表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お嬢様は何度でも死亡フラグを折る  作者: 蓮葉
お嬢様は学園祭準備で巻き込まれる
39/81

お嬢様は見当がつかない



 「そんなこんなで……リヒャルト様にエスコートされるという恐ろしい事実については、受け入れざるを得なかったわ……」

 「そんなに恐ろしい事実なのか?」

 「恐ろしいわよ。リヒャルト様は、女子の間で密かに大人気なのよ」

 「ふむふむ」

 「まだ婚約者もいらっしゃらないから、今回の舞踏会でもお近づきになりたいけれども壁があるから近づけない、という女子たちが遠巻きにリヒャルト様を憧れの目で見ているのよ」

 「はぐはぐ」

 「聞いてる?」

 「もちろん聞いているともさ」

 塩抜きしてある柔らかく煮た鶏肉に身体全体を使って食らいつきながら、黒猫はやけに真面目な声でそう言った。

 仕草の可愛らしさと、低い声の真面目さがアンバランス過ぎて、エリーゼはくすりと笑った。


 夕暮れ時の寮の一室。

 とうとう、鶏肉を部屋に常備するご令嬢になってしまったエリーゼは、最近、特に意味がなくとも餌をねだりに部屋に訪れることが多くなったヴァイス相手に、今日の出来事を話していた。


 「本当でしょうね……? 話を続けるわよ。相手のいないリヒャルト様に、私がエスコート相手として出てきたりしたら、もしかして恋のお相手じゃないかと大騒動になるんじゃないかというのが不安なのよ。否定するけど邪推されるでしょう。それに否定しすぎるのも失礼に当たるから、本当にお互いに迷惑なことなのよ。王子も何を考えていらっしゃるのか……」

 黒猫は、小さい手を、てしてし、と意味もなく空中に向かって振り上げた。人間で言うならば、人差し指を立てて振るような仕草をしようとしたのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。

 そこのあたりは関係ない、可愛い。

 「お嬢様をリヒャルトという人間にあてがおうとしているわけではないのか? その、恋人とかとしてだな」

 「うーん……その線については、私も考えなくはなかったのだけど……そんな感じでもなかったような気がして……。そもそもリヒャルト様にまったくその気がなさそうだし……」

 「男女の仲というのはわからないものだし、距離の近さがあればお互いに良いところを知ることもあるだろう。お見合いとはそのようなものでは?」

 「猫に男女の仲を語られる私って一体……。うーん、でも、王子も姫も、私が修道院に行くとは知ってるはずだから、私を"お相手に"とはしないと思うのだけど……」

 考えてみれば、エリーゼである必要が本当にあったのかは謎だ。

 リューネ姫が動かせる駒は、エリーゼだけではない。リヒャルトの役目を言い含めれば、喜んで『目くらまし』役をやってくれるご令嬢だっているのでは……。

 「リューネ姫が動かせる"取り巻き"は、やはり貴族としての格が高い家の出身が多いし、婚約者がもういる人もそれなりに多いのよね。一番長く取り巻きをしているヘレネ嬢は婚約者がいらっしゃるし、リデア嬢は、最近、相手の家の都合で婚約破棄をなさったと聞いているけど、逆に降るほどの縁談が来ていると聞くし」

 エリーゼは天井をあおいだ。

 「わからないわ」

 「ふーん、そうか」

 「……」

 自分から話を振っておいて飽きたのか、猫にあるまじき腹を見せた体制であくびなどしているヴァイスを見て、エリーゼはため息をついた。

 これだから子猫は、マイペースで困る。

 そんなエリーゼの苛立ちを知ってか知らずか、ヴァイスはエリーゼに問いかけた。


 「で、リヒャルトという人間はどういう任務を得ていたんだ?」

 「そうなのよ。私もはっと気がついて、その後、聞いてみたんだけどね」

 「けど……?」

 「はっきりとしたことはわからなかったのよねぇ……」


 エリーゼは、昼間のことを思い出していた。


 ロレンツォのいる場所で先ほどの話をしてもいいものかはかりかねたエリーゼは、ロレンツォとアリィシアが再度いなくなってから、思い切って聞いてみたのだ。


 「今回は、何があったのですか? リヒャルト様のお役目とは、どういうものなのでしょうか……」

 しばしの沈黙。

 おそらくはエリーゼにどこまで話すかということを推し量っているのだろうが、それならばエリーゼを巻き込むときにどこまで情報を開示するか、決めておいてほしいとエリーゼは切に思った。

 「実は、まだよくわからないのだよ」

 王子がため息をつきながらそう言った。

 「……と、言われますと?」

 「何かが起ころうとしているのだろうが、それが何か、まだわからないというべきか」

 「……申し訳ございません、王子。愚昧な身では、意味をはかりかねます」

 王子はリヒャルトを見た。王子に変わって、彼が発言する。

 「王子のイシリーデルが盗まれたのだ」

 重々しく宣言するかのように、リヒャルトが言った。

 「……イシリーデルとは?」

 エリーゼが聞き返すと、何故か三人とも、えっ、と驚いたような顔になる。

 「イシリーデルですが、ご存じないのですか?」

 「存じ上げません」

 リヒャルトの問いに答えると、何故かリヒャルトが呆気にとられた顔になった。

 「えっ、でもエリーゼ、あなた、シュッツナム家は王家の血を結構濃く引いているわよね? 王位継承権も一応持っているのでしょう?」

 「は、はい。それが……関係あるのでしょうか」

 リューネ姫が、何故か絶句して、まじまじとエリーゼを見た。

 「知らなかったのか……」

 王子が信じられないという顔で言う。

  三人は顔を見合わせた。

 「……シュッツナム家は伝えない方針なのだろうか」

 「そうかもしれませんね」

 「ならばわたしたちが変に伝えると、方針に反することになるのかしら」

 「まさかシュッツナム家のご令嬢にイシリーデルがないとは思えないが……」

 「エリーゼは早くから家を継がずに神に仕えるものと決められていたらしいから、その関係でイシリーデルについて伝えられていないのかも……」


 「あのー……」

  三人にそんな反応をされては、ものすごく不安になる。

 「イシリーデルとは何なのでしょうか……?」


 再度問うたエリーゼに、三人が返したのは、沈黙だった。


 ◇◇◇


 「と、言うわけなのよ」

 「で、イシリーデルとは何なのだ?」

 「それがわからなくて困ってるのよ」

 「実家に聞いてはどうだ?」

 「そうね、そうしてみるわ。明日はリーズが来る日だから、カティナに手紙を言付けてもらおうと思ってるのよ」

 何なのだイシリーデルとは。三人の言葉を総合すると、『王家に連なる人間』ならば『個人で』持っていておかしくないものであり、盗めるのだから『物』なのであろう。そして、盗まれれば警戒すべき『物』である。

 まったく検討がつかない。

 語感からも、まったく想像がつかない。何なのだイシリーデル。


 エリーゼがイシリーデルのことを知らないとわかったときから、三人の言葉は俄然要領を得ない発言へと切り替わったが、それでもなんとか読み解くに、王子のイシリーデルを使えば、王子本人に害を与えることができるらしい。どんな方法かはわからないが。

 なので、そのイシリーデルを盗んで利用しようという犯人がいるならば、敢えて学園祭という外部の人間も入り込める舞台を利用して、王子に計画的な隙を作り、犯人をあぶり出そうという計画のようだった。


 「イシリーデルって何なのかしら……。あなた本当は知ってるんじゃない?」

 「前にも言ったが、俺はいたいけな子猫なのだから、そういった込み入った事情まではわからない」

 「そういえば、あなた最近、警告も選択肢も全然見せてくれないわね。仕事していないんじゃないかしら。あなたの主はそれでいいの?」

 「……俺の主はあなただが、まあいい。お嬢様、あなたが間違った道に入りそうになれば、警告も選択肢も見せるさ。今はそれほど切迫していないということで納得してはくれないかね」

 「まあ、それならば、いいのだけど」


 別に、一歩間違えれば『デッドエンド』になる毎日を送りたいわけではない。

 黒猫の警告が緩いのであれば、それはそれでエリーゼの身も安全なのだろうから。

 今回の、舞踏会のエスコートの件だって、ヴァイスが何も言わないのならば安心だーー。


 ーーすっかり、この黒猫の言葉を信じ切っている自分に気づき、エリーゼはほんの少し危機感を覚えたが、深く追及することはやめた。

 最近は初めての経験や、考えるべきことが多すぎて、いろんな疑問が自分の手に負えない状態なのであった。

 まさしく、すべてを疑っていては、自分の立ち位置も動き方もわからなくなってしまう。ヴァイスを信じられるのならばーーもう、それでいいのではないか、と多少、エリーゼ自身も思考停止している部分はあるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ