つぷっ
身内に不幸があり、更新が遅れてしまいました。
亀更新ではありますが、少しずつ書き進めて行こうと思いますので、お付き合いください。
落ち着きを取り戻した透とツキミが向かい合わせに座り、今後どうするかを話し合い始めた。
その様子をリアは少し離れた所で正座をしてチラチラと伺い見る。
テディを取り戻すための作戦会議なので、リアも会話には参加をしているが、ツキミの顔を見ては、視線を下ろして禿げを見て、手を伸ばしかけては辞め、薄っすらと涙を浮かべる。
透とツキミはそれを口には出さないで会議を続けるが、心の中で同じ事を思っていた。
うざい。
ただ、ツキミに許す気は無く、リアに必要最低限以上の会話は振らない。
元々人付き合いが上手い訳ではない透は、そんな状況にどうしたらいいかわからず、余計な事は言うまいと見て見ぬフリをして会議に集中した。
「とりあえず、あの少年少女達が強すぎるよな……。少年の声を聞けば、自分の意志とは関係なく、その言葉通りに動いちまうし。少女に見つめられれば、そもそも心が勝手に静められちまって、行動を起こそうっていう気にならねぇ」
「そうよね、身体を動かせないんじゃ、役立たずだわ……」
「2人は何を言っているのだ?別に普通に動けるのだ」
ツキミの心底不思議そうな言葉に、思わず2人は声を揃えて「え?」と返した。
それにつられて、ツキミも「え?」と返す。
「え?だってあの少年に、座れって言われたら、勝手に座っちまったし、答えろって言われたら、話したくないって思っていても洗いざらい話しちまったぞ?」
「あれ?でも、確かに、それに従ってたのって、私と透くんだけで、ツキミちゃんは座っても話しても無かったわよね……?」
2人の目がツキミを捉える。
ぽかーんとしたツキミが小首を傾げた。
「「どうして大丈夫だったの?」」
「えっ、そんな事言われても分からないのだ……」
息の合った2人に急に詰め寄られ、ツキミがたじろぐ。
「何でもいい。何か心当たりが無いか考えてみてくれ」
「わ、わかったのだ」
ツキミが考え込む間に、透とリアは作戦会議を続けていく。
全く身体の自由が利かなくなる2人とは違って、ツキミが動けるということは、勿論攻撃をする事も可能という事だ。
問題は少年少女の戦闘力が未知数だという事。
現状の丸々と太って動きが鈍くなっているツキミの力が、どこまで通用するのかが分からない。
「ツキミちゃんの魔術は凄いと思うけれど、初手で仕留められなかったら、少年の言葉の力で私達を肉壁にするかもしれないし……」
「確かにそうだな……。それなら、ツキミの乗った台車を押して部屋に向かうんだから、勢いをつけてツキミを転がして体当たりさせるってのはどうだ?その後は魔術で制圧してもらう感じで」
ツキミが考えながらうとうとし始めたので、心当たりを聞く事を諦め、体当たり&魔術ぶっぱ作戦を決行する事を2人は決めた。
その後数日間は部屋に食事が運び込まれるだけで、3人が再び青年に呼ばれる事は無かった。
食事の際に唯一の出入り口である扉が開けば、なんとか制圧してテディ救出を目論む事も出来たのだが、元のサイズのツキミでも通る事が難しい大きさの小窓から、食事が差し出されるだけ。
「これじゃあ、監禁と一緒じゃねえか」
「そうね……。しかも壁は勿論、あの女の子が嵌めて行った石すら壊せる気がしないし」
珠がある限り、3人は激情に飲まれる事ができない。
怒りに身を任せて破壊をしたくても、大きすぎる感情は勝手に静められ、力に変換する事ができないのだ。
魔術が全く使えないという事は無いが、魔力が何かに吸われているような感覚があり、長時間魔術を使う事も、大きな術を使う事もできない。
透とツキミは魔力量が多い為、多少の攻撃魔術を使用する事ができるが、リアは一瞬身体強化をするので精一杯な程だ。
手を拱いているこの瞬間にも、テディが何をされているかわからない。
そんなじれったさに多少の苛立ちを覚えるも、結局できる事が無いまま機会を待つしか無い。
戦力外になりそうな可能性が高い2人は、毎日作戦会議を続け、結論の堂々巡りを繰り返す。
唯一の打開点となりそうなツキミは、極力素早く転がれるように狭い室内で練習をしていた。
「うぅ……、ずっと転がっていたら身体が痛いのだ」
「ごめんな。でも、ツキミに懸かってるんだ、頑張って欲しい」
軽く治癒魔術を掛けながら言った透の言葉に頷き、ツキミが短い手で少し自分の身体を撫でる。
その様子を見ていたリアが、少し呼吸を荒げながら声を掛けた。
「ツキミちゃん、大丈夫?治癒術をかける事はできないけど……、身体擦ろうか?」
「リアはあたしに触るな、なのだ」
ピシャリと冷たい声で断られ、しょんぼりとしながら重い足取りで部屋の隅へと向かっていく。
頻繁にツキミを振り返っては、顔を見て泣きそうな表情を浮かべ、禿げた部分を見て青くなって、再び壁を向くのを繰り返した。
ここ数日の作戦会議をしている時は、特に変な挙動を見せる事も無く落ち着いていたのに、ツキミが絡むと急にポンコツになる。
リアが壁の角に向かって三角座りをし、小さく啜り泣きをしながらチラチラとツキミの方を見るので、鬱陶しさを感じながらも無視をして、再び転がる練習を始めた。
(禿げた部分はまだ産毛しか生えてないし、リアのモフモフに対する変態さは多少目に余る所もあったし……。まぁ、作戦に支障が無ければ暫くはこのままでいいか。……下手に介入して、より拗れても面倒臭いし)
透はまた見て見ぬふりを決め込み、リアと反対側の壁に移動し、テディとの魔力の繋がりを辿って、感情を読み取ろうと集中し始めた。
その翌日、部屋に目隠しを外した少女アーチェが現れた。
「我が主がお呼びです」
一言、そう告げると、扉の外で待機をする。
扉は開け放たれているが、アーチェの瞳の力によって、危害を加えようという気持ちにはならない。
けれども心の中で確実に大きくなった、テディを救いたいという気持ちを確かめて、3人はこっそりと目配せをした。
最初と同じようにツキミを台車に乗せ、体当たり&魔術ぶっぱ作戦を頷きで確認し合い、アーチェの後に続いて廊下を歩く。
青年の待つ部屋の扉が開けられた瞬間、ツキミが発射しやすいように、透は台車を少し前方へと傾ける。
それをツキミは身体で感じると、台車に魔術をぶつけて勢いをつけ、部屋の中に向かって全力で転がり飛び出した。
ドガンッ
部屋の中には前回は無かった壁が出来ており、ツキミはその壁を粉砕して停止。
目を回しながらも全方位に雷撃を撒き散らし、アーチェかバメットか青年か、誰かを仕留めようと足掻き続ける。
透とリアは巻き込まれないように、部屋の外で音が鳴りやむのを待った。
「あーあー……暴れてくれちゃってぇ、どの子もボクの可愛い発明品なのに。壊れちゃうじゃないかぁ」
透明な壁越しに、暴れるツキミを不貞腐れたような表情で眺める青年。
隣に立つバメットが、どうしましょうか、と問いかけるような視線を投げる。
「うーーーん、なーんか興が冷めちゃったなぁ。追い返しておいて」
そして興味を失ったかのように、ツキミに背を向けデータと向き合い始めた。
青年の言葉に深々と頭を下げたバメットは、透明な壁を回り込み、ツキミの元へと向かう。
飛んで来る雷撃を避け、避けきれない時は己の翼を盾に。
地面を駆けたかと思いきや、跳び上がり軌道を変えて雷撃を避けながら飛び。
瞬く間にツキミへと辿りついたバメットは、己の翼から羽を1本抜き取り、ツキミの身体へと打ち込んだ。
つぷっ
「んぁ……」
ツキミが小さな声をあげ、そのまま眠りへと落ちる。
その大きな身体をゴロゴロと転がし、部屋の外へぺいっと投げ捨てた。
眠っているツキミは当然止まる事ができず、そのまま廊下の壁へぶつかり軽く跳ね返りやっと停止した。
その間も起きる気配は無く、幸せそうな寝息が廊下で避難していた透とリアの元へと届く。
「ね、てる?」
「みたいだな……」
一体中で何があったんだと、安らかな表情で眠るツキミを見て2人は首を傾げる。
アーチェは微笑みを崩さぬまま、ツキミのお尻から生える漆黒の羽を抜き取った。
「っんぅ」
少し色気のある声が眠っているツキミから漏れた。
透とリアは微妙な表情を浮かべるが、まるで仮面を付けているかのように、アーチェの微笑みはそれでも崩れない。
部屋からひょっこりと顔を出したバメットの口枷が左右に開いており、一言発する。
「戻れ」
透とリアはその言葉に逆らえず、ツキミを回収して部屋へと戻っていった。
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