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青春怪奇譚 ごーすとれいと   作者: しゃぼねっと
其之弐 塗り壁編
22/35

#19 Home sweet home

夕令せきりょう高校

この物語の舞台。通称ユーレイ高校。怪談の絶えない私立高校。


県立西高等学校

通称県西。ガラも偏差値も悪い高校。


切崎きりさきメイ

銀髪の少女。学校の人気者。ピンクパーカー。


殴坂おうさかユナ

黒髪ロングで美少女の不思議ちゃん。

「赤ジャーの殴坂」と恐れられる元伝説の不良。


噂堂すどうカケル

金髪。人脈の広い情報通。黒いヘアバンドを愛用している一つ下の後輩。


聴波(きくなみ) ハルカ

焦げ茶の髪を二つに結ったメガネ少女。魂の声を聞くことが出来る。


 塗り壁は公園の真ん中で正座させられていた。顔にはお札が貼られている。体にはユナによって食らわされた攻撃で、大きなひびが入っている。


 メイ、ユナ、カケル、ハルカの四人はやっと集合することが出来ていた。有難~いお札を貼られたことにより塗り壁は具現化したそのままの姿であり、人々を幽閉する能力も封印されている。


「この前のお札とは効果が違うんだね。」

「お札が違うからね……」


 ハルカの質問にユナが答える。


「お札が違うとはどういうことですか?」

「お札が違うということです。」


 種類について聞いたハルカの質問を、メイのクソQ&Aのような回答が飛んできた。理解してないのか、社外秘のような扱いなのか。それは分からない。


「まったく、あんなことしちゃあだめよ。人を閉じ込めるなんてどういうつもりよ。」

「ごめんなさい……どうして僕がああいう事をしたのか、分からないんです。申し訳ございません。体の仕組み上できませんが、三つ指突いて謝ります……。」


 想像の数倍お札の効果で大人しくなった上に、塗り壁は相当礼儀正しかった。ユナに説教されて、非常に丁寧に詫びている。


 幽閉する能力が封印されたことで、メイとカケルもなんとか解放されていた。怪我をしているカケルはゆったりとベンチで寝そべっている。


「お前。自分の事誰だか分かるか?」

「はい……わたくし、こういう者……あれ?どういうものでしたっけ」

「いや知らねぇけど」


 名刺を取り出す仕草だけをする塗り壁とメイは不思議な顔で見つめあった。


「長いトラワレだったせいでお札張っても生前の記憶が戻ってこないみたいね。突然だけれど、なにかやり残したことないかしら?」

「やり残したこと……僕は、とっても家に帰りたいんだ。お家に。だけど……家が思い出せないんだ。僕はどうすれば……」

「家……家って。困ったわね、メイ。」

「ああ。死んだ時期とか、死んだ場所さえ分からない。そんな奴の家なんてもっての外だし……成仏は難しいんじゃ。おい、塗り壁。なんにも覚えてないのか?」


 塗り壁はでかい図体を振り回した。首を振っているつもりなのだろうか。手だての見つからないごーすとバスター組は困り果てていた。


「昔から物忘れがひどいんだ。」


 昔なんて覚えていない癖に、 《トラワレ》の元の性質、性格はそのままであるためか口から次いで出て来たようだ。


「まったく、とんだ悪()ね。」

「それは……まさか悪()のことを言っているんじゃあないだろうな。」

「わはははははは!」


 後ろでハルカが腹を抱えて大爆笑していた。下らないダジャレに一人だけ笑っている。


「なんだか……そのくだらなさ懐かしいですね」


 塗り壁はしみじみと言っていた。花子さんのように過去の事をさっぱり忘れているわけでは無く、塗り壁の方は遠い過去の記憶のようにうっすらと覚えているようだ。


「く、くだらない?」

「はい……僕、誰かにそんな風なダジャレをよく言われてたような。」

「面白くない?」

「はは……いや、そんなことは……」


 ユナは塗り壁に愛想笑いをされた。……気をつかわれていた。


 若干落ち込みを見せながらも、ユナは本題をつづけた。


「でも…… 《トラワレ》を成仏させてされないようじゃあ……お札の交換しながらの、長い取り組みになるわね。」

「そんな、僕なんかのためにお時間お手間を取らせるわけには参りません……。もう悪いことはしませんので、僕の事は放っておいてください。」

「勘違いしないでほしいわね。」


 ユナは長い髪をかき上げる。


「これは、この街のためよ。今はお札で抑えてるだけって話で、あなた達 《ごーすと》はマイナスのエネルギーの塊よ。そんなのにこのへんウロウロされたら溜まったもんじゃない。どんな負の連鎖が起きるか分からないわよ。そういうことだから、世話されなさい。」

「はい……。」


 塗り壁は公園の真ん中で、申し訳なさそうに頭を下げる。それはまるで、取引先にお詫びを入れる会社員のようだった。


 そうと決まると、ユナとメイが今後について話し始めた。どういう風に彼の力を抑えるかとか、諸注意はどうするかなどといった事務的な事である。


 その様子をベンチからふてぶてしく眺めていたカケルが、体の痛い場所を庇いながら立ち上がる。その様子にユナがいち早く気付いた。


「あら?噂堂くん、いたのね。……お家帰るの?タクシー呼ぼうか?それとも病院に行く?」

「やめてくださいよ……。ユナ先輩が優しいなんてなんだか怖いなぁ。」

「なによ。私だって怪我している後輩には優しいわよ。」


 メイがゆっくりと彼に寄りそう。


「なぁおい、私着いてくよ家まで。」

「はは……そりゃいいですね。でもそれより、皆の塗り壁さん家探し手伝わないと。」

「おいおい。いいよ。今から探すんじゃあ時間かかるし」


 彼女はそういうと、彼の肩を担ぐ。それと反対側の肩をユナが持とうとする。


「待ってください、待ってください。そんな時間かかんないっすよ。」

「かかるだろ、手掛かりなしだぞ。こいつが何処の誰か……どのへんに住んでるかさえ分かんない。」

「そうよ。いくら情報通のあなたでも、今日明日でこの 《ごーすと》の正体を探し出すことは出来ないわ。はやく家に帰りなさい、そして病院行きなさい。頭の。」


 言い過ぎだろ。とカケルはボソリと呟いた。彼は彼女らの腕から離れると、無事だと表明するようにピースサインをした。それから彼は不思議そうに見る先輩らに対してこう言った。


「俺を誰だと思ってるんすか。塗り壁さんの家なら大体もう分かってますよ!」


 驚いたように、メイとユナは顔を見合わせた。


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