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青春怪奇譚 ごーすとれいと   作者: しゃぼねっと
其之弐 塗り壁編
14/35

#11 Injured

少しリア充成分あります

ご注意(笑)


夕令せきりょう高校

この物語の舞台。通称ユーレイ高校。怪談の絶えない私立高校。


県立西高等学校

通称県西。ガラも偏差値も悪い高校。


切崎きりさきメイ

銀髪の少女。学校の人気者。ピンクパーカー。


殴坂おうさかユナ

黒髪ロングで美少女の不思議ちゃん。

「赤ジャーの殴坂」と恐れられる元伝説の不良。


噂堂すどうカケル

金髪。人脈の広い情報通。黒いヘアバンドを愛用している一つ下の後輩。


聴波(きくなみ) ハルカ

焦げ茶の髪を二つに結ったメガネ少女。魂の声を聞くことが出来る。

 少年少女らはいつもT字路で待ち合わせる。学校に行く前に集合するお決まりの場所にいつの間にかなっていた。路地の多いこの街だが、カーブミラーがあるのはこのT字路が目印だ。


 黒い髪の麗しの美少女、殴坂ユナ。銀色の髪のピンクパーカー、白銀の美しい風采、切崎メイ。茶色い頭の眼鏡学生、聴波ハルカの三人はこの場所で待ち合わせをしてから学校に行く。ここにもう一人噂堂カケルが来なければならないのだが、五分過ぎても来ない。


 メイはスマホを弄りながら時間を確認した。ユナがそのスマホの画面をのぞき込む。


「遅いわ」

「どうしたのかなぁ噂堂くん」


 ユナとハルカは顔を見合わせる。カケルは今まで毎日誰よりもはやくこの集合場所に来ていたし、病欠する時は連絡がメイに行っていた。

 

「聞いてないの?メイ」

「なんで私に聞くんだよ」


 メイはスマホでまとめサイトを見ながら言う。


 ユナはメイのスマホの裏に貼ってあるプリクラを覗き見る。その表情はまるで麗しい美少女の私生活を覗き見る下衆のようにいやらしいものだった。


「これはなんだぁ?デートかぁ?」

「は!?遊びに行っただけだし」


 不必要な大きなリアクションと共に、メイはユナの言葉を否定した。ユナは自身の携帯を急に取り出すと、彼女とハルカがお泊り会をした写真を見せつけた。ちなみに彼女の携帯は二つ折りの古い携帯である。


「見て!これ!」

「へえ……お泊り会したんだ。今週の土日お前んち行かなかった間に」

「えっ。そんなうっすい反応?」


 ユナは面食らった様子だった。もっと『羨ましいなぁ』という反応を期待していたからである。


「あ?……いや、楽しそうだな。今度は私も誘ってくれよ。」

「うん…………。」

「メイちゃんともお泊りしたい!」


 先日ユナの家に泊まったハルカが、ワクワクした表情で言う。


「いいな。『ジュラシックパーク』シリーズのDVDあるから一緒に見ようや。」


 楽しそうに会話をするメイとハルカを横目に、ユナはつまらなさそうにガラケーをかしかし弄った。


「ねえメイちゃん?プリクラって何?」

「あれ、知らねえの」


 ハルカの言葉に驚くメイ。


「あれかな?日曜朝にやってる」

「それプリキュアだ」


 全然違う。別物に変身するあたり似てる気がしなくもないが違う。


「ええっと真田?」

「それは幸村じゃないか」


 教科書をめくった時、真田プリクラとか居たらびっくりする。とんだねつ造だ、盛ってる(・・・・)。400円で写真撮ってくれるのか。


「プリントクラブ?」

「それは…………」


 メイは少し考えた。


「そうだ……な?」


 確かプリクラはプリント倶楽部の略だったよな?この流れでそれを続けられるとメイは何故か断言できなかった。


「自撮りとかプリクラとか、よく分からないわ。ガラケーの私には」

「お前いつまでガラケーなんだよ。早く変えろスマホに」


 メイの言葉にユナは悲しげな顔をする。


「無理よ。我が家は皆機械音痴なの。私はゲームとかは分かるんだけど、携帯とかパソコンはうちの一家はてんでダメ。」

「いや……色々教えてあげるけど」

「多分無理よ。一番機械に強いうちの姉様でも本当にダメ」


 そんなに?ハルカが真実を疑うように聞く。


「少し前……あの姉様から電話がかかって来たわ。あの強情な姉様が辛そうに泣いてた。『だめ!助けてユナ!wordは頑張って開いたけど、文字が打てないの!どうしてかアルファベットになってしまうの!「わ」と打ち込んでるつもりなのに、「0」が現れるの!どうして!?このままじゃあ大学のレポート提出できないわ』つって。」

「ええ……」


 二人は信じられないといった様子で聞く。


「普段なら姉様が泣いててもざまぁ見ろとしか思わないけど、あの時ばかりは明日は我が身だと思って頑張って調べたわ。本当……逆にかわいそうで仕方なかった。一日かかって二人で文字を打つ仕組みを理解できたの」

「ユナちゃんのお姉さん、提出できたの?レポート」


 おそるおそるハルカが聞く。


「落単したって。……必修らしいわ。文字を打つ速さが絶望的に遅かったの。」

 うわぁ……。思わず憐みの声がでる二人。


 三人が機械音痴に付いて色々議論を交わしている時だった。カケルがいつもより十分ほど遅く到着した。


「あら。かたつむりでもやって来たのかと思ったら、噂堂くんじゃ……ちょっとどしたの」


ユナはいつもの調子でカケルを小馬鹿にする冗談を言おうとしていたが急にそれを止めた。そして深刻な表情をする。


 何故ならカケルは明らかにいつもとは違う様子だったからだ。カッターシャツが土で黒く汚れており、唇を切ったのか少し血が垂れている。顔にも青あざと擦り傷が出来ている。まっすぐ立っておらず、腕を痛そうに抑えている。


「噂堂くん!」

「カケル!」


 一目散にメイが駆け寄った。


「お前……これ誰にやられた」

「なんで俺が喧嘩してきた前提なんすか。イテテ」


 メイが優しく触ったが、どうやらそれでも痛いようだった。


「いや……聞いて下さいよ。俺階段からころげ落ちちゃって!」


 メイとユナが顔を見合わせる。幾千練磨のユナにはその傷に見覚えがあった。すくなくとも階段落ちて付くような傷ではないことは見てすぐわかった。


「でもあなたその傷……」

「いや早く学校行きましょうよ。保健室行きたいんですけど」


 カケルはユナの言葉を遮る。


「待たせてすみませんほんと。行きましょうよユナちゃん」

「あなたね……!」


 彼のその言葉にユナが怒りの表情を浮かべた。いつも口を酸っぱくして言っている敬称を付けられなかったことではなく、彼が何かを隠して教えてくれない事である。何かをはぐらかされている。確証はないがユナは確信していた。


 すると怒っているかのような語気でメイがカケルにこう言った。


「お前、うち来い。救急セットあるから」


 カケルは目を丸くして驚いた。言葉を続けるのに少し詰まる。


「ちょ、ちょい待ってください。……お、女の子の家になんて、ねぇ?」


 ユナの方をちらりとカケルが見る。怒っているような視線だけが返ってくる。


「何言ってんだよ初めてじゃないだろうち来るのは」

「初めてじゃないんだ」


 ユナとハルカが声を揃える。カケルはその言葉に冷や汗が背中を伝う感覚を覚えた。


「私達は先行って担任に伝えてくるから」

「ありがとう。頼むわ」

「ちょっと!何勝手に」

「ほら行くぞ!」


 怪我をしているというのに、メイに強く引かれていくカケル。ハルカはその菅田を心配そうに眺めていた。喧嘩後の人間をあまり見た事がないハルカは、少し恐ろしくてユナの袖を引く。


「ねぇ大丈夫かな」

「まぁ多分ね。大きな喧嘩じゃないみたいだし。……全くあのバカの悪い癖ね。」


 ユナはため息をついた。


「私達はついて行ってあげなくてよかったの?」

「いいのよ。二人の愛の巣なのだから。」


 ポカーンとするハルカを連れて通学路へとユナは戻った。


 メイとカケルは彼女が住んでいる二階建てアパートのにたどり着いた。自身の部屋に入ったメイはカケルをいつも使っているベッドに座らせようとする。


 彼女の部屋はワンルームマンションである。十畳のやや広い部屋にベッド、机、テレビが置いてある。ベージュと薄いピンクを基調とした部屋で、可愛らしさはあるがやや女の子の一人暮らしとしては殺風景ではある。


「ベ……ベッドはだめっしょ」

「うるさい座れ。」


 ベッドに向かって家主の鋭い指が向けられる。これ以上不要に逆らっても良くない。そうカケルは感じた。彼が黙ったことを確認すると、メイは押し入れの中にある救急セットを取り出す。


「とりあえずだけど……」


 そういうとメイはカケルの横に膝立ちで座り、コットンに消毒液を付ける。それをピンセットでつまむと彼の頬に当てようとする。


「ちょちょちょちょ!」

「今度はなに!」


 体勢としてはベッドの上で男の上に女の子が覆いかぶさるように接近している形になる。急な密着にカケルはたじろいでメイの反対方向に動く。


「おい動くな!」

「急にそういうのは……」

「はぁ?」


 うっとおしそうに彼の行動を訝しむ声を上げると、なおも下がろうとするカケルの脚をメイ自身のふとももで挟み込んだ。そのあまりにも大胆な行動に、流石にカケルはその動きを止める。緊張もあるが、女の子のハリと柔らかさ、そして少し自分と違う体温を自身の太ももに感じて少し劣情を催している自分が居たからだ。


 おもわずカケルの喉と心臓のあたりがぎゆうっっと鳴る。生唾を飲む。彼はメイにそういうモノを向けたくないのだ。


 しかし思わず、彼女の胸にカケルの目線がくいっと動く。悪い気がして目を逸らそうと上に向くと今度は彼女の顔が近づいている。「ドキッ」と音が鳴ったと彼は確信する。ただ消毒しているだけなのに、なんだか罠にかけられている気がしてカケルは変な笑いが出そうになっていた。


「メイ……これは流石に」


 彼女はもはや彼の言葉を無視して処置を施す。頬に消毒液を塗り、絆創膏を手早く剥がしてその上に貼る。一連の動作は手慣れている様子が感じられた。合計で顔と腕の五ヵ所に貼る。


「よし」

「終わりました?」


 ただ絆創膏を貼ってもらっているだけなのに彼は異常な疲れを感じた。


「どっか痛む?青あざとか他ないか?」

「あ……えっと」


 彼は無意識にわき腹を抑えた。


「…………」

「…………脱げ」

「いやいや、いやいやいや」

「いやいや。いやいやじゃねえよてめえ」


 メイはそのままの姿勢で彼の眼を見つめる。


「なんか怒ってます?」

「別に………つかこれ、本当に階段?」

「え?…………そうっすよ」


 カケルは答える。


「あのマンションの四階に暮らすお前が?階段で。」

「ああ、たまに健康のために…………のいてくださいよ、そろそろ」


 その言葉に黙ったままで彼の身体にメイは自身の手を置く。


「ほええ」


 更に加えられた優しい温かみに、カケルの口から気の抜けた声が零れた。


「それ、いつもの恩を返そうだとか迷惑を掛けない様にしようだとか、そういうんじゃないよな」

「心配しないでも、まじで怪我っすよ。落ち着いて下さい。誰かに喧嘩とか俺売らないっす。……俺の事、信じてくれないの?メイ」


 五秒。彼らの間に沈黙が流れる。部屋の中にあるメイのシャンプーの匂い、薔薇の匂いがカケルの鼻の奥をこそばす。それが一層強くなった気がした。


「それ以上にお前が良い奴だって知ってるからな。……いえよ。なんかあったらマジでさ。」


 そう呟くと、彼女はカケルの青あざが在りそうなところを手で触り始める。


「ちょっ、ふははははは!こそばゆいこそばゆい!!イテ!!」

「ここか?ここかぁ!?このエセ金髪!」


 それがまるでマラソンのスタートの合図のように、湿布を全て貼り終わるまで二人はベッドでもつれ合った。

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