お嬢様は王女に問われる
「ふーん、それが不満なのね」
「不満というわけではありません」
「じゃあ、なんなのよ?」
「……」
正直、ディールが過去のエリーゼの言動ばかり持ち上げることに対する『何かイヤな感じ』をそこまでつっこんで考えたことはなかった。
しかし、王女に問われて何も答えないわけにはいかない。
「身の置き所がないというか……そんなことをいつまでも、今更、後生大事に、感謝しなくてもいいというか……そんな気持ちだと思います」
「ふぅん、そんな真面目至極に考えなくてもいいと思うんだけど」
「そうでしょうか」
「そうよ。だって、勝手に相手が恩義を感じてくれちゃってるんでしょ? しかも相手は超有能! ならば利用するのがご令嬢の嗜みってものでしょう」
「その、姫、言い方というものが……」
あまりにもあけすけすぎる。エリーゼは、他に誰かがいるはずもないのに、思わずあたりを見回してしまった。
「でも、本当のことでしょうに。あなただって、むしろーー他人に興味のないあなたこそ、結構、そこのところは割り切っているように思うのだけれど?」
他人に興味がないない言わないでほしい、とエリーゼは思った。いや、今までの自分の態度が悪いのだが……。
そもそも、エリーゼは他人に興味がないわけではない。
ーーただ、親しくなることを避けていただけだ。
いずれ、修道院へと入る身ーーいや、これは建前だ。
もしエリーゼの能力が公になれば、エリーゼは間違いなく疎まれるだろう。絶対に味方となってくれる相手など、いない……そう、エリーゼは覚悟している。
両親はできる限り守ってくれるだろう。今もそうだ。
ーーしかし、シュッツナムの家を潰すわけにはいかない。弟妹だけではなく、領地のすべての人たちに対して、領主である彼らは責任があるのだ。最後の最後で、エリーゼを選べないのが、彼らの立場だ。
師匠であるツェツェーリエは、契約により他言はしないだろう。
ーーしかし、当然ながら味方ではない。
ディールは……。
いや、ディールだって、自分の人生があるのだ。エリーゼのためにすべてを敵に回すわけがないし、そんなことがあってはならない。
結局、自分の心を守るため、単なる保身でしかない。
これ以上、嫌われて辛い相手を作るのが、イヤなのだ。
「それを言うならば、昔の、恥ずかしい自分の言動を思い出させるのがつらい……そんな経験は、姫にはございませんか?」
「……んぐぐ」
苦し紛れの反論に、しかし、リューネ姫は意外にも唸った。
「そ、そうね……誰にだって、そんなことはあるのかも……。理性じゃないわね、そういうの、そうね」
「何か、思い当たる節でも……」
「あーもう! 誰だってあるでしょうそんなもの。わたしにだってあるわ! いっぱいあるわ!」
リューネ姫は何を思い出したのか、エリーゼの言葉を遮った。
聞いてみたい気がしたが、質問するそぶりすら不興を買うだろう。エリーゼは安全策をとって黙り……。
「なぜ、そこで黙るの。わたしがこれだけわかりやすくコミュニケーションをとろうとしてるんだから、聞きなさいよ!」
リューネ姫がいらだった声をあげた。
「……聞いてほしかったのですか?!」
「違うわよ! 聞いたら、無礼者と一喝するところよ」
「……何をお望みですか?」
「あなたねぇ……」
リューネ姫は深々と嘆息すると、にやりと笑った。
「本当に、まだまだね。わたしが色々と、そう、色々と教えてあげなければならないようね」
背筋がゾクゾクとする。何を教えるというのだろうか。
「……ありがとうございます」
「違う!」
「何がですか?!」
「そこで礼を言わない!」
「……どうすればいいのですか?!」
エリーゼが思わず叫ぶと、リューネ姫ははあ、とこれみよがしにため息をついた。
「あなたって、本当だめね。私がもっともっと指導してあげないと」
「……ありがとうございます」
「今のは不服そうなのがわかるわ。おもしろいから及第点にしてあげる!」
リューネ姫はこんなにもメンドクサい人だっただろうか?
心を許して距離が近くなったからかもしれないーーと思いつつ、それが嬉しいことなのか、嬉しくないことなのか、エリーゼはにわかには決めかねていた。




