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青春怪奇譚 ごーすとれいと   作者: しゃぼねっと
其之壱 トイレの花子さん編
6/35

#5 孤独の昼ごはん

はじめての友達って覚えてます?

僕は覚えてません

覚えてるとしたら

きっと、他の人よりちょっと特別に見えますよね


夕令せきりょう高校

この物語の舞台。通称ユーレイ高校。

名前の因果か怪談の絶えない私立高校。


切崎きりさきメイ

銀髪の少女。学校の女子にすこぶる人気。

木刀を使って戦う、勝気な乙女。

ピンクパーカー愛用。巨乳。

洋画好き。


殴坂おうさかユナ

黒髪ロングの美少女。つかみどころのない不思議ちゃん。

格闘戦が得意。近隣では「赤ジャーの殴坂」と恐れられる元伝説の不良。

ストッキング愛用。貧乳。

仮面ライダーが好き。


噂堂すどうカケル

金髪はまさかの染めたもの。人脈の広い情報通。

チャラいけど実は人は大事にする優しい青年。

黒いヘアバンドを愛用している。成績はすこぶる悪い。

メタルギアソリッドシリーズが好き。

 二年B組聴波(きくなみ)ハルカはメイたちと同じクラスに所属している。少しだけ茶色い髪を二つに結って、眼鏡を掛けている大人しい女の子である。

 昼休み、彼女は書類を先生に出した後、弁当箱を持って教室を出た。後ろからは教室でとりとめのない話する声が聞こえる。羨ましいとも思ったが、彼女はそこから逃げるように歩き出した。

 彼女の目的の場所に行くには、三階の屋上を通らなければならない。コソコソと階段を上ると扉を開いた。

「!」

 普段ならこの時間は人通りがほとんど無いにもかかわらず、今日は生徒が二人もいる。彼女は後ずさりしようとした。いや……目的の場所に行くのだ。ただ行くだけじゃない。会い(・・)に行くのだ。

 ハルカはそのまま屋上を突っ切ろうと早歩きで進む。そんな彼女の行く道を、例の二人組が突然阻んできた。急に接近してきた二人にハルカは驚いて体を震わせる。何故ならその顔には見覚えがあるからだ。

 学校では知らない人は居ない人気者、銀髪の少女、切崎メイ。この地区で名を知らぬ人が居ない伝説の元不良……『赤ジャーの殴坂』こと、黒髪美少女・殴坂ユナ。ハルカも良く知っている二人組である。同じクラスにいるスターだ。

 何故この二人が自分の通り道をふさいでいるのだろうか?逆か?私がふさいでいるのか?一言も発せずに、ハルカは硬直していた。

「聴波ハルカさんよね?」

「お前、いっつも昼休みどこいってるんだ?」

 ハルカは急に詰め寄られて一言も発することが出来なかった。二人とは同じクラスだが、一言も話したことは無い。

「あれ?聴波さん……ちょっと良い?」

「えっ」

 ユナがハルカのメガネをゆっくり外す。

「聴波さん、メガネ外すと……可愛いわね。」

「え?マジ?あ、ホントだ。ダイヤの原石」

 二人の人気者に顔をマジマジと見られ始めた。高校に入ってこれほど人に接近されたことのないハルカは顔を真っ赤にした。

「ちょちょちょっと……待ってください。」

 恥ずかしさの限界を超えて、ようやくハルカは声を発した。

「あの……すみません。用がないなら失礼します。」

「待って」

 そそくさと彼女はその場を立ち去ろうとする。そんなハルカをユナは制止した。

「聴波さん……ちょっと聞き辛い事なんだけどね……もしかしたらあなた……弁償飯(・・・)、してるんじゃないの?」

「…え?」

「ごめん間違えた。便所飯、してるんじゃないの?」

 一瞬話が飲み込めなかったが、訂正されたことにより彼女が自分に聞きたいことが分かった。ハルカはまるで胃を縄で縛り付けられているようだった。

 学校のスターであるこの二人がその事を知っていることが、更にそれを加速させた。昼ごはんを食べる前に、朝ごはんが口から出てきそうだった。

 それよりも誰がこの事を知っていて、この二人に教えたのだろう。私がトイレでご飯を食べているという知られたくない事実を。そんな嫌な事ばかりが彼女の頭の中に詰まっていった。

「えっ……えっ、だ、誰から聞いたの」

 どれくらいこの事実が広まっているのか、ハルカはそれをまず確認しようとした。

「トイレの花子さんよ。」

「えっ!えっ!花子さん……!なんで……」

 ユナの口から発された言葉が、ハルカの抱えていた不安を吹き飛ばした。

「驚いたぜ聴波。……クラスメイトに霊感を持ってる奴がいたなんてな」

 ハルカは状況が飲み込めず、二人の顔を繰り返し見る。それからおずおずと尋ねる。

「二人は…………どうして花子ちゃんのことを?」

「私達は所謂ごーすとバスター。妖怪退治の専門家よ。あなたが会っているのは言ってしまえば怪異。とても危険よ。悪い事は言わないからやめなさい」

「退治……?」

 ハルカがその言葉に怯えるような声を出す。

「そう、退治」

 ユナは今朝、カケル達と教室で話した事を思い出す。

「あー……茶色の髪で眼鏡の大人しい女の子……多分、二年の聴波ハルカの事でしょうね」

 カケルは広い人脈と噂話好きから出る知識の一端を披露していた。この学校の大抵の事は知っている。

「あら、噂堂くん。あなたはなんでも知っているのね」

「なんでもじゃないっスよ。知ってる事だけ……。」

 まるで誇るようにユナの言葉に返すカケル。

「他人のことまでそんなに詳しいなんてほんと気持ち悪いわ」

「ユナ先輩、尊敬しますよ……協力してくれる後輩になかなかそんな言葉かけないっすもん」

 メイは呆れてため息をつく。

「ユナ、そいつ知ってる?」

「いえ……聞き覚えはあるのだけれど……」

 二人は顔を見合わせる。カケルはキョトンとした顔で二人を見返した。

「聞き覚えもクソも……お二人のクラスメイトでしょうがよ。ってか、ほら、今朝ユナ先輩とぶつかった女の子ですよ!」

「あ!」

 やっとハルカのことを思い出したのか、すっとんきょうな声があがった。カケルはやれやれと首を振った。

「あ!って……あんたら本当に二人の世界だよなぁ。周りにも目を向けて下さいよ」

「仕方ないだろ……私ら友達扱いされることの方が少ないんだよ」

 メイが言う通り、二人は友達よりファンの方が多かった。

「心配は無用よ。メイにの目は貴方にも向いてるわ」

 余計な言葉を聞きつけたメイは肘鉄をユナの脇腹に突き刺した。

「仕方ねぇよ一度も話したことねぇし……ていうか…………あれ?そいつ、誰かと話してる(・・・・・・・)ところを見た覚えがないというか」

 ユナもメイの言葉に同意する。

「そうっすね。俺も名前しか詳しく知らないです。仲のいい友達なし、人と居る目撃情報なし……あるのは大変優秀な成績だけっす。」

 カケルがヘアバンドを直しながら応えた。そういえば、と今度は彼がユナに質問する。

「その花子さんに逢いに行くっていう行為が危険って言うのは何でなんすか?」

 ユナは珍しく眉をしかめて答える。

「儀式をしていない魂の状態だけど……浮遊霊程度とはいえ、マイナスのエネルギーを持つのよ。それに少なくとも他人に攻撃的なゴースト。彼女の魂への悪影響も考えられるし……引きずり込まれてからじゃおそいのよ。」

 儀式とは花子さんを呼び出す一連の行為で、それをするまで花子さんは浮遊霊程度の存在でしかない。ただの《トラワレ》、人間の魂である。

 儀式を通して彼女は始めて生きているものに干渉出来るようになる。しかし弱いとはいえマイナスの力を持つ魂にずっと会い続けるなら、何かしら影響が出てもおかしくはない。

 今朝の会話を改めて思い出しながら、ユナは真剣な眼差しでハルカを見つめる。

「ま……まってよ」

 ハルカは動揺していた。彼女は急に与えられた情報のせいで混乱しているのだ。言葉が見つからない。

「間違いなくあなたに悪影響よ。何が起こるか分からないわ。それに……もしかすると……友情料とか言ってあなたのパンツを盗んだりするに違いないわ。」

「パンツ?」

 ハルカが思わず狼狽えた。意味不明な危機の例を挙げるユナに代わって、メイが説明を引き継ごうとした。

「取るわけねぇだろ……でもアイツは退治されるべき存在なんだ。わかるよな?」

「やめて‼」

 ハルカは膨らませすぎた風船が破裂するかのように、突然声を上げた。

「花子ちゃんはそんな子じゃない!姿は見えないけど、私と友達になってくれた初めての子なの!悪い子な訳ない‼パンツなんて盗まない‼」

「おい落ち着けよ、誰も盗らねえって。」

 メイがなだめようとするものの、先程までの様子とは一変してしまった。明確な怒りをハルカは露わにしている。

「それに……」

「それに?」

 言葉を続けようとするハルカに対して、ユナが動じる様子は全く無かった。

「彼女は現世をさまよう魂。……あなたのせいで彼女はよりこの場所に縛り付けられ続けることになるかもしれないの。聴波さん……彼女が誰かに危害を加えたとして、あなたが責任取れるの?」

「だって!…………だって、初めての友達だから……。」

 ハルカはぼそりと呟いた。その顔は悔しそうにも見える。

「花子ちゃんに……花子ちゃんに会わせて!」

「おい聴波!」

 ハルカは地団駄を踏むような調子で、東館のトイレへと向かう。メイとユナはその後を駆け足で追い掛ける。

「花子ちゃん!花子ちゃん‼ねぇ⁉」

 彼女はトイレの真ん中で立ち尽くして声を荒らげた。しかし返事はどこからも聞こえない。

「あれ?……なんで?いっつも聞こえるのに……姿は見えないけど、いっつも声は聴けるのに……!」

 彼女の霊感は霊の声だけを聞くことが出来るようだ。ハルカは縋るような顔で入口の二人を見つめる。影になって、彼女らの表情がよく見えなかった。

「なんで……?」

「伝言だ」

「伝言?」

 震える声でハルカはメイに尋ねた。

「お前とはもう話せないって」

「……なんで?ど……どうしてそんな……」

 とうとうハルカは泣き出してしまった。頬を米粒のような涙が流れる。

「さぁな。……お前の為を思ってじゃないのか?」

 メイの言葉に彼女は全く納得出来ない様子だった。

「そんな!だったら私はどうすればいいの?寂しい高校生活の中で、花子ちゃんだけが私の友達だったのに……私は……また一人に……。」

 言葉をつなぐ度に語気が弱々しくなっていく。

「私はどうしたらいいの?」

 まるでユナ達を非難するかのようにハルカは言葉を向けた。

「さぁな……とりあえず」

「一緒に弁当でも食べるかしら?」

 二人は弁当箱をハルカに見せた。

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