#6 MY FRIENDS WHO HAVE EACH LIFE
"生きている友達"
必要以上に、騒がしいのです。
夕令高校
この物語の舞台。通称ユーレイ高校。
名前の因果か怪談の絶えない私立高校。
切崎メイ
銀髪の少女。学校の女子にすこぶる人気。
木刀を使って戦う、勝気な乙女。
ピンクパーカー愛用。巨乳。
洋画好き。
殴坂ユナ
黒髪ロングの美少女。つかみどころのない不思議ちゃん。
格闘戦が得意。近隣では「赤ジャーの殴坂」と恐れられる元伝説の不良。
ストッキング愛用。貧乳。
平成仮面ライダーが好き。
噂堂カケル
金髪はまさかの染めたもの。人脈の広い情報通。
チャラいけど実は人は大事にする優しい青年。
黒いヘアバンドを愛用している。成績はすこぶる悪い。
メタルギアソリッドシリーズが好き。
聴波 ハルカ
焦げ茶の髪を二つに結ったメガネ少女。魂の声を聞くことが出来る。
引っ込み思案だけど友達思い。成績は学校一番。
トイレの花子さんに出逢った少女。
ジョジョの奇妙な冒険が好き。
癖になっているのか、昼休みになるとハルカは例のトイレに向かってしまう。彼女は屋上で、そのまま行くかどうか迷っていた。
「……」
二秒黙ったあと、振り向く。行っても彼女は返事をしてくれないだろうから。
「ハルカちゃん」
「あっ……殴坂さん」
追いかけて来たのか、ユナが彼女の後ろにいた。心配だと顔に書いている。
「もし……私達と食べるのが嫌だっていうなら……」
「違うの!癖なの……」
ハルカは言葉を遮った。
「だって私……一年以上こうしてたから」
まるで自虐するかのように言葉を綴った。ユナは何も言わず微笑み返す。
「行きましょ。あの子らが待ってるわよ」
二人は屋上を後にした。
夕令高校には食堂がある。安くて美味いと評判で人が多く集まっていた。メイとユナ、そしてカケルはよくここでランチタイムを過ごしている。
女子二人は弁当持参なのだが、カケルが食堂でいつも麺類を食べている。いつの間にか、集合して食べるのがお決まりになっていた。
最近このメンバーが四人になった。聴波ハルカが加わったのだ。少々遠慮がちに、まるで兎が食べるような量のお弁当を食べている。
「ハルカ先輩は……聞こえるんですよね?霊の声が」
「え……う、うん!」
「この学校、やっぱ聞こえるんすか?」
カケルがハルカに興味ありげに聞く。
「ぜ、全然だよ。この学校では花子さんが初めてだったもん」
少し慣れない様子で彼女は返事をした。
「あれ?ハルカちゃんまだ緊張してるんすか?早く慣れましょうよ」
ユナがカケルのヘアバンドを引っ掴んだ。
「あら、噂堂くん……年上相手に生意気してると」
彼女が手を離すと、カケルの額にバンドが勢いよく当たった。小気味の良い音が響いた。
「いってぇ!」
「あんたがそんな風にチャラチャラしてるから、ハルカちゃんが怖がるのよ。いい加減にしないと。貴方……死ぬわよ」
「細木数子かあんたは……」
カケルは頭をさする。
「あははは!」
ハルカはけたけたと心地よい笑い声を上げた。それを嬉しそうにメイは眺めた。
「お前って結構ゲラだよな」
「え?そうなの?」
ハルカはそんなことを言われるのが初めてなようだ。目を丸くした。
「殴坂さんが変なことばっかり言うからだよ」
ユナは不満そうな顔をする。
「ダメよハルカちゃん」
「え?」
「私が変なことを言うのは認めるわ」
認めるのか……。メイがつぶやく。
「私の事はユナちゃんとお呼びなさい。殴坂さんっていうのは固いわ」
「えっ……いいの?」
少し恥ずかしそうにした後、ハルカは小声で名前を呼んだ。
「ユナ……ちゃん」
「うわ、超可愛い。好き!」
ユナは激しい動作で仰け反った。椅子がガタガタと地面を鳴らす。
「やめて、可愛くないよ……」
「そういえば、ハルカちゃ……」
カケルの言葉にユナの目付きが鋭くなる。
「あん!?」
「ハ……ハルカ先輩」
訂正された言葉にハルカは応じた。
「どしたの?」
「この学校では二つの派閥があるじゃないですか?メイ先輩派閥とユナ先輩派閥」
「そうだね」
「そうだねじゃねぇよ」
悪習だろ。ハルカが肯定したことにメイは頭を搔きながら呟いた。
「ハルカ先輩はどっち派ですか?」
「ユナちゃん派」
即答だった。
「あらハルカちゃん……センス無いわね」
ユナは口を尖らせる。自身が『メイちゃんファンクラブ』創設者を自称するほど、彼女はメイ派の人間なのだ。
「は〜やっぱそうなんすね。流石『赤いジャージ同盟』会員だ」
カケルは大して驚く様子もなく言った。
「あっ、噂堂くん知ってるんだ」
「当たり前っすよ」
そんな二人のやり取りに、ユナは納得の行かない顔と驚きの顔を交互にしていた。スイッチで切り替えてるかの如く規則的である。
「ちょ……ちょ、ちょっと待って……なに、その不名誉な名前の同盟。」
「何って、あんたのファンクラブだけど」
非公認じゃん‼カケルのカミングアウトにユナは叫び散らした。食堂全員の注目を集める。
「は?知らない!私知らないわそんな同盟!」
「えっ知らなかったんすか?多分一昨年の三月くらいからありますけど。」
「嘘ッ⁉」
驚きでユナの開いた口が塞がらない。
「そういえば、この前めでたく会員数が四桁超えましたね」
「やだぁ!規模がおっきい‼」
自分の『赤いジャージの殴坂』と呼ばれていた時代が大嫌いなユナからすれば、ファンクラブなどイジメに近かった。そんなユナにメイが声をかける。
「あっ、ユナ。」
「なによ」。
「№1000は私だわ」
メイのVサインに、ユナは狙撃されたように膝から崩れた。
「お前かいッ!何で入ってんの⁉」
「この前の仕返し」
嬉しそうにメイが勝利の笑みを浮かべる。ユナは足を震わせながら立ち上がり、ハルカに説得をするかのように語りかけた。
「ハルカちゃん?……私のファンより多分メイの方がやってて楽しいわよ。だってメイの方が可愛いし‼」
「イヤミか貴様ッ」
メイは苦虫を潰したような顔をする。ユナは今まで何度もモデル事務所にスカウトされた過去があるほどの美貌の持ち主である。メイからすれば造形として整っているのは確実にユナだと思っているのだ。
「無理だよユナちゃん」
「なんで」
ユナは強く否定してきた彼女の目をじっと見つめた。
「会員ナンバー七の私としては……ファンを辞める気はないというか」
「七⁉こっ、古参じゃん」
いつもとは違う、慌てふためくユナに一同は声を上げて笑った。
「私……ユナちゃんは覚えてないと思うんだけど、『赤ジャーの殴坂』時代にユナちゃんに助けて貰ったことがあるの」
「やめて……その黒歴史の塊だった時の私の事を思い出させないで……」
ユナは頭を抱える。
「良かったじゃん!お前、やっぱり人気なんだよ『赤ジャーの殴坂』」
「やめろぉ‼その名前で呼ぶんじゃねぇ」
メイとユナのやり取りに、ハルカはお腹を抱えて笑った。
こうしてハルカはだんだんと三人と溶け込んで行った。休み時間にも話すようになった。
「ハルカちゃーん、さっきの小テスト何点だったの?」
授業で数学の小テストがあった時には、ユナの方からその点数を聞きに来た。
「九五点だったよ」
「九五⁉」
メイとユナが目を丸くして驚く。
「さっきのテスト……難しくなかったか?」
「うん。時間かかっちゃった」
ハルカは照れ臭そうに笑った。
「凄い!流石成績優秀だわ……それに比べて、ねぇ?切崎さぁん?」
「やめろよ……数学苦手なんだ」
ユナの言葉にメイはうな垂れた。彼女は数学が大の苦手である。基本的に学業にはキチンと取り組むメイであるが、数学だけは成果が現れないのだ
授業では眠くても何とか起きているが、数学では理解が及ばなくて寝る。起きている時はまるでメンチを切るヤクザかのような形相でいる。
テストの点数は毎度赤点ギリギリであった。
「何点?だっけ?」
そんな彼女にいやらしい笑みでユナは詰め寄った。
「……四一点」
「ぶわはははははははは!本当に数学は点数悪くてウケるんですけど‼」
むくれた返事に、ユナはダムが決壊したかのように笑い始めた。
「やめてあげなよユナちゃん」
ハルカがユナの腕を引っ張って引き止める。
「いいよ別に……可哀想なことにこいつは脳みその代わりに乳持ってかれたんだからさ」
メイは仕返しと言わんばかりに研ぎ澄まされた言葉を放った。ユナにとっては日本刀並みの切れ味であった。彼女の目がスナイパーで人を撃ち抜くような表情に変わる。
「んだとコラ……あんたこそ何よこの点数はぁ!乳に脳みそ持ってかれたのはお前の方だろうが⁉んん⁉おっぱいでけぇからって調子乗ってるとエライ事なるぞ‼」
売り言葉に買い言葉。メイは鬼のような形相で暴言に応じた
「何がエライ事だダボがァ、常に頭おかしいこと言ってる癖しやがって!こっちこそ数学コンプレックスだ⁉このちっぱい女‼」
虹村億奏のようなキレ方である。豹変した二人に、ハルカはあわあわと焦ることしか出来なかった。
「なに……やる気かしら?屋上にいこうぜ…………久しぶりに、キレちまったよ」
「いいぜ……白黒ハッキリつけたいとは思ってたんだ」
二人の怒号に喧嘩にクラス中がどよめきはじめる。
「真夏にアスファルトに迷いでたミミズみたいなご面相にしてやるわ」
「Go ahead,you make my day.(やれるもんならやってみな)」
一触即発の空気に、真ん中に居るハルカが立ち上がった。
「落ち着いて!ダメだよ!友達は喧嘩しちゃダメなんだよ⁉」
彼女から発せられたのはまるで小学生が発するようなものだった。
「メッ‼」
二人の喧嘩の仲裁に誰かが来ることは今までもあったが、こんな可愛らしい仲立ちは初めてだった。ヒートアップしかけていた怒りが、急激に削がれた。
「でも!私のおっぱいのこと先に馬鹿にしたのはこいつよ!」
「はぁ?お前私が数学出来ないこと本気で悩んでんの知ってるだろーが!」
二人は火花が散るほどの睨み合いを繰り広げる。
「ふ……二人ともいけないと私は思うよ。ほら、お互いに謝って。ね?仲直りしよう?」
メイとユナはお互いに決まりが悪そうな顔をするが、先にメイが口を開いた。
「悪かったよ……意外とあるよ。お前の胸。」
次に遅れてユナが謝る。
「ご、ごめんなさい。出来ないなりに頑張ってるわよ……数学。」
普通の人間の感性では分からないが、二人はお互いにフォローをし合った。この二人にとってはこれで仲直りになるのだ。
そして学校中がボロボロになりかねない喧嘩を未然に防いだハルカに対して、惜しげもない拍手が浴びせられた。彼女は驚いて周りを見回す。
「えっ?なにこの拍手……」
大人しいけど只者じゃなかったんだ。流石あの二人の友達やれるだけはある。金髪の不良より一緒にいて映える……などと賛美の言葉が数々とかけられていた。
ハルカにとって、自分に対して多くの声が向けられることが初めてのことだった。今まで自分とは別の存在だと思っていた慌ただしい声達が、自分を囲んでいる。
今は毎日の昼休みのように、楽しそうなクラスメイトは彼女を虚しくさせなかった。
「あ……ありがとう」
彼女は何かに対して礼を言っていた。それがメイ達に対してなのか、クラスメイトに対してなのか、それとも……。
メイとユナは常識とは少し違うような生徒だが、彼女にとっては一緒にいて楽しい存在だった。それに自分の霊感のこともなにも気にせず聞いてくれる。彼女はいつの間にか独りでは無くなっていた。学校に来るのが楽しみで仕方なくなっていた。
ハルカの中である感情が大きくなっていた。
彼女はある昼休み、弁当も持たず屋上に来た。
この事を伝えたい、共有したい相手がいるのだ。
「花子ちゃん……今日は絶対話すから」
そう、彼女の高校初めての友達。メイ達とは違う死んだ友達。トイレの花子さんに伝えたいのだ。
たまに披露されるメイの英語ですが
実は彼女の洋画好きから来ている名言です
変な創作英語ではないですからね