はボルドネルから……という順番の家ですね」

 「そう。そのボルドネルにポルガーニャの王女が嫁いでいる。『候補』の祖母がポルガーニャの王女なのよ。もし、『候補』がポルガーニャに行くのであれば、その後を埋める人間が必要よね。そして、ボルドネルの姉妹の1人が、この国の貴族に嫁いでいる」

 「どこの家……ですか?」

 「ベッケンブルク家の前当主。つまり、ヘレネの従兄の母よ」

 「……ベッケンブルクの次期当主は、曽祖母がランサイス王家の人間で、母が、ボルドネルの人間だったのですか」

 それは、かなりランサイスの王家の血が濃い。国境の家に隣国の血を濃くして、この国の国防は大丈夫なのか。

 エリーゼの視線の意味をしっかり感じたのか、姫はため息をついた。

 「情勢がかわったのよ。我々の祖父母世代まではランサイスの王権は弱くて、むしろ脅威はラントーの方だった。お祖母さま……現国王の母親だって、ラントーから押しつけられたほどの力関係だったわけだしね。逆にランサイスとは距離が遠くなりかけていた。渋るランサイスに国境の国防をおろそかにされないように、むしろ自分たちに攻めいられないよう、ベッケンブルク家がランサイスとの血縁を結ぶことを我々は止められなかったのよ」


 領主は、自分の領地を守ることが第一義であり、どこの国に属すかは、第二義である。

 王家はむしろ、各領主に離反されないように、気を使う立場だ。


 「ボルドネルは、自分の家と血縁が深い家の子で『候補』の周りを固めて、ポルガーニャの王家の継承権を狙っているわ。ランサイスの傍流だからこそ……一国の王権を手に入れるチャンスを逃す気はない」

 「そして、そこに割かれた人材を埋めるために、血縁の子を呼び寄せている、ということでしょうか?」

 玉突き、というのならば、そういう意味だろう。

 「そう。ベッケンブルクの次期当主であるフリッツは、すごくいいポジションなのよ。前当主からの相続時の約束でフリッツとヘレネが結婚してベッケンブルクを継ぐことになっているけど、もっと良い家を継げるならば、フリッツの権利は保たれる。現当主は叔父だから、本音ではその娘であるヘレネに継がせられれば夫がフリッツでなくとも良い。快くボルドネルに出せる」

 「ヘレネさんとの婚約を解消して、ボルドネルに行く……」

 「いえ、もう、行っている・・・・・のよ」

 「……!」

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