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青春怪奇譚 ごーすとれいと   作者: しゃぼねっと
其之弐 塗り壁編
13/35

#10 勝手に来る壁

さて塗り壁編の始まりです。

この話、カケル君がとにかくイケメンです。

ちゃらいですが、とにかくいい男なのです。


夕令せきりょう高校

この物語の舞台。通称ユーレイ高校。

名前の因果か怪談の絶えない私立高校。


県立西高等学校

通称県西。ガラも偏差値も悪い高校。

問題児がこれでもかと集っている。


殴坂おうさかユナ

黒髪ロングの美少女。つかみどころのない不思議ちゃん。

格闘戦が得意。近隣では「赤ジャーの殴坂」と恐れられる元伝説の不良。

ストッキング愛用。貧乳。

平成仮面ライダーが好き。


噂堂すどうカケル

金髪はまさかの染めたもの。人脈の広い情報通。

チャラいけど実は人は大事にする優しい青年。

黒いヘアバンドを愛用している。成績はすこぶる悪い。

メタルギアソリッドシリーズが好き。

 人間は『壁』という言葉を聞いて、何を思い浮かべるのだろうか。建築物に使われる遮蔽物の役割を果たすものだったり、人生における障害物であったりを『壁』として形容するののではないだろうか。

 ただ、一部の人間。とりわけ日本人はある妖怪を思い出すのではないだろうか?『塗り壁』のことを……。

 塗り壁とはおおきな壁に目・手・足の生えたものだ。我々日本人にとってはポピュラーな妖怪である。

 実はこの妖怪、大分県発祥の妖怪である。夜道、急に目の前が壁と変り果てるとともに、どう頑張ってもその壁を越える事も抜ける事も出来ないという怪異現象を引き起こす。彼らの正体はたぬきやイタチが化けたものであり、動物が引き起こすものとして語り継がれてきた。(諸説あり)

 きっと今のを聞いて意外に思っただろう。『へえ。塗り壁ってそういう妖怪だったんだ』という具合に。皆さんが知っている塗り壁が有名になった経緯と言うのは、かの有名な妖怪アニメ『ゲゲゲの鬼太郎』に出て来たあの塗り壁のイメージが定着したからである。

 妖怪と言うのは人間が信じる像で存在できる。語り継ぐ人間がどうその存在を定義するかが都市伝説では重要なのだ。いまやだれが塗り壁を一つの動物の害として語り継ぐのだろうか?妖怪は得体の知れなさが重要なのだ。ならばあの正体不明な姿が語り継ぐには最適ではないか。割と単純な話である。

 さあ、今日も今日とて(ごーすと)は現れる。夜道、何の罪もない敬虔なサラリーマンに立ち塞がるのだ。

 男は飲み会の帰りだった。自身が務める会社でのプロジェクトが終了し、打ち上げがあったのだ。彼はとても良い心地で帰路に就いていた。彼には最近家族が出来た。素敵な嫁さんと娘だ。会社でもうまくいき、良い家庭も築けている。

 彼は毎日が楽しみで仕方が無かった。彼は家で待つまだ幼い我が子を思い浮かべると、ある言葉(・・・・)が口をついて出る。

「早く帰りたいな(・・・・・)

 その時だった。

「あ……あれ?」


 男はまさに仰天、空を仰ぎ見た。いつも当たり前のように帰宅に使っている道なのだが、目の前に壁が出来ている。他の周りの塀や家屋と一緒の、大した差は無い壁である。ただ……問題なのは道の真ん中にデンと置かれているということだ。

 その違和感を例えるとするならば、和菓子のお店にシュークリームが置かれているような違和感。そりゃあ、菓子屋なんだからお菓子は置いてあるのは分かるのだが、和菓子屋に洋菓子を置く理由が分からない。といった具合だ。

 何故、こんなところに壁を建てる必要があったのか?何の目的がこの壁にはあるのか。男には測りかねていた。

 男は首をかしげながら道を変える。遠回りすれば帰れる。二分ほどのロスタイムだが仕方が無い。

 だが彼は驚く。ここにも先ほどと同じような壁が存在している。どういうことだ?区画整理か?いや、整理できてねぇじゃん。散らかってるじゃん。子供の遊び場じゃあ無いんだから。彼は口に出さず憤った。

 この後、彼は道を探した。愛しの我が家に帰るためにいくつもの道を探した。だが家まで導いてくれそうな道を見つける度に、彼はぶつかってしまうのだ

 ――『壁』にである。

 決して違和感は無く、明らかに自然に。まるで毎日顔を突き合している会社の同僚の様に彼は何度も壁を見つける。

「ど、どうなってるんだ⁉なんで家に帰れないんだ!」

 その正体不明の『見慣れた壁』は同じ道に立っているわけでは無い。地点を変えて彼の行く手を阻んでいる。

 帰れない。帰りたいのに帰れない。

 どこを曲がっても、まっすぐ行っても、戻っても戻ってもどこにも辿り着かないのだ。

 彼の血相が変わる。急に牙を剥く、いつも使っている帰り道。意味も分からず、どうしていいのかもわからない。よく見ればどの家も明かりがついていない。現時刻は十時。そんなことは絶対にありえない。街灯だけはいつも通り道を照らしている。

 不安と焦りそして疲れが、男の心拍数を加速させる。まるで町がそのまま敵になったかのような孤独と恐怖。全てが無言で彼を月夜に追い立てていた。

 いつまで歩けば、安住の地へ帰れるのか。

「うあああああああああああああ!!」

 とうとう気が狂いそうになって、彼は絶叫する。ただしその声は誰にも届くことは無い。

 いや……いつもと、帰宅時とも通勤時とも同じ調子で、『壁』には届いていた。



 噂堂カケルは毎朝五時過ぎに起きる。それは妹に弁当と、朝ご飯を作ってやらなければいけないからだ。自分の弁当は作らない。高校の食堂でいつも食べるからだ。

 今日の弁当の献立は残り物とサラダとおにぎりだ。彼は最近では、晩御飯に炒め物以外も用意できるようになってきた。

「兄ちゃんおはよう」

 パジャマ姿のカケルの妹が部屋から眠そうに出てきた。

「おっす!」

「……今日朝当番私じゃなかった?」

 妹のアユムは少し不機嫌そうだった。

「あれ?そうだっけぇ?まあ気にすんなよ早く支度しな」

 とぼけたようにいうカケルを、アユムは睨む。

「いつもいってんじゃん。世話焼きすぎるなって。」

 それだけいうと、彼女は身支度に向かう。

「好きに焼かせてくれよ」

 そうカケルは独り言を言うと、少し不慣れな様子で野菜を切った。

 今日の朝ご飯はトースターにバターを塗って、ベーコンと一緒に焼いた卵焼きにプチトマトを添えたものだ。アユムは牛乳、カケルはコーヒーを一緒に飲む。

「ヘイ兄ちゃん。学校最近どう」

「んん?楽しいよ。いい先輩達とか友達に囲まれてる」

「ふーん。……バイトはどう?」

 コーヒーを喉に流し込んで、カケルは答える。

「たまに大将の仕事も任されるようになった。俺マジで高校出たらあそこで働くかな~」

 愉快そうに彼は言う。

 彼らの家庭は母子家庭である。父親は事故で死に、兄は大学を辞めて働きに出た。社員寮付きの会社であくせく働き、家にお金を入れてくれている。

 母親も昼は派遣で働き、夜は個人経営のバーでパートとして働いている。今日は昼の仕事を入れていないので、眠くて布団から出てこない。カケルたちも彼女に少しでも休んでほしいので起こさない。テレビも付けずにご飯を食べる。

「……やっぱ高校出て働くの?」

「え?……そうだけど。」

 アユムが言いづらそうに話を切り出す。末っ子のアユムは大人しい女の子で、真面目な学生だ。静かにぽつぽつと物を言う話し方をする。

「私も……働いた方が良いよね。普通の高校出て」

「あー」

 彼女は今中学二年生だ。私立の高校を目指している。将来は県外の大学へ行き、最終的には医者として働きたいという夢があり、勉学に励んでいる。

 しかし周りの家族が働く傍ら、自分は働かずに学校に行っていいのか。そんな気遣いから出る質問を、カケルはあえて強く否定しない。コーヒーを飲み切る。

「どしたの?大学行きたくなくなった?」

「そうじゃないけど。ソウ兄ちゃんも母さんもカケル兄ちゃんも働いて……私ばっか勉強してていいのかなって。普通に高校で資格とって働いた方が良いんじゃないのかなって思う。たまに。」

 カケルはその気遣いが嬉しかった。にっこりと笑顔を見せる。

「気にしなくていいよ。兄貴と母ちゃんはお前がどんなつもりだって生活のために働くし、俺は馬鹿だからそもそも俺大学行くつもりがねえし。兄ちゃんはな、お前に夢持って生きて欲しいんだよ」

 アユムは目を細めてカケルを見る。

「でも……」

「あれさ、先輩の受け売りなんだけどさ。やっぱ生涯年収が違うみたいよ。大卒は」

 彼女の食べ終わった皿と、自分の食べ終わった皿を重ねはじめる。どうやら納得がいっていないアユムは、カケルからその皿をしゃくりとる。

「……あとあれらしいよ」

「なに」

 アユムは不愛想に答えた。

「夢っていうのは呪いと一緒なんだと。呪いを解くには夢をかなえるしかない……夢に挫折すると呪いは一生解けないんだってさ。俺はお前にそういう思いして欲しくねぇの。」

 まるで脅しのような言葉だが、これはユナの受け売りだった。彼女曰く何かの作品の受け売りらしい。受け売りの受け売りだった。

「とにかく心配すんな。俺は好きにやってんだって」

「……」

 皿を洗いながらアユムがぼそりと言った。

「にいちゃん靴下、片方違う」

「あり……」

 不揃いな靴下に、二人は思わず吹き出してしまった。

 彼らは支度を済ませると一階へと降りる。アユムは自転車通学なので、自転車に乗り込んだ。

「兄ちゃん、気を付けて」

「お前も、寄り道すんなよ」

「兄ちゃんがいうな」

 そういうと彼女は凄い勢いでカケルの反対方向に消えて行った。アユムは自転車を漕ぐ勢いがとても早い。カケルはおもわず笑ってしまった。弱虫ペダルかよ。

「行くかなぁ~俺も。」

 彼が満足げに歩き出して角を曲がった時だった。

「よぉ噂堂ォ」

 灰色の制服に身を包んだ、ガラの悪い生徒たちが三人ほどカケルの歩く方向に立っていた。この制服は県立西高校、通称県西のものだ。

悪樹アギ……?」

 カケルは怪訝な表情をする。一番前に立っている偉そうなパーマの男がカケルに近づく。

「久しぶりだなぁ~噂堂……?妹ちゃん、育ったなぁ~!あんだけ迷惑かけたのに、慕われちゃってまあ」

「何の用だ。もう俺ら仲間でもなんでもないしょ」

「へへ……。そうだなぁ。今回はよ、用があるからお前みたいな裏切り者に会いに来たんだぜ?」

 カケルと悪樹コウキは険しい顔で睨み合った。

 仮に人生に立ち塞がる障壁を『壁』と形容するならば、カケルにとっての差し当っての『壁』は悪樹コウのことだろう。

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