表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青春怪奇譚 ごーすとれいと   作者: しゃぼねっと
其之弐 塗り壁編
15/35

#12 ざ・しーくれっと

ユナの意外な一面を是非


夕令せきりょう高校

この物語の舞台。通称ユーレイ高校。怪談の絶えない私立高校。


県立西高等学校

通称県西。ガラも偏差値も悪い高校。


切崎きりさきメイ

銀髪の少女。学校の人気者。ピンクパーカー。


殴坂おうさかユナ

黒髪ロングで美少女の不思議ちゃん。

「赤ジャーの殴坂」と恐れられる元伝説の不良。


噂堂すどうカケル

金髪。人脈の広い情報通。黒いヘアバンドを愛用している一つ下の後輩。


聴波(きくなみ) ハルカ

焦げ茶の髪を二つに結ったメガネ少女。魂の声を聞くことが出来る。


 昼休みになってメイとハルカは食堂に向かっていた。

「ほんとカケル君、大事が無くてよかったよね。」

「……」

 メイは未だにカケルの事が気懸りで仕方なかった。頭の中が彼の事で一杯で、ハルカの声は届いていようである。

「ねぇ、メイちゃん?」

「ああ……まぁな」

 歯切れの悪い返事がハルカに返ってきた。

「で、でもメイちゃんが来た一限の休み時間面白かった~」

 なんとか場を盛り上げようとハルカは話題を出すのに必死だった。咳払いをすると、その時のユナの真似をした。

「んっんっ!『あら~メイちゃん??やけに学校来るのが遅かったみたいだ・け・どぉ?一体ィ……?一体お部屋で何してたのかしらぁ?カケルく・んと。』」

 メイはそれを聞いて弾けるように笑った。立ち止まって腹を抱える。

「うふふふはははははははは‼めっちゃ、めっちゃ似てる!はははははは」

「え?似てるかな?」

 ハルカはとても嬉しそうな顔をした。物真似を続ける。

「『知っているかしら?平成仮面ライダーのスーツアクターは、全員高岩さんと思われがちだけどクウガと響鬼はちがうのよ。これ、ファンの常識!』」

「知らねー!ははははは!お前物真似上手いんだなぁ……!ふふふふ」

 ユナの物真似が余りにも似ていたため、二人はしばらく笑い通しだった。落ち着いた後も、笑いの余韻に浸っている。

「メイちゃん『一人で大爆笑』だね」

「あれ?爆笑って、主語複数人じゃなかったっけ?」

 ハルカは笑いすぎてズレた眼鏡をくいっと直した。メイの質問に答える。

「実はそういう訳でもないんだよ。広辞苑第六版までは確かに『大勢で』っていう風に載っているんだけど、第七版からは『弾けるように笑う』っていうふうに変わっていったんだよ。」

「へぇ……時代と共に変わっていったって事?」

 誤用されていく中で、意味が変わっていく言葉というのは多い。例えば『確信犯』などが良い例だ。本来の意味は『政治・宗教などの思想を基に行われる犯罪』のことである。しかし今では『悪いと知ってて行われる犯罪』というものに変わりつつある。

 しかしそれに、ううん。と首を横に振るハルカ。

「そもそも『爆笑』は昭和初期になって使われ始めた言葉で、比較的新しい語彙なんだ。その当時の小説、徳田秋声の『街の踊り場』でも爆笑の主語は一人だったんだよ。一説では、辞書でこの『爆笑』が複数人称のものであると扱われるようになって、定着して他でも使われるようになっていったって言われてるよ。」

 へえ。メイは感嘆の声を上げる。

「ハルカ、お前は何でも知ってるんだなぁ」

「なんでもじゃない、勉強のことだけ。」

 二人は話しながら食堂に入っていった。席にはカケルが座っている。いつも四人分の席が確保されている。カケルがいの一番に占領しているのもあるが、他の生徒が彼らに遠慮しているのだ。カケルが二人に向かって手を振る。

「あ、先輩方。お疲れーっす。」

 彼の目の前できつねうどんが湯気を上げている。カケルは購買で売っているパンをおもむろに三つ取り出した。

「これ、メロンパンです。ご心配かけたんで」

「わぁ噂堂くんありがとう。」

 嬉しそうなハルカとは対照的に、メイが怪訝な顔をする。

「カケル……お前さぁ。」

 睨みを利かせるメイに、カケルが大袈裟に身振り手振りをしながら弁解した。

「いやメイ!これは普通っしょ!八〇円カケル三つはそんな顔されるほどのもんじゃないっすから」

「そうかぁ?」

 いつもと違う点を見つけたハルカが、ポンポンとメイの肩を叩いた。

「……ねえ、メイちゃんいつの間に呼び捨てになってるの?」

 よく気が付いたとメイは素直に感心した。ほんの少しのやり取りで、呼び方の変化に気付くとは。ハルカの観察力は侮れないものである。

 メイは顔を赤くして押し黙る。弁解をしようにも、ただ口を滑らせそうな予感しかしないのだ。ハルカは未だ好奇に満ち溢れた表情でこちらを見ていた。

 不思議そうな顔でカケルが辺りを見渡した。いつも彼女らと一緒に来るユナが居ないのだ。毎度昼飯前に毒を吐かれるはずなのだが、今日はまだ喰らっていない。

「あれ?ユナ先輩は」

「ああ……あいつ?彼氏と飯だよ」

「えっ?」

 カケルは聞き直した。メイは少し聞き取りやすいように、もう一度言った。

「聴こえなかった?彼氏と、昼ごはん一緒に食ってんだって。」

「ええっ。ええええええ⁉」

 驚天動地でも起きたかのような声に、食堂中の目線が集まる。カケルはうどんを手に持つと女子二人のもとに寄る。周りに聞こえない為の配慮である。

「嘘ッ嘘ッ⁉いたの?あの人、彼氏?」

 あの人に(・・・・)?とカケルは付け足した。メイは意外そうな顔をする。そんな反応は予想しなかったようだ。

「あれ?知らなかったんだ?この学校イチの情報通のお前が」

「うん!……え、ハルカちゃん知ってた?」

 ハルカはカケルの質問に頷く。

「この前のお泊り会で。……ちょっとショックだった。」

「ショック……?」

 カケルは目を細めた。聞き逃せない言葉である。

「『赤いジャージ同盟』古参メンバー、しかもユナちゃんの同級生の私ですらまったく知らなかった。ほんと……ショックだった……。」

 ハルカはうなだれた。大ファンの女の子に彼氏がいることが相当堪えたらしい。本人の前では隠しているものの、実はずっとこの調子なのである。

「あ……そんな感じだったんだ。お前らが居ると彼氏の話しないなぁとは思ってたんだ。」

 メイはまわりとの情報の違いに驚いていた。困惑気味の二人の顔を見ながらメイは言った。

「……見に行く?あいつの彼氏。」

 食堂の裏、の裏。わざわざ生徒が行くことなどない場所である。行ったとしても、背を向けた室外機達とブロックが鎮座しているだけである。ブロック幾つかを座りやすいように重ねて、二人の男女が弁当箱を広げていた。

 そこに居るのは美しい花すら咲くことを恥じる黒い髪の美少女、殴坂ユナ。そして隣には、飾り気のない無骨なフレームなしの眼鏡をかけた、二年C組の委員長……絵にかいたような優等生である恋橋(こいはし)レンだった。

 メイ、カケル、ハルカの三人は少し遠い場所からその様子を覗き見ていた。

「うっそぉ~。ホントなのかよ……」

「ユナちゃん……彼氏かぁ……」

 約二名がショックそうに声を出している。

「お前ら、人に言うなよ。特にカケル。」

「は?なんで俺。」

「お前すごい情報量と人脈あんだからさ」

 分かってますよぉ。とカケルは口を尖らせる。その横ではハルカがため息ばかりを吐いていた。ユナに彼氏が実在しているのが、よっぽど気に入らないらしい。

 一方で恋人達は、楽しそうに会話をしている。

「最近君も友達が増えたみたいで安心したよ。切崎さんとしかいるところを見たことがなかったからさ。」

 恋橋レンは知的な言葉遣いでメイに話しかけていた。

「そうね。今年になって色々交遊も増えたわ。最近は金髪バカ(噂堂くん)と、同じクラスの聴波さんとも友達になったわ。」

 バカ……。カケルがぼそりと呟く。

 恋橋レンは言いづらそうに切り出した。

「これは僕の偏見かもしれないんだけど……彼は大丈夫なのかい?」

 彼は、おそらくカケルの外見のことを言っているのだろう。他人からすればただの不良にしか見えない。優等生の彼は、恋人の友達として安心していいか気がかりなのである。ユナは彼に微笑み返す。

「そんなことはないわ。あいつはバカで、無礼者で、チャラついたヤローだけれど、とっても良い奴よ。あの子(・・・)の面倒もよく見てくれるし。」

 カケルはちょっと嬉しそうな表情をメイに見せる。

「あの子って切崎さんの事?本当に仲良しだね」

 レンの言葉に、ユナは一際嬉しそうな顔で応える。

「ええ。メイの事とっても大好きだから。」

 対面じゃないからこそ聞ける本音であった。後ろのメイをカケルがニヤついた顔で見ると、彼女は真っ赤な顔を手で隠していた。

「妬いてしまうな。僕の事は?」

「勿論好きよ。大好きだわ。」

 恋人同士の戯れに耐えられなくなった三人は、彼らから少し離れる。ある程度距離を取ると、ヒソヒソ声で話し始めた。

「まぁ。という訳だからさ……。ハルカ⁉泣いてるのかお前!」

 ハルカが声も出さずポロポロ涙をこぼしていた。その異様な姿にカケルとメイは大きく一歩遠ざかる。

「私……応援する。幸せを願うよ……」

 ハルカはそう言いながらハンカチで涙を拭き始めた。カケルは楽しそうにそれを眺めた。

「ファンも大変っすね、ハルカちゃん。そうだ……メイ、心配しなくても誰にも言わないっすよ。あの人の事は俺も応援したいっすから。」

「ま、頼むぜ。……うどん食えよ、伸びるぜ。」

 メイは安心したようで、笑みを浮かべた。うどんを指でさす。思い出したように、カケルは手に持っていたきつねうどんのお揚げを食べ始めた。音をたてないように静かにである。それを見たハルカはポケットからコショウを取り出す。

「あ、カケル君。これ要る?」

「ええ?持ってきてたんすか?あざっす。」

 カケルはコショウを勢いよくうどんに入れる。辺りにコショウが舞い散った。

その時、不思議なことが起こった!入り組んでいる食堂の裏側に突然風が吹き入ったのだ。それはおそらく天文学的な確率だろう。その宙に舞ったコショウがメイの鼻腔に侵入したのだ。

「は……は……」

 それらは彼女の鼻をくすぐった。その刹那、メイは大きな声でくしゃみをした。食堂の壁に声が反響する。

「くちゅん!」

「ははっ。えらく可愛いくしゃみ……あっ。」

 女の子らしいくしゃみを小馬鹿にしようとした時、カケルは固まった。彼の目線の先で、ユナがこちらを覗いていたからだ。食堂の裏から恨めしそうにこちらを見ているのである。その表情はまるで、惨殺死体でも発見したかのようだった。かすれた声で三人に尋ねる。

「おい……どっから見てた?」

「友達が増えた云々から」

 カケルがそう答えた瞬間、ユナは絶叫した。彼女がどれだけ恥ずかしい事を聞かれていたか悟ったのだ。メイへのストレートな思いも、カケルを認める発言も聞かれていたということなのだ。

「ぽべばあああああああああああああ‼」

 普段あれだけピーキーな発言をしているのだ、裏では真面目に人間関係を考えているなど知られたくはない。そんなのはとんだピエロである。

 恥ずかしさに悶える声が学校中に響いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ