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青春怪奇譚 ごーすとれいと   作者: しゃぼねっと
其之参 てけてけ編
29/35

#26 恐らく語り継がれない大決闘

この小説、女の子の喧嘩の仕方が

ガチすぎるなぁと思いました。


夕令せきりょう高校

この物語の舞台。通称ユーレイ高校。怪談の絶えない私立高校。


県立西高等学校

通称県西。ガラも偏差値も悪い高校。


切崎きりさきメイ

銀髪の少女。学校の人気者。ピンクパーカー。


殴坂おうさかユナ

黒髪ロングで美少女の不思議ちゃん。

「赤ジャーの殴坂」と恐れられる元伝説の不良。


噂堂すどうカケル

金髪。人脈の広い情報通。黒いヘアバンドを愛用している一つ下の後輩。


聴波(きくなみ) ハルカ

焦げ茶の髪を二つに結ったメガネ少女。魂の声を聞くことが出来る。


寺染てらそめサキ

長身の髪を金色に染めたヤンキー女子。

『黒スカジャンの寺染』で有名。


尖沢とがさわヒメカ

おさげの真面目に見える背の低い少女。極度のヒステリック


 廃工場の入り口の前、ユナは地面に無様に転がる。彼女を見下ろすサキもユナも息を弾ませていた。先ほどまで繰り広げられていたすさまじいバトルに、中田は冷や汗すらかいている。


「すげぇ、あの怪我でサキとここまで戦えた奴なんて初めて見た……」


 満身創痍の様子で地面に仰向けで寝転がるユナは、サキを力なく見上げる。


「はは……サキ、やっぱ強いね。げほっ」

「……」


 サキはそれに返事もせず彼女をみつめた。


「えへへ……今日は、サキの勝ちだね。あの時の(・・・・)リベンジ……できたね」

「……なんだい、それ……」


 勝ったにもかかわらず、まるでサキの顔は晴れなかった。眠そうなタレ目とは関係なく悔しそうな表情である。


「きっと……私の事……思い出してね…………」


 そう言い残すと、ユナは目をゆっくりと閉じた。意識を失ったようである。


「へっ、ほぼ壊滅状態になっちまったが……サキならこんなクソ野郎には負ける訳ないもんなぁ?こいつ簀巻きにして晒し者に……」

「黙りな!!それ以上口を開くなら二度と喋れなくしてやるよ!」


 サキは突然声を荒げて中田の胸倉を強くつかんだ。彼は普段感情を表に出さないサキの怒りっぷりに黙らされた。驚いただけでなく、従わなければ本当に殺されてしまうだろうという予感さえしたのだ。


「……。伸びてる男共叩き起こしてきな。帰るよ。」

「あ、ああ……」


 中田は伸びている太田を揺すり起こしながらもサキの方をちらちらと気にしていた。ヒメカを連れて帰るだろうと思っていたのだが、頭を抱えてふらふらと歩きまわっている様子だった。中田には聞こえないが、何かぶつぶつ呟いていた。


「ユナ……ごめん、ごめん。こんなつもりじゃ、こんなつもりじゃ……だって尖沢をやるもんだから、私は……」

「おい、さっきからお前……大丈夫か?」

「え?」


 サキは目を丸くして振り向いた。


「どうしたんだよ、調子悪いのか?」

「……気にしないで。……尖沢、いつまで伸びてんだよ起きな。」


 ヒメカを揺すっても起きないので、背負って帰ろうかとサキが考えている時だった。彼女は足音が二つこちらに向かっている事に気が付いた。それから、何かを叫んでいる事も聞こえてくる。


「ユナー!」

「ユナちゃん!」


 狭い路地から現れたのは銀色の風采、切崎メイだった。手には木刀の入った布袋がある。後ろでハルカも息を切らしている。履いている物がスカートから体操ズボンに変わっていた。


 まず一番にメイとサキは目が合った。それからメイは、地面に倒れているユナを発見した。彼女にとっては空を見上げて隕石が落下しているのを発見したかのような衝撃である。呼吸が一瞬止まったかと錯覚した。


「嘘だ……ユナ!おい!!」

「ユナちゃん!」


 メイとハルカは頭から血を流して倒れているユナに駆け寄った。


「お前……どんな卑怯な手を使いやがったんだ!!」


 木刀を袋から取り出し、ユナ達を守るような位置に立ち上がるメイ。彼女が言った言葉に対して、サキは笑いながらスカジャンに手を突っ込む。


「知らないね。ここに連れられた段階でそこの女は血塗れだった。……アタシの尖沢に手を出したのはこいつだ。文句を言われる筋合いはない」

「経緯なんてどうでもいい……」

「……」

「ユナをこんな目に遭わせたお前を……絶対に許さねぇ!!」


 メイの白い肌が、怒りで真っ赤に染まっていた。体中が弾け飛んでしまうかの如き怒りが沸き上がっている。


「こんなに怒りを覚えたのは初めてだ……!お前、『ダンテズ・ピーク』って映画知ってるか。」

「……さぁ」

「火山災害で街の至る所に被害が及ぶ話なんだけどよぉ……体が火山みたいに大爆発して、お前の事なんてぶっ殺してしまいそうな勢いなんだよ!!」


 メイはゆっくりとサキに向かって歩いていく。木刀があまりの強い握力にぎりぎりと悲鳴を上げていた。


「は……アンタらなんだか、仲よさそうで羨ましいよ。」


 小馬鹿にしたような、しかし寂しささえ感じる言葉だった。サキはポケットからヨーヨーを取り出すと、キュルキュルと手元で回し始める。


「め、メイちゃん気を付けて。『黒いスカジャンのサキ』と言えば……『悪夢の入学式』で有名なほどだよ。」


 悪夢の入学式。県立西高等学校で起きたとんでもない事件である。入学式ですでに金髪だったサキを「調子に乗ってると」しめ(・・)ようとした上級生たち十六人が全員病院送りにされたという伝説的な逸話である。三人はサキの取り巻きとして今なお傍に居る。五人は恐怖で全員頭を丸くして真面目になってしまい、五人は学校を辞めてしまった。ちなみに残りの三人は行方不明である。


「切崎……アタシとサシでやろうってのかい?」

「ああ……その金髪真っ赤に染めてやるよ!!」


 メイは一歩大きく近寄ると彼女の顔めがけて木刀を振りぬいた。サキはそれを手の平に納めたヨーヨーで受け止めた。


「!……お前」

「あんたは知らないだろうけど……アタシが殴坂に勝てるは小細工でも何でもない。」

「……お前やっぱユナの事覚えてんだろ。」


 サキは刀を力任せに押し返した。メイは一度木刀を引っ込めると、サキの脳天あたりに突き出した。彼女はそれを身体を動かして後方に回り込むと、メイの膝裏を小突く。メイはバランスを崩して膝から地面につまずいた。振り返って反撃しようとする彼女をサキはポケットに手を突っ込んだままで蹴り飛ばした。


「メイちゃん!」


 ハルカは驚きの声をあげた。化け物相手でも転んだことすらないメイが、人間相手に蹴られてすっ飛んでいったのだ。メイも驚愕の顔をしながら立ち上がる。


「もうあんたは、アタシには近寄れない。」


 サキは一度ヨーヨーを手と地面の間で往復させると、野球選手がするスライダーのようなフォームでぶん投げた。ヨーヨーは、子供の遊び道具が出す速度とは思えないスピードでメイの腹部へとめり込んでいった。


「す……スケバン刑事だ!麻宮サキだ!!」


 ヨーヨーに既視感のあるハルカが一人で騒いでいた。


 メイは横隔膜が強く揺らされたことで一瞬呼吸困難に陥っていた。


「うぇッ……ゲホゲホ……!本物の金属…………!」

「どうしたんだい?来なよ」


 サキは指をくいっと挙げてメイを挑発した。


「馬鹿にしやがって!」


 腹を抑えた手を木刀に添えて立ち上がるメイ。サキはその様子を楽しそうに見ながらポケットからある

ものを取り出した。ハルカはそれを見てメイに注意を投げかけた。


「気を付けて!ビー玉だよ!ビー玉のお京だ!!」

「ビー玉ぐらいで私が止まるか!」

「どうかね」


 サキは指に挟んだビー玉を数発指で打ち出した。身構えるメイの指、得物を携える方にビー玉が命中した。その精度を予想していなかったせいか、木刀を手放してしまったメイ。


「しまっ」


 落とした木刀に気を取られたせいで、メイは近づいてきたサキに気が付かなかった。サキは攻撃に備えようとするメイの虚を突き、サマーソルトキックを繰り出した。攻撃を受けて姿勢を崩した彼女に向かって、サキは更に追撃のドロップキックを喰らわせる。その勢いはすさまじく、メイは後方二メートルほどの場所に居るユナとハルカよりも後方に吹き飛ばされた。


「だ、大丈夫!?メイちゃん……!いったんここは引いた方が……」

「馬鹿野郎、こんなふざけた真似されといて逃げ出せるかよ!」


 メイは頭に上っている血をどうにか落ち着けようとした。


「くそっ……正直舐めてたよ。その辺に居るチンピラ共と変わんないと思っていたがとんでもない。……強い」


 サキは近くのドラム缶にさぞ退屈そうに座っていた。タレ目も相まって眠そうである。


「メイちゃん、どうするの?相手は中距離も遠距離も対応してるし、近距離に至っては相当強いよ!」

「へへ……馬鹿野郎。こちとら毎日のようにユナっていう怪物と組手してんだ。負けてたまるか」


 メイは強がりながら考える。「ビー玉はともかく、ヨーヨーは喰らえば即死級の攻撃だ。それを全て躱しながら、落っことしちまった木刀を拾って尚且つあいつに近づいて接近戦を制しなければ勝てないか……」と。自分で冷静になったことでどれだけ無理難題の中に身を置いているか把握できた。


 友達の名誉が傷つけられた状況で、自分より強いその友達を倒せる強い敵が居て、おまけに相手にはまだ仲間がいる。この絶望的な状況でメイは思った。


「マジで最高の状況じゃねぇかよ。そそるぜ」

「メイちゃん、かっこいい……」


 まずは自分の得意分野にこの状況をもっていかなくてはいけない。メイは木刀に向かって走り出した。小細工なしの一直線だ。むしろサキに近い木刀を手にしようとしているこの状況。サキは必ずなにか仕掛けてくるだろう


「……馬鹿なのかね」


 サキは立ち上がりくるりと回ると、その遠心力を活かした投げで投擲した。その鉄の塊といって違いないヨーヨーはメイの額あたりにガツンと言う音をたててぶつかった。一撃で気絶してもおかしくない勢いの攻撃だった。


「……!?」


 メイは頭を大きく仰け反らせてはいたものの、不敵な笑みを浮かべて立っていた。予想外の彼女のタフさに一瞬固まってしまったサキは、メイが拾って投げて来た木刀への反応に遅れてしまった。


 メイにとってはそれが相手に当たらなくても良かった。ただ隙が出来れば良かったのだ。しかし幸運な事に、サキは木刀に対応できなかった。まるで意趣返しの様に、木刀がゴツンという音を出しながら彼女の額に命中したのだ。メイは正対することの出来なくなったサキの胸部に、飛び膝蹴りを喰らわせた。


 地面に手を突いたサキは、顔をあげて状況を確認しようとする。一瞬、彼女には再び拾った木刀を振りぬいているメイが見えた。次の瞬間には体中に衝撃を感じた。サキは顔面の左側にその攻撃を受けた事を工場の柱に手を突いて理解する。


「……」


 サキは呻き声もあげずに素早く起き上がった。メイがまっすぐ自分に追撃を被せようと突っ込んできている。サキは地面に落ちているビー玉を足先で弾いた。メイは突然視界の下から飛んできた物体に気付くことが出来ず、眉間にぶつかったそれにダメージ以上にたじろいでしまった。


 その隙を見逃すサキではなかった。メイの膝を飛び台にして宙を舞うと、その顔面に靴の底を食わせた。


「ふぎっ」


 大きく体を揺らしたものの、しかしメイは倒れなかった。お互いに息を切らしながら睨み合っている。


「お前……つえーな」

「……どの口が言うんだい。」


 サキは構えると、ヨーヨーをメイに向かって飛ばした。メイはその軌道を完全に理解した。体を動かしてそれを躱すと、ヨーヨーのチェーンを自身の左手に絡める。それから対応される前に紐を引いてサキを引き寄せた。


「終わりだ!」

「馬鹿にするんじゃないよ!」


 サキは振り上げられた腕に向かって左手で手刀を喰らわせた。木刀が弾き落されたことに完全に不意を突かれたメイに制裁の左ひざが脇腹にぶっ刺さる。それでもメイはひるまずにサキの顔に握り拳を叩きつけた。サキはそれに応じるようにメイを引き寄せ、お返しの肘鉄をプレゼントする。


 ふたりはお互いに腕を離さずに互いを攻撃し合う。殺し合うという言葉が違わない猛攻が暴風雨の様に止まなかった。ハルカも中田も止めることも加勢することも出来なかった。真剣勝負に割って入ることは出来ない。それでもハルカはそれがあまりにも痛々しく、目に涙が滲んでいた。


「ぜぇ……ぜぇ……」

「……げほっ、げほっ」


 防御など考えないような応戦で互いにグロッキーだった。二人は互いに見つめ合うと、まるで示し合わせたかのようにそれぞれの頭を後ろに引いた。そして渾身の頭突きが廃工場の中心で激突した。歯を噛み合わせたかのような、はじけるかのような音があたりに響く。


「うぐッ…………」


 しばらく互いの頭を擦り付けて鋭く見つめ合っていた二人だったが、最初に地面に倒れたのはメイだった。その様を見ていたサキは本当に嬉しそうに呟く。


「ふへへ……アタシの勝…………ち……」


 そう言うとサキも続いて地面に倒れた。


 空が夕焼けの色から紫色に変わり始める頃、この街でも一二を争う決闘は引き分けで幕を降ろすことになった。



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