表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お嬢様は何度でも死亡フラグを折る  作者: 蓮葉
お嬢様は学園祭準備で巻き込まれる
43/81

お嬢様は疑問に思う

 カティナが寮に来るのは、実家絡みで何かがあるときだから、エリーゼはてっきり実家から前にカティナに託した手紙の返事が来たのだと思っていた。もちろん、カティナに中身は知らせていない。

 王子たちの口ぶりでは、父母であれば知っているはずだと踏んだからだ。


 「前にエリーゼ様にお渡しいただいた手紙ですが、エルダ様からもう少し返事を待って欲しいとのご連絡をいただいております」

 「お母様から? もう少し待って欲しいと?」

 どういうことだろう? エリーゼは首を傾げた。

 前にカティナに渡した手紙というのは、もちろん、『イシリーデルとは何か教えて欲しい』というものである。

 実家とエリーゼは、前線部隊と後詰め本陣のような間柄である。エリーゼが姫の側付きとして立ち回るための知識ともなれば、間違いなく速やかに教えてくれるはずだし、知らないなら知らないと言うのも情報の一つであるから、やはり速やかに教えてくれるはずである。

 もう少し待って欲しい……おかしな言い方だ。

 「やはりお困りでしょうか? 早くご回答いただけるよう、私からもせかしてみましょうか」

 カティナが気遣わしげにエリーゼに提案する。正直、すぐに知りたくてたまらないことだが、母親だってエリーゼの立場をわかってくれているはずだ。エリーゼだって、今回の王子と姫の話のことは詳細に記して相談したのだから。

 実家とエリーゼは運命共同体。相当なことがない限り、両親がエリーゼを理由なく困った立場に置くことはないという信頼感くらいはある。

 「……お母様にも何かお考えがあるのでしょう」

 「よろしいのですか」

 「いいです。……待ちます」

 イシリーデルについては、エリーゼが知らないと言ってしまった以上、王子たちも蒸し返すことはないだろう。それが何であっても王子にとって重要で、奪われると問題が多いものである、ということはわかる。

 具体的に何なのかわからなくてエリーゼはもやもやするが、まあ、それだけであると言えなくもない。


 ーーむしろ、お母様がすぐに回答しない理由は……何なのかしら?


 エルダは即断即決の人だ。そのエルダが、エリーゼの状況を知りながら回答を先延ばした……どんな理由があるのか、心がざわつくものを感じるエリーゼであった。


 ◇◇◇


 「リヒャルト様との噂がすごいことになってますねー」

 「……あなたが、それを言うの?」

 「てへ、ごめんなさい。わたしも発案側ですよね」

 いや、そう言う意味ではなく、リヒャルトの気持ちくらいわかっているだろうに……と口に出しては言わない。

 

  相変わらず昼ご飯の時間に押しかけてくるアリィシアにもすっかり慣れてしまい、最近では主にアリィシアとばかり食べている気がする。

  なお別に仲が良くなったわけではない。


 やはりというかなんというべきか、リヒャルトがエリーゼをエスコートするという事実は、多大なる尾ひれはひれをつけて回っている。

 リヒャルトにもエリーゼにも婚約者がいないこと、エリーゼの家格が高いことから、結婚もありえない話ではないという推測がなされているのだろう。

 王子と姫の間の架け橋になるべくセッティングされた縁談だとか、カモフラージュだとか、リヒャルトがエリーゼを見染めたのだとか、いやいやエリーゼが姫の権力を利用してリヒャルトを断れなくさせたのだとか……まあいろいろな推測が飛び交っているらしい。


 「リューネ姫が最初に否定してはくださったけれども、間違いなくこうなることなんて私だってすぐにわかったわ。何か、王子には他の策があるのかしら」

 「うーん……いや、王子は確かに策謀家……というか、ねちねちと人の足をすくうような策を考えるのがご趣味な人ですけど……思いつきで物を言うこともありますからね。今回はそっちの匂いがします」

 「……アリィシア、言い方が不敬すぎるわ」

 どん引きするほどの率直さである。しかしながら、エリーゼも最近は耐性がついてきたのか、それとも王子の評としては腑に落ちたのか、あまり強くとがめる気にはならなかった。


 もしかしたら……本当に、何かから人々の目をそらせるためのカモフラージュなのかもしれない。

 その内容に暫定恋敵……というエリーゼの予想が当たっているならば、なおさらリヒャルトをこんな風に使うなんて、意地が悪いとしか言いようがないら


 「わたしだって噂がまた・・追加されましたからね」

 「ロレンツィオ・デ・スパダのこと?」

 「まあ、そうです」


 王子にべったりとひっつき寵愛を得ており、リヒャルトにも気安く話をしている身の程知らずの女が、今度は他国から来たエキゾチックで金持ちの美男子とペアで舞踏会に出るのである。

 エリーゼの噂が好意的だと言えるほどに、あばずれ、ふしだら、尻軽、あらゆる罵詈雑言がアリィシアの噂に散りばめられ、そこら中に吹聴されていた。


 「……いいの? それで」

 「いいじゃないですか。噂なんて全部、学園祭が終わるまでですよ」

 「そうじゃないわ。いくらお役目とはいえ、あなた、貴族の娘でしょう。こんなに良くない噂を流されて、卒業後の社交界でやりにくくなるのではないの?」

 エリーゼの言葉に、アリィシアはにまーっと笑った。

 ……この表情が何を考えてのものなのか、いいかげんエリーゼだってわかるようになっている。

 「お嬢様、心配してくれてるんですかぁ?」

 「……心配じゃないわ。好奇心よ」

 慌てたり照れたりしてアリィシアを楽しませる気はない。エリーゼはそっけなく答えた。多少回答が食い気味になったのは気のせいである。

 しかしアリィシアは、気にすることもなく、またまたぁ、なんてバカっぽい声で言った。解せぬ。

 「大丈夫ですよ。どんなに気に入らない相手だって、王子とリヒャルト様っていう強力なコネがあれば、みんな無碍にはできないもんです。……むしろ、学園の中にいるより、実利が生まれる卒業後の方がシビアになるでしょう」

 「……あなた、でもそれって、完全に『悪役』になるってことじゃない」


 軽蔑され、利用されるだけの存在に。

 表向きだけは媚びへつらう人々に囲まれ、心を許せばあっという間に食いつぶされる対象になるという選択だ。


 「ロマンス物語とかでもよくありますよね。主人公の前に現れる、身分の高い人の威光を傘に来ていじわるをする『悪役令嬢』、『成り上がりタイプの愛人』! 物語には一人いれば盛り上がりますよ」

 「人生は物語じゃないわ」

 「まあそうなんですけどねぇ」

 腹立たしいくらいに相変わらず軽い口調で言う。わかっているのだ。エリーゼが何を言ったところで、アリィシアは覚悟を完全にキメてしまっているーー。


 「ねえお嬢様、修道院なんかに行かずに、わたしと一緒にですね、姫と王子のために働きません?」

 「は?」

 急にアリィシアがこんなことを言い出すものだから、エリーゼは驚いた。

 前を向いていたアリィシアが突然振り返り、エリーゼの手をぎゅっと握る。エリーゼはその力の強さにドキリとした。

 「王子はきっと大歓迎ですよ。お嬢様のこと気に入っていらっしゃるから。ディールくんも喜ぶんじゃないかな。ね、修道院なんてやめましょうよ!」

 「家の方針なのよ。簡単にやめられるものではないわ」

 あと何故ディールがここで出てくるのか。突っ込むのも何故かなんとなく嫌でスルーする。

 「でも、リューネ姫の側付きになるためにこの学園に入学したんでしょう? リューネ姫がご結婚されるまでは修道院には行かないってわたし、聞きましたし。王家のご威光には、ご実家だって逆らえないってことですよね?」

 「……何が言いたいの、あなた」

 今度はアリィシアの方が食い気味に言葉を続ける。

 さて、この発言は、はたしてアリィシアの思いつきなのか、その背後の王子が何かを考えているのかーーエリーゼを駒として取り込むことを考えているということなのかーー読み解けない。自然とエリーゼは警戒心を強くした。


 エリーゼの修道院行きは、この能力を隠すためのものだから、変えられない。だから、長く社交界にはいられない。卒業後、そんなに間を置かずに結婚することが定められているリューネ姫の側付きでいるのがギリギリのラインだ。

 そう、貴族の娘が結婚適齢期に社交界にいて、結婚しないわけにはいかないからだ。


 「無理よ。それに、私自身が修道院に行くことを望んでるの」

 「……気なんて変わりますよ。絶対そうです」

 やけに桃色にキラキラと煌めくアリィシアの瞳に、エリーゼは何故か息をのんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ