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青春怪奇譚 ごーすとれいと   作者: しゃぼねっと
其之参 てけてけ編
33/35

#30 Never let you go.

てけてけ編完結です。

サキやヒメカという強いキャラクターが

これから物語をもっと面白くしてくれるでしょう。


夕令せきりょう高校

この物語の舞台。通称ユーレイ高校。怪談の絶えない私立高校。


県立西高等学校

通称県西。ガラも偏差値も悪い高校。


切崎きりさきメイ

銀髪の少女。学校の人気者。ピンクパーカー。


殴坂おうさかユナ

黒髪ロングで美少女の不思議ちゃん。

「赤ジャーの殴坂」と恐れられる元伝説の不良。


噂堂すどうカケル

金髪。人脈の広い情報通。黒いヘアバンドを愛用している一つ下の後輩。


聴波(きくなみ) ハルカ

焦げ茶の髪を二つに結ったメガネ少女。魂の声を聞くことが出来る。


寺染てらそめサキ

長身の髪を金色に染めたヤンキー女子。

『黒スカジャンの寺染』で有名。


尖沢とがさわヒメカ

おさげの真面目に見える背の低い少女。極度のヒステリック


 亡我状態(ロストセルフ)はごーすとの種類でも最も危険な状態である。そもそもお札による封印・軟化という段階を踏めないという点が、ごーすとばすたー達に危機をもたらしている。


 そして、何より彼らが出現するという状況(・・)そのものが、非常に良くないのだ。悪いエネルギーと都市伝説などの噂がごーすとを生み出すキーとなるわけだが、亡我状態(ロストセルフ)のごーすとは存在自体が悪いエネルギーを撒き散らす。ということは、そこに《トラワレ》足りえる魂が別に存在できるならどうだろうか。そう、二体目……次のごーすとが誕生する切っ掛け足りえるのだ。そしてそれは連鎖的にこの状態を大きくしていくという最悪の事態を引き起こす。


 今、それがメイとヒメカの眼前で引き起こされている。


「くっそ……このボケ!手を離せ」


 メイがヒメカの髪を掴んでいるてけてけに木刀を激しく叩きつけるが、なかなか手を離そうとしない。この怪異は、階段からでなく校舎の壁を登ってまで生者を求めて来たようだ。執念の塊である。脚が無い体でここまでやってのけるのだから。


「痛い!痛い!」


 その衝撃や体重が、ヒメカの首の根元に強くのしかかる。顔をしかめてジタバタする。


「前っ前っ!き、来てます!来てやがりやがります!さながら悪のニンジャに復讐を誓う、ネオサイタマの死神のような……!」

「誰だそれは!?こうなったら……ワッショイッ!」


 普通なら、人間はどうにかしててけてけを叩き落そうとするだろう。そのまま化け物が落っこちるまで攻撃を繰り返すのが普通だろう。だが、メイは逆に考えた!蜘蛛の糸にしがみ付くようなてけてけを引き上げたのだ。ワザマエ!


「!」


 そしてその行為に驚いてヒメカの髪を手放したてけてけを、ドアから二人に接近する方のてけてけに向かって投げ飛ばした。


 ボウリングのボールがぶつかったピンの様に派手に飛び跳ねるてけてけ達。だが意にも介する様子もなかった。当然のように体勢を立て直すと、その異常な速度で動き始める。近づくたびにメイに薙ぎ払われ、ヒメカに攻撃しようとして追い払われを繰り返す。


 だが、いくらメイでも一匹ならともかく複数匹の動きなどすべては把握しきれない。対等に渡り合っているつもりで居て、いつの間にか隙を突かれていた。彼女はとうとう囲まれてしまったのだ。


「こいつら、すばしっこい……!」

「タスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテ……」


 二つの殺意の塊が、メイを囲んでいる。相手の攻撃の仕方によっては防いだとしてもタダでは済まないだろう。彼女にもそれは分かっていた。


「いいぜ、かかってこいよ!」


 メイがそう啖呵を切った瞬間、それがまるで号砲のようにてけてけが飛び掛かろうとした。だがその時だった。閉まりきっていなかったドアを、堅いもので乱暴に攻撃した音が夜の屋上に響き渡る。


「ぜぇ……ぜぇ……」


 ドアは牛に追突された闘牛士の様に、情けなく地面に転がっていた。蝶番が元の形を思い出せない程曲がっている。


 そこには黒いスカジャンを着た女が息を切らして立っている。相当の全力疾走だったのか、手を膝に置いて呼吸を落ち着かせようとしている。ヒメカはそれを見て砂漠の中からダイヤモンドを見つけた人間の様に目をきらめかせた。


「寺染ぇ!」

「あいつ……くんなつったのに!」


 夜の帳でさえ煌めく女、寺染サキであった。一度深い深呼吸をすると、乱れていた息が直ぐに直った。汗で額は濡れているものの、焦燥気味だった数秒前の様子は思い出されない。


「……」


 サキは一言もしゃべらずに真っ直ぐヒメカの方に歩き出した。てけてけのうち一匹が、サキに標的を変えて走り出した。彼女の前まで到達すると飛び掛かる。サキはサッカー選手が脚でボールを上に蹴飛ばすようにそのごーすとを真上に打ち上げた。落下してきたてけてけに向かって、まるでピッチャーフライを受け止めるようかのような最高のタイミングで、会心のストレートパンチを叩きこんだ。


 屋上の入り口からヒメカが要る柵までは十七メートル以上は優にある。殴り飛ばされたてけてけは、校舎から飛び出すような勢いで手摺に大激突した。ヒメカは勢い良く自分に接近した化け物に驚いて飛び跳ねた。それと同時に、てけてけの顔に何かお札のような物が引っ付いている事を目視した。そしてその怪物の身体が赤い光を発しながら消滅し始める。


「……あれって!」


 その様子に驚愕するメイをよそに、もう一匹のてけてけがサキに向かって走り出した。彼女の足をもぎ取ろうと腕を伸ばす。サキはその手首を逆に掴むと地面に向かって叩きつける。二度、三度慈悲を感じさせない攻撃を同じように喰らわせた。


「切崎!」

「えっ」


 サキは呆気に取られて動けないメイの方へてけてけをぶん投げた。メイはびっくりして反応を忘れるところだったが、持っている木刀を使った美しいバッティングフォームでその生き物を打ち上げた。


 彼女の木刀に貼っているお札の中にはごーすとを消滅させるための物が含まれている。それを発動させることによって、打ち上げられたてけてけは赤い光と共に消滅した。ぱっと光って咲いた、打ち上げ花火のようだった。


 ごーすとが撃破されたことにより撒き散らされた悪いエネルギーは、良くない影響を起こす前に散らさなければならない。しかし今日のところは犠牲者が出る前にてけてけを退治することが出来た。メイは何事もなく仕事が終わって一息つくとともに、退治に貢献したサキに目線を移した。


「……おい、寺染。お前は一体何者なんだ」


 メイはごーすとに対して有効な攻撃手段を持っているサキを問いただした。しかし彼女は答えるよりも先にヒメカに向かって一目散に走りだしていった。


「尖沢!」

「て……寺染!」


 先ほどまで寡黙に妖怪達へと死刑執行人のごとく進撃を繰り広げたサキは、まるで迷子になった娘をようやく見つけたように安心しきっていた。ヒメカを強く抱きしめる。


「馬鹿ッ!アタシの言うことちゃんと聞かないからこんなことになるんだよ!馬鹿馬鹿!」

「うえええぇぇぇ!ごべんなざいぃぃ!怖かったですうぅ」


 ヒメカは屋上に入る前にしたコアラおんぶよりも強く、離れない様に抱擁した。恐怖に慄いていた時よりもみっともなく泣きじゃくっている。


「アタシもごめん……怖い思いさせてごめんよ…………!ずっと傍に居るべきだったね」

「そ……そんなこと無いです!グズッ……ヒメカが、ヒメカがいけないんです!……寺染はいつでも正しいんです」


 そんなやり取りを見せられてしまうと、流石のメイにも追及する気が失せてしまった。棒立ちするメイに、サキが優しい声で語り掛けた。


「切崎……」

「……なんだよ」

「どうして友達ですらないアタシらを……喧嘩したアタシらを……」

「関係ねーよっ。喧嘩したらもうダチだろ?」


 そんな一回り前の時代観の言葉に、サキは思わず笑ってしまった。


 それから、メイの方に顔を向ける。出会って一度も表情の変わらなかったサキから、涙でぐしゃぐしゃになった顔でお礼の言葉が述べられる。


「ヒメカを助けてくれてありがとう……!本当に……ありがとうございました……」





 最近新しく開いた「アーモンド」というカフェは、メイ達のグループの中では既にたむろする場所の一つとなっていた。いつもの四人組はドリンクとケーキを楽しみながら話に花を咲かせていた。


 先日のてけてけの一件はその後大人まで出張ってくるような手強い案件だった。一応当分はごーすとの出てくることは無いほどの環境へと変わったそうだ。


「え……サキ?」

「そう、あいつ何者なんだよ。」


 メイは事件解決の顛末を語りながら、最終的にはっきり分からなった部分をユナに聞いた。


「ん~とね。寺染家は流派の性質を同じとしながら別の発展を遂げた、ごーすとばすたー一族の長女よ。ほれ、うちの近所にあるスゲー大きなお寺あるじゃない?あそこに住んでいるのよ。」

「……そうだったのか!……じゃあなんでウチらと交流無いんだよ。」

「何と言えばいいのかしら。過去の事は良く知らないんだけど、カトリックとプロテスタントみたいなものと言えば分かりやすいのかしら?」


 同席しているハルカがその燻ぶらせるには余りある知識を披露しようと口を開きかけたが、カケルの手で制止させられた。


「えっ……それって対立してるって事なんすか?」


 思わず目線を集めてしまったカケルが話を取り持つ。


「まぁ……簡単に言えばそうなるわね。それでも子供のころは関係なくご近所さんとして遊んでたものよ。お姉様にときおりボッコボコにされながらね。」


 懐かしむような目をしながらブラックコーヒーをすするユナ。アイスカフェラテを一口飲むとメイはサキのおかしな態度について聞く。


「あいつでも、お前の事覚えてない的なこと言ってたじゃねぇか」

「……五、六年も前の事だと覚えてないものなのかしらね?でもあの態度絶対覚えてたようにしか見えないわよね。」

「案外、寺染さん……尖沢に配慮したのかもしれないっすね」


 カケルの言葉に全員の耳目が集中した。早くどういうことか話せと目で語り掛けてくる一堂に、カケルの言葉が詰まる。


「いや……俺あの人らとオナチューだったんすけど。そんときから結構な噂だったっすよ。デキてるって。」

「え!?二人とも女の子だよね……!」


 釣り針にハルカと言う魚が喰らいついた。


「ま、ただ仲が良いだけだと思いますけどね!」

「そっか……」


 ハルカは明らかに肩を落とした。すると四人の座る席の前で店員ではない人間が立ち止まった。


「アンタら今日も居たのかい」


 寺染サキ・尖沢ヒメカの二人が通りかかったのだ。サキの顔には大きなマスクが引っ付いている。彼女は普段からよくマスクを着用するようだ。


「あら、サキじゃない。私に会いに来たのかしら?」

「……」

「シカト……!?」


 サキは眉毛すら動かさずにユナを無視した。メイはわざわざ声を掛けに来てくれたことが嬉しいのか、にこやかに話しかける。


「なんだよ寺染、喧嘩の再戦申し込みか?いつでもいいぜ。」

「別にアタシ、喧嘩が好きなわけじゃないよ。……毎日のように見かけるから会いに来てあげたのさ。」


 そういうとサキはお会計の手帳を手に取る。


「これは、今回のアタシの分の借りってことで。今度尖沢の分も返しに来てあげるよ。」

「払うのヒメカなんですけど」

 

 その場にいる誰かがそれ以上何かを言う前に、サキはどこか座る席を探し始めた。


「あっ切崎()っ」

「様……?」


 ヒメカはサキについていく前に、ポケットから何かを取り出してメイに渡す。その小さなメモ用紙には『ヒメカ』という名前と、電話番号が書かれてある。


「お……お電話しやがってください!じゃっ」


 四人全員の視線が、ヒメカ・メモ・メイの順番に移っていく。一番向こうの喫煙席で、店主の藤見とサキ達がなにやら言い争っている。


「灰皿は……?」

「いや、君らどう見ても未成年……」

「灰皿!とっととお客様に出しやがってくださいよ!」


 マスクを外して口にタバコを咥えているサキと、ジッポライターで手遊びをしているヒメカ達の目がメイと合う。すると二人は嬉しそうに手を振り返すのであった。


「メイあんた……ファン増えてるけど?」


 とうとう他校にもファンが出来てしまったメイであった。電話番号の書かれたメモには、ハートのマークが付いている。


次編からの変更について

→見やすくするために行と行に作っていた空行は無くします。

→登場人物の名前を毎回前書きに載せていましたが、各編一話にのみ載せます。


この後番外編少しやった後、新編「輪入道編」です。

遂に「赤ジャー」の伝説が解禁…?

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