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お嬢様は何度でも死亡フラグを折る  作者: 蓮葉
お嬢様は舞踏会で巻き込まれる
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お嬢様は気づきつつある


 ドレス姿で離れに向かうわけには行かない。侍女のお仕着せに着替え、ブレスレットの形をした認識阻害の魔導具をつける。

 着替えの間、別の場所にいたディールは、認識阻害の魔法をかける間も何か言いたげに不機嫌な顔をしていたが、リューネ姫の前であることもあり、特に発言はなかった。

 なお、アリィシアは、部屋の外で待機していたリューネ姫の侍女とともに、リューネ姫として、部屋に戻っていった。大丈夫だろうか、と思ったが……まあ、あの子は図太いから、大丈夫だろうと思い直す。何しろ、たぶん、プロだ。

 むしろエリーゼは自分のこれからを心配すべきである。


 「事情についてはどこまで知っているのかしら」

 「恐縮ですが姫、まったく存じ上げません」

 「……どこから知らないのかしら」

 「何故、ディールとアリィシアがここにいるのかすらわかりません」

 「なるほど……当初の予定通りならば、特に話す必要はなかったわね」

 リューネ姫は、ほんの少し目を細めた。何を話すのか考えているのだろう。

 エリーゼもまた、緊張する。あの礼拝堂で起こった出来事から、ずっと不穏にも振り回されている一連の事柄について、ついに説明がなされるのだ。

 「母がランサイスから嫁いできた時に、ルイーズというランサイス貴族の娘を連れてきたのよ。そのルイーズが連れ去られたの。そして、その相手は、無事にルイーズを返してほしければ、ある事柄を認めろと、我が両親に要求したわ。ただ、その事柄は事実無根だったから、両親は拒絶した。そこで、相手は私をターゲットにしたのよ」

 「もしかして、あのとき、礼拝堂で……」

 「おそらくはあなたの想像通りよ。あの男たちは、学園の生徒ではなかった。誰か手引きした者がいるのでしょうね。私に、その事柄を認めて、魔導証明を行えと通告してきたのよ」


 魔導証明。人間がひとりひとり、指紋と同じく、有する魔力のパターンが違うことを利用して、書面に書かれていることが正しいと証明する魔法である。

 他人と魔力パターンが一致することはないから、契約の締結、証明書や証言の記載に関しては、絶大なる信頼性を有する。

 特に、契約書面に魔導証明を使うことで、その契約書に記載された宣誓を決して破ることができないーー破ると記載されたペナルティがすぐさま課されるーーという使い方をすることすらできる、使い方によっては恐ろしいシロモノだ。簡単に相手に強制できるようなものではない。

 なお、エリーゼの"例の能力"を知る者は、魔法の師匠であるツェツェーリエとディールだが、エリーゼの父母は、ツェツェーリエに相談した際に、『エリーゼの能力についてエリーゼの父母に了承を得ずに他人に話した場合、二度と魔法が使えなくなる』という重い誓約を課していると聞く。……それだけ、エリーゼの能力は、隠されるべきものだと父母は認識していたのだ。


 そんな魔導証明を求められるような、"ある事柄"とは何なのだろうかーー

 当然の疑問をエリーゼが抱いていることをリューネ姫も察したのだろう。珍しくためらった表情になった。

 「公に認知はされていないけど、ルイーズは、ランサイス国王の庶子で、母の妹に当たるの。顔もとても似ているから、表には出られない身よ。だから、結婚もできなかった。そんなルイーズがなぜ母の側にいるかと言うと……ランサイス側のもくろみがあってのことよ」

 もくろみ。

 もしかしてーーとエリーゼにも想像できることがあった。

 まず、考えられるのは、影武者。

 そして、もしかして、ランサイスは、王弟妃に子供ができなかったときのために、妹のルイーズに子供を生ませるという手段も考えていたのではないかーー。

 もともと、王弟妃は、王太子妃だった。その子が次の国王になるとランサイスは確信していただろう。どうしても、ランサイスの血を引く子供が必要だったのだ。 

 「……しかし、正規の結婚でなければ、王位継承権は……」


 この国の周辺国は同一の相続法を採択している。

 この国もそうだが、王侯貴族は一夫一婦制であり、教会ーー神に認められた正式な夫婦の間に生まれた子供のみが相続権を有する。

 特に王家であれば、王位継承権は、正式な結婚により生まれた嫡出の子供だけが有するものであり、愛人の子供である庶子には王位継承権は認められない。

 たとえルイーズがランサイス国王の子供であっても、庶子である限り、王の子であると認知されても、ランサイスの王位継承権を持たないのだ。もちろん、この国の王家の子供を産んだとしても、同じこととなる。正式な結婚でない子供には王位継承権が認められない。

 貴族の家督に関しては、正式の結婚による跡継ぎがいない場合、庶子を親戚の養子にして嫡出の地位を与え、さらに該当する貴族の養子にして家督を継がせる……という裏技が使えなくもない。

 しかし、王家に限っては、本妻の養子にしても、本妻が産んだ子以外は、決して王位継承権が認められないのだ。


 「屋敷の奥で全てを誤魔化すつもりだったのでしょう。母が生んだことにすればよいのだと。顔も似ている姉妹であれば、子供が生まれるまで誤魔化せば、なんとかなると思ったのかもしれないわ。もちろん、その必要はなかったのだけど」

 「それならば、何故?」

 「真実などどうでもいいのよ。ただ、ルイーズがそのような使命を帯びていたのは事実。ならば、その疑いを、本物らしく見せればいいと、誰かが思ったのでしょうね」

 「……リューネ姫が、ルイーズ様の子だと魔導証明させることで、王位継承権者から追い落とそうと、誰かが考えているということですか」

 「そういうことよ」

 「なんと、無理筋な……」

 本当にそうならばともかく、それが事実無根ならば、誰も魔導証明などしないだろう。

 王弟派にとってみれば、王弟が王位を継いでその跡継ぎは、ランサイス王家に連なる誰かと結婚したリューネ姫であり、さらにその次の王位はランサイスとの繋がりがより深いリューネ姫の子供である、というところまで含めて見越しているのだから、王位継承権者としてのリューネ姫という存在はなければならないものだ。

 もし、リューネ姫という王位継承権者がいなければ、王弟の跡継ぎは結局、フェリクス王子になってしまう。そうなれば、ランサイスとのつながりはまたしても薄くなってしまうのだから。

 「しかし、それならばむしろ、リューネ姫は行ってはならないのではないですか。御身が人質に取られたりすれば、たいへんなことになるのではないでしょうか。特に、ルイーズ様を『先生』が助けに行ってくれるのならば、リューネ姫が危険を冒す必要など……ないのではないでしょうか」


 「今からでは、間に合わないわ」


 はっきりと、確信を持って、リューネ姫は言った。

 「明日の朝を待たず、ルイーズは死ぬ。殺されるのではなく、自分で、命を絶つわ。先生は、その証拠を……拾いに行くだけ」

 エリーゼは思わず、息を飲む。

 「父も、母も、そしてルイーズ自身も、もうルイーズを助ける気などないのよ。こうなった以上、ルイーズに求められているのは、疑われるタネになる自分の存在を消し去ることだけ」

 リューネ姫の唇が震えた。すっと瞳を閉じる。声が、震えている。

 「私、ずっと育ててくれたルイーズに、そんな最後を迎えてほしくなかった……。だから、ルイーズの居場所を、できれば今日中に聞き出したい。それが無理でも、絶対に違うのだと、誤解なのだと、せめて、ルイーズの命を無駄にしないように、ルイーズを利用しようとした奴の顔を見て、言ってやるの」

 エリーゼは、その声に、気丈さと恐怖の両方を感じ取った。

 ーーはっきり言う。リューネ姫の行動は矛盾している。ルイーズが命を賭して守ろうとしているのは、誰あろうリューネ姫自身であろうに、そのリューネ姫自身を危険に晒してどうしようというのか。

 王子も王子である。これは、明らかに、リューネ姫を使って、黒幕をあぶり出そうとする囮作戦である。本当ならばこんな危険なことに、姫の御身を動かして良いものではない。

 王子はリューネ姫に力を貸したのだろう。しかし、それはリューネ姫にとって、決して良いことではない。本来ならば諫めなければならないような事柄である。


 ーーそれでも、じっとしていられないのだーー


 リューネ姫の言葉に、エリーゼは、初めて彼女の内面にふれたような思いになる。ずっと公の顔をした、姫の役割を果たすことに忠実な、そんな建前ばかり見ていた。でも、その建前の下の本音に、本当に彼女が大切にしているものに、触れてしまったような気がした。

 エリーゼと彼女は、そんな、近い間柄では、なかったのにーー。


 「あなたにとってはいい迷惑よね、エリーゼ。こんなことに巻き込んで、あなた自身に何かあってはーーもし、今からでも、ディールがいるのだから、ああは言ったけれども……」

 「構いません」

 一瞬、ディールが期待するかのような視線を投げたが、エリーゼは無視して言い切った。

 「私は、あなたを守るためにここにいるのです」

 そんな言葉が、口をついた。

 リューネ姫の目が見開かれる。

 エリーゼ自身も、その言葉に自分自身が驚いた。そして、それが自分の本心からの言葉であるということに驚いた。

 ただ、今は目の前の、一人の少女を守りたかった。自分にその力があるのならば、彼女の心を守りたかった。

 今まで、ただの『役目』として側にいただけの、やんごとなき『王女』ではなく、目の前にいる、数年を一緒にすごした、少女を助けたいと思った。

 そのために、また、自分の忌まわしい力を使うとしても。

 いや、必要とあらば、きっと自分は使うだろうという確信があった。


 ーーええそうね。私たちは同じなのかもしれないわね、アリィシア。


 自分の忌まわしい力が誰かのためになったときに、きっと生まれてきた意味を感じられると言い切ったアリィシア。

 エリーゼが求めていたのも、もしかしたら、それだったのかもしれなかった。

 自分が、誰かの役に立てるならば、きっとその時、生まれてきた意味があったのだと、感じられるかもしれない。


 「ありがとう、エリーゼ」

 小さな声で、うつむいてリューネ姫は、そう言った。

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