#9 花は君に添えて
花子さん編 エンディングです。
花村ハルコ。トイレの花子さんの基になった 《トラワレ》の名前と予想される人間の名前である。
カケルは調べて来た情報を語り始めた。これから語られる情報を証明してくれる人間はいないだろう。浮遊霊の状態の彼女を見れた人間は少なくともいない訳だし、花子さんの姿も彼女に似てはいるがやはり違うのだ。
それを皆分かったうえで、カケルの話を聞いた。
「ハルカ先輩と名前似てますね」
「えへへ」
ハルカがうれしそうな反応をする。しばらくして落ち着いた彼女は、ようやく話が出来るほどになっていた。花子さんとお別れを言えたこと自体も、彼女の胸を軽くしていた。
花村ハルコは親の都合で家を転々とする日々を送っていたそうだ。そのせいか友達もいなかったらしい。しかし、この学校が建つ前のこの場所の近く、ある日廃屋の近くでかくれんぼをする事になったという。
「気合入ったかくれんぼになったでしょうね。誰にも見つからないような場所で。」
カケルは新聞の切り抜きを見ながら呟いた。
不幸なことにその建物は取り壊しする事になっていた。花村ハルコ以外の子供たちは解体業者に見つかり追い出されたという。しかしハルコは廃屋のトイレの隅に隠れていたため業者も子供達も見つけることが出来なかった。そして……そのまま建物が壊されてしまったようだ。その瓦礫に潰されて亡くなったらしい。
「酷い話っすよね……誰も気が付かなかったって言うのは。大人に怒られたから一目散に逃げたっていうのはあるんでしょうけど……」
昼休みの屋上で、彼らは神妙な顔をしていた。
「私もトイレで孤独死するかもしれなかったんだね」
「……」
「……」
全員押し黙った。今のハルカの冗談は少し笑えない物だったからだ。
「でも……その花村さんと言う子は、どういう気持ちで亡くなったのかしら。」
ユナは腕を組んだ。
「その建物はきっと壊される予定だから電気も付いていなかったでしょうし……建築物を破壊する時の轟音は、おそらく恐怖を掻き立てるでしょうね。死という限りの無い恐怖ね」
真っ暗な建物の、静寂しかないトイレの中央で、空間が破られるような音を聞く。その場所で彼女が何を思うかは想像に易くない。
四人はまた少し沈黙する。それぞれが何を考えているかはお互いに分からない。一番最初に口を開いたのはメイだった。
「年齢は?どれくらいに死んだんだ
カケルは手に持っているメモに目をやる
「十歳……死んじゃったのはこの学校が出来るより前、三十五年くらい前っす。」
ハルカはほー、と感嘆の声を漏らした。
「私のお父さんが生まれたくらいだ」
ユナは驚いてハルカの方を見た。
「え?お前の父さん若くない?」
彼女らの年代の父母と言えば、大体四十歳を超えているぐらいである。
「うん……年の差結婚だったみたい。別れちゃったけど。兄弟も居ないし……そういえばユナちゃんは一人っ子?」
複雑な顔でユナが答える。
「お姉様が一人いるわ。とんでもない女よ。」
彼女の言い方はまるで仇のような言い草だった。ハルカはメイの家族構成も気になり、質問しようと身を乗り出した。
「へえ。メイちゃんは……」
「そうだ!皆で今日帰りに遊びに行きましょう!」
ユナが大きな声で話を遮った。あまりの不自然な切り方に、ハルカは何か思惑を感じざるを得なかった。
一方でカケルが楽しそうに、ユナの話に乗った。
「おっいいっすね!何処行きます?」
「噂堂くん、貴方はダメよ」
「なんでぇ!」
突然の冷たいあしらいであった。カケルが驚きの声を上げる。ハルカはその様子がおかしくて大きな声で笑った。
「私、カラオケが良いなぁ」
メイは腕を組んで提案する。カケルやユナが賛同する。
「あ~メイの歌また聞きたいわぁ」
「ユナ先輩声でかいんすから。また機械壊さないで下さいよ」
「うるさいわね。あんたマイクなし。」
皆で楽しそうに歓談する。ハルカはとぼけた顔でメイに聞いた。
「カラオケってあれだよね?飛んでくるボールをバットで打ち返す……」
「それバッティングセンターだろ!お前カラオケ行ったことないのか」
ハルカは必死に思い出そうとした。
「……あっ!弓矢でピン倒すやつ!」
数秒の間が出来た。何の話を知っているか、ハルカ以外の三人はさっぱりであった。
「たのしみだなぁ……!」
ユナとは違うベクトルの意味不明発言であった。
苦笑いしながらカケルは腕に付けている安物の時計を見た。その場にいる全員に聞く。
「そういえば皆さん、いいんですか?」
「なにが」
返事を返したメイに向かって彼が言う。
「昼休み終わりますけど。……まだ昼飯食ってないっすよね」
「……あ!」
昼休みの終わりを告げるチャイムと共に全員が叫んだ。
ということで、「ごーすとれいと トイレの花子さん編」完結です。
ありがとうございました。
初めてのなろうで色々と大変だったんですけど
とりあえず終わらせることが出来ました。
三万字程度の短いパートでした。
感動で涙が止まらない……というのはアレですが
まぁちょっぴり優しい気持ちになれたのではないでしょうか?
ホラーと思えばコメディだったり、バトルと思えば日常系だったり
ちょっと変わった小説ですね。
後日談と言うか番外編があります。こっちは本編以上に肩の力を抜いてお読みできると思います。
良ければ評価、ブクマ、感想お願いします。
また軽い気持ちで読める話を作らせていただきます。
あ、そうだ
Twitter @shabonet71232 しゃぼねっと
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