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お嬢様は何度でも死亡フラグを折る  作者: 蓮葉
お嬢様は学園祭準備で巻き込まれる
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プロローグ:リヒャルトは知っている

 リヒャルトは知っている。

 自分はいつも王子の"当て馬"だということを。


 最初にアリィシアに会った時、目の前に虹色がぱっと広がった。目の前の少女がかけがえのない人だと心が陶酔の悲鳴をあげた。

 一目惚れだった。今までにないくらいに世界が輝いて見えた。彼女のためならば、なんでもできると思った。

 もちろん、それはアリィシアの能力によるものであり、真実の恋心ではなかったわけだが……。


 別に、あの、アリィシアの能力で、心が動かされたわけではない。ただ、それまで『恋』というものを知らなかった彼が、その世界をかいま見てしまったことだけは確かだった。

 彼が、王子に叶わぬ恋をしながら、その身も心も捧げて不毛な努力を続けるアリィシアに好意を抱いたのは、同じく王子に仕える身としてその忠誠心と愛情の狭間にある彼女の感情を、悲しいまでに愛おしく思ったからであり、彼女の能力によるものではない。

 ただ、それをうまく説明できない気がして、リヒャルトは、アリィシアにこの思いを告げることを躊躇し続けていた。


 ただ、それだけであれば、別に、"今回も"当て馬だったわけではない。ただの叶わない片思いを胸に、アリィシアを見ているだけ、ということだったろう。


 リヒャルトは王子との付き合いが長い。生まれた時から王子の側近としての未来を嘱望され、物心ついたときには、王家と親の意向により、王子の側に仕えていた。

 だから、王子のことは、本人と同じくらいにわかる。

 だからーー王子もまた、アリィシアに恋をしていることを知っている。


 王子は、いつも笑顔で正しい行動を行い、大人びていて公平で合理的な判断を行う。王家の一人として、正しいと誰もが思う行動を取れるーーそんな、王として人々の上に立つべき器をすでに備えている。

 彼は『人間的な部分』など求められず生きてきたーー公人の中の公人だ。

 リヒャルトは、そんな彼を君主として誇らしく思い、同時に幼なじみとして気の毒に思っている。時々、見ていると辛くなるときすらある。

 そんな彼に残された『人間的な部分』が、アリィシアに揺るがされた。


 彼も、また、ただの16歳の少年なのだ。

 アリィシアのような可愛い女の子が、身も心も捧げて自分に尽くし、恋愛の情を必死に自分に注ぐ姿を見て、心が揺らがないはずがない。

 王子はアリィシアに恋をしている。本当は、アリィシアを守りたくて囲いたくて、自分の側から離したくもないのだろう。

 王子の恋もまた、叶わぬ恋だ。


 いやーー正確にはそうではない。二人は、立場上、結婚できないだけであり、愛人として一生を添い遂げることならばできるだろう。

 しかし、真面目な王子は、アリィシアをそんな立場に置くことを躊躇している。

 そこにーー自分が付け入る隙はあるのかもしれないがーー二人をずっと見ているリヒャルトには、その選択肢を選ぶべきなのか迷ってしまうのだ。


 それに、アリィシアの目に自分がまったく映っていないことを知っている。

 もし、自分がアリィシアに言い寄ったりしたらーーアリィシアと王子の心の危うい均衡が揺れて、思いが通ってしまうのではないかという汚い計算もあった。

 なにしろ、王子にはこの気持ちはバレている。

 それもあってーー王子は、アリィシアを諦めることができない。

 アリィシアの手を取れないのに、目の前のリヒャルトにとられるのだけはイヤなのだ。……王子とリヒャルトとの距離が近すぎて、思いの届かなかったアリィシアが他人の手を取る様を見せつけられ過ぎてしまう。

 王子だって人間だ。それには耐えられない。


 だから、思いを伝えても、王子は、きっとアリィシアを自分に渡さないだろう。

 むしろ、きっと王子を決意させてしまう。結婚できずとも、リヒャルトに渡すのはイヤだと、結婚できずとも結ばれる決意を早めるだけだろう。

 王子とアリィシアの思いは成就する方向に動いてしまう。

 だから、どうせ、自分は、なれて、"当て馬"なのである。

 ーーあの時のように。


 いや、と、浮かんだ記憶を、リヒャルトは否定する。


 "あの子"に対する気持ちは恋ではなかった。絶対になかった。これっぽっちもなかった。アリィシアの能力で見せられた世界が虹色になるような美しい思い出ではないし、何度考えても、あの時の自分は、単に役に立ちたいという忠誠心だけであったと思う。

 何度思い返しても、恋などではない。少し騎士ナイト気取りだっただけだ。

 ただ、当て馬にされたーーいや、少女は思い人にまったくその気持ちを気づかれなかったのだから、当て馬に"すら"なれなかったという腹立たしさがあっただけだ。


 ーー『こんなところで何をしているの?』

 ーー『わたしも、うまく踊れないの。練習台になってあげてもいいわよ』

 ーー『あなたもうまく踊れるようになってよかったわね』

 ーー『これで、おにいさまはわたしを見直してくれるわ!』


 見た目だけは妖精のようだった少女との幼い記憶は、今でも苦々しいものを心に浮かび上がらせる。

 そもそも、今でもいつも顔を合わせるたびに腹立たしい思いをする。会話に棘があるのだ。あのお方は。

 そう、気が合わない、という言葉が正しい。


 本当に気が合わないのだ! 自分と、あの、リューネ姫とは!

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