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青春怪奇譚 ごーすとれいと   作者: しゃぼねっと
其之弐 塗り壁編
20/35

#17 壁の公園

カケルのやらかしてきた過去は

ちゃんと後で語ります

ちゃぁぁんと最後までみ・て・ね


夕令せきりょう高校

この物語の舞台。通称ユーレイ高校。怪談の絶えない私立高校。


県立西高等学校

通称県西。ガラも偏差値も悪い高校。


切崎きりさきメイ

銀髪の少女。学校の人気者。ピンクパーカー。


殴坂おうさかユナ

黒髪ロングで美少女の不思議ちゃん。

「赤ジャーの殴坂」と恐れられる元伝説の不良。


噂堂すどうカケル

金髪。人脈の広い情報通。黒いヘアバンドを愛用している一つ下の後輩。


聴波(きくなみ) ハルカ

焦げ茶の髪を二つに結ったメガネ少女。魂の声を聞くことが出来る。


 カケルがゆっくりとまぶたを開くと、目の前に正体不明のピンクの山があった。

 しばらく眺めた後、カケルはそれがメイの豊満な胸部である事に気が付いた。そして、自分が枕にしているのは、体勢的に彼女のふとももである。自分は公園のベンチに寝転がっているのだ。そう理解した。体の節々が痛むが、それでこの美味しい状況に居るというのは、役得と言えるのではないだろうか?そんな事さえ思った。

「素敵な眺めっすね。」

「……起きて第一声がそれかよ」

 カケルが起きた事に彼女も気が付いたようだ。呆れてはいるものの、その表情は慈しみであふれている。彼女が少し動くと、お互いに顔を確認できるようになった。カケルの目には優しく笑う彼女が映った。彼は彼女に笑い返そうとした。しかし腹部が鋭く刺されたように痛んだ。

「いてて」

「おい、大丈夫か」

「まぁ……大丈夫っす」

 彼にはどうして自分が彼女の膝枕で寝ているか、大方の予はが付いていた。

「メイ、俺……結局あんたに迷惑かけちまったんすね。」

 彼は悪樹を追い払おうと、恩のあるメイにさえ黙って行動していた。しかし最終的にそれは叶わず、その彼女に解決してもらうことになってしまったのだ。彼としては情けなくて仕方が無い。

「ばぁか。小っちゃいこと気にしてんじゃねぇよ。あんな連中、迷惑とも思えない弱さだったっつの。」

 カケルは笑った。以前助けてもらった時にも、連中は瞬殺されていたことを思い出す。恐らくは今回も時間をほとんどかけなかったのだろう。

 事件が一段落した今、カケルの胸中は複雑だった。おそらく家族に危害が及ぶことはないし、メイやユナ達が彼らを認知した以上、もはやなにも心配する事は無い。それでも胸につっかえているものはまだある。自分の尊敬する先輩達を傷つけてしまった事だ。

 なんとか彼女にそれを伝えたかった。カケルは震える声で喋り始める。

「俺、一人で何とかしなきゃって思っちゃって。もう過去の事で誰かに迷惑かけるのは嫌だって突っ走って……」

「カケル……もう良いって。意地張ったのはお互い様だろ?」

 メイは彼の額に優しくその手を置いた。それでもカケルは、彼女に自分の思いを伝える。

「恥ずかしいんすよ。とにかく昔の事が……知られたくなくて、あいつらの事をあんたらの視界に入れる事すら嫌で……でも結局おれ、メイに助けてもらわないとダメで……。かっこ悪いっすよね俺?何してんだろう……ごめんなさい、本当にごめんなさい。心配かけてごめんなさい」

 彼は自分の眼に袖を押し当てて泣き出してしまった。

 カケルは自身の行動が、尊敬する先輩達に望まれるものではないとは分かっていた。メイは普段から彼のことを気にかけていたし、ユナも別の学校にだって乗り込む超危険人物である。それにああみえて、カケルのことを大切な友達と思っている。

 そんな二人ならカケルが脅されていると知ればだまっちゃいない事も理解していた。

 彼自身、昔から人には決して褒められない事をしていた。一度はメイに手助けを受けて足を洗ったカケルは、今回は自身の手で片付けたかったのだ。

 人は彼の行為を漢らしいと言ったり、自業自得だと言ったりするだろう。だが彼の頭にあったのはそんな事ではない。自分を友人と呼んでくれる学校の人間、今まで迷惑をかけた家族に要らぬ世話をかけたくない。その一心だけである。

 だからこそ恥ずかしかった。結局余計に心配させただけだということが恥ずかしかった。自分がただのマヌケに見えた。

 それがカケルの涙の理由だった。

 そんなカケルの事をメイは優しい微笑みで迎えた。彼の行動の意味を理解できたからだ。優しく彼の涙を指先で拭い、頭を撫でる。

「かっこよかったよお前。私達をどうにかしてあいつらから守ろうとしてくれたんだもんな。」

「聞いてたのかよ……」

 余計に彼は恥ずかしくなった。メイはそんな彼の事を愛おしく思った。優しく笑いかける。

「情けねぇ声出してんじゃねぇよ。ありがとう、嬉しかったよ。」

「傷付けてごめん……面倒かけてごめん……」

 涙が溢れて止まらない。今度は嬉しいのだ。こんなにも情けない自分を受け入れてくれる仲間がいる。遠慮せずに友人として迎え入れてくれる。例えるなら迷子の子供が、親を見つけた時のような安心感だ。堰を切るように泣き出した。

「な、カケル。私も今回、意地張ってすげぇ後悔した。お前がこんなに痛めつけられて、正直何よりも辛かったよ。」

 メイも意地を張った一人である。少なくともあの時、ユナと一緒にカケルを追いかけていれば……こんなに彼が傷付かなくて済んだのではないか。そう自分を責めていた。こう続ける。

「だからさ。お互いに意地を張るのはやめよう。どうせ私ら、お前も含めて変に勘が良い連中が揃ってんだしさ。隠し事もなしだ。そうしようぜ?聞かれたら正直に答える。それでこの話はナシだ」

「分かった……メイ、ありがとう……」

 お互いに真剣なまなざしを交わした後、メイは大きくため息を吐いた。色々と緊張が解けたのだ。彼の怪我、悪樹たちの報復……色々な心配事が無くなった。メイはいつもの様に喋り出す。

「もぉ~ほんと無事でよかったぁ~!殺されてないか心配したんだからな!?」

「まじでごめん」

「はぁ~全然目覚まさないから救急車呼ぶかなって焦って……あ、やべ私まで涙出て来たし」

 メイはブレザーの袖で目元を擦る。その様子をカケルは嬉しそうに眺めた。

「でもまぁいい景色だなぁ。」

「いつまで胸の事いってんだよ。」

「違いますよ。泣いてるメイが可愛いなって話。」

「人をおちょくってるとぶっ飛ばすぞ」

 メイはカケルのおでこを人差し指で突いた。カケルは嬉しそうに笑いだす。

「いてて……今日はほんと、散々な日だよ。」

 メイは急に鎖骨の下あたりを抑えた。カケルは思わず膝枕から起き上る。

「えっ!あいつらにやられたんすか?」

「ちげえーよ。誰があんな素人集団に……ユナだよ。」

「ユナ先輩?」

 カケルはその言葉の意味が分からなかった。どうしてメイがユナに攻撃されるのだろうか。メイは自虐的に話し出す。

「そう、恥ずかしい話だけどよ。意地張んなつってぶっ飛ばされてさ。あいつホント信じらんねぇ、ベンチ一撃で粉砕するし坂前の柵はなぎ倒すし」

 思わずカケルは笑い声をあげた。

「いやーはははははは、流石だなぁ!イテテテ……」

 彼は痛む腹のあたりを抑えた。メイは心配で駆け寄った。

「おい……病院行く?」

「いや……とりあえずは大丈夫です。明日学校休んで行きます。」

 そういうと彼はまたメイの膝に頭を乗せた。

「なんでまた寝るんだよ」

「先輩の太もも柔らかくて暖かいですね……いい枕。」

「エロおやじ」

 カケルは彼女に耳をつままれながら公園の景色を眺める。もう六時を越えている為、誰も公園内に居ない。メイは背伸びをした。声が公園に響く。

「ふ~っ。とりあえずユナにはここ伝えてあるから……。壁探しに時間をかかっているみたいだし、一旦合流だって。お前は帰るだろ?」

「ちょっと今日は帰りますよ……体いてぇし……あっ我が愛しの妹に会いたい!アユムに会いたい~!」

 肩の荷も降りたようだ。いつもの調子でカケルも話し始める。

「シスコンかよ」

 メイは彼を揶揄した。

「やだなぁ~俺は家族みんなが大好きなんですよ。いわばファミコンっす」

 16bit?お前家庭用ゲーム機なの?メイは呟いた。

「あ~はやく帰りたい(・・・・)なぁ~」

 カケルは、帰りたいと言った。

「じゃ、とっととどけよ……あ?」

 空気が変わった。素人なら気が付かないわずかな変化だ。メイの表情が真剣なものに変わった。

「先輩、もう少しだけ……ああ、むちむちのふとももひんやりですねぇ」

「違う、今度またしてやるから早く。」

 カケルは急にメイの変化に気付く。膝枕の二度目の約束も取り付けた事だし、素直にベンチに座り直す。

「メイ、どうしたんだよ」

「これは……まさか結界(けーじ)?どうしていきなり」

「けーじ……?檻っすか」

「ごーすとの中には儀式をする事で顕現する個体がいるのは分かるだろうが、中には『常に存在し続けて、限定範囲で何かアクションを起こすタイプ』が存在するんだ。ずっとそばにいてたま~に悪戯する連中だ。」

 カケルはちんぷんかんな顔をしていた。言っている意味が分からないのではない。

「はぁ。……なんで結界にわざわざ別の呼び名(ルビ)が?」

「ああこれ?ユナが、『キャッチーな方がいい』つってさ。」

 妖怪(ごーすと)もユナの付けた『キャッチーな呼び方』である。二人は事態の把握をする為、ひとまず公園の出口へと向かう。

「とにかく……なんらかの条件を満たしてしまって、結界(けーじ)に入れられた可能性がある。いったいどんな結界に……は?」

「あれ?ここって公園の出口ですよね?普通こんなものが置いてあるとは思えないんすけど」

 彼らの前にあるのは壁だ。二人は立ち止まって壁を見上げる。それもそのはず。そんなものが公園の出入り口なんかに存在しているわけがない。見回すと、どこを見ても壁がある。

 公園全てをいつのまにか覆いつくしていた無数の壁を、二人は紫色に変わっていく夕焼け空と共に仰いでいた。


もしカケルを褒めるとするならば

友達思いなとこを褒めてあげてくださいね。

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