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最強の武器はこの妄想力  作者: 緒嶋まゆ
第三章
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絶対服従の言霊

 台車を具現化させ、その上にツキミを乗せると、周囲に結界を張った。

 廊下は相も変わらず、窓も無い白い通路が続いている。

 そこをリアが先陣を切り、透が台車を押しながら付いて行く。


 徐々に分かれ道が増えてきたが、通路はどこも白が続くばかりで、魔力の繋がりが無ければ簡単に迷ってしまいそうだ。


「誰にも会わないのね」


 流石に先へ進むのに、まともに意思疎通が取れないのは不便だったので、リアの口内は治癒魔術によってある程度治されていた。

 ツキミにつけられた傷、というのに興奮をして、治癒魔術を受けたがらなかったリアを見て、更に2人が引いていたのは言うまでもないだろう。


 どこかの部屋からか聞こえてくる音は、コポコポといった水の音や、機械音ばかりで、人の声すら殆ど聞こえてこない。

 かなり広い研究フロアのようだが、ツキミがいた部屋以外に人がいないのは、かなり不気味な様相だ。


「そういえば、あたしが会った人たちも、同じ顔触ればかりで、新しい人には全然会わなかったのだ」

「こんなに広いのに?人数が少ないのか……?」


 扉が開いている部屋をちらりと覗けば、天井まである円柱のガラスケースが等間隔に並べられ、どれも中には様々な種族の人間や動物やモンスターが1匹ずつ入れられている。

 薄緑色に輝く液体でケースの中が満たされ、多くの管が身体へと繋がれ、時折白い魔術陣が身体の周囲に浮かび上がっては消えて行く。


「ホルマリン漬けみたいだな……」


 部屋の中へ入っていなかった透の方へ、不意にガラスケースの中の人物が視線を向けた。


「ひっ」


 目が合って、思わず小さな悲鳴が漏れる。

 その声に反応して、リアが殺気立ち、ツキミを守る姿勢に入って透へと声をかけた。


「何?」

「えっ、あ、危険はないから、大丈夫だ。ごめん」


 リアの気迫に押され気味になりつつも透が宥めると、リアは殺気は抑えたが警戒を解かないまま、透の視線の先を確認した。

 ガラスケースの中の人物が、リアへと視線を移す。


「ふーん。あの状態で生きてるのね、窒息しないのかしら」


 目が合った事に驚きもせず、ただ純粋な疑問を溢す。

 そしてサッと中を確認すると、とある可能性に気が付いてしまった。


「ねえ、もしかして、私達が来るのが遅ければ、ツキミちゃんもこの中の1人になっていたって事かしら?」

「あー、どうだろうな……。もしかしたら、そうなのかもしれねぇな」


 同意の声を聞くと同時に、「そうよね」の呟きと共に瞳が仄暗く光を帯びた。

 周囲の温度が下がっていくような感覚に、身震いをし1歩リアと距離を置く。


 ガラスケースの中の人物は、再び透に視線をやり、そのまますぐ瞼を閉じてしまった。

 その表情と瞳と一切動かなかった身体の全てから、自分の意志で生きるという気力が抜け落ちてしまっているように感じる。


「とりあえず進もうか」

「えぇ、そうね。テディちゃんも早く助け出さなきゃっ」


「リアが行く方が危ない気がしなくもないのだ……」


 小さく呟いたツキミの声を聞かなかった事にして、更に廊下の奥へと進んで行った。



 結局誰にも会わないまま、テディとの繋がりが示す扉の前へと辿り着いた。

 リアと透が目配せをし、頷き合って扉を破壊しようとした所で、勝手に扉が開く。


「物は大切にしないとダメだよねぇ。その扉に取り付けてある機械だって、ボクの作った可愛い可愛い発明品の1つなんだから」


 物が足の踏み場も無い程乱雑に積み上げられ、中の様子が分からない状態のまま、3人に声がかかった。

 透は今にも飛び出しそうなリアを片手で静止し、唸るような声を投げかける。


「テディを解放しろ」

「んー?テディ?……あぁ、テディってこの熊の事かぁ。この子は本当にいいよね、実に興味深いよぉ!君たちがここまで来るのは予想外だったんだけど、この子の生体について聞いてみたいなぁって思ってたんだ!」


 青年の「歓迎するよ」という言葉と同時に、床に落ちていた物達がまるで海を割るかのように左右へと勝手に移動し、中央に道が作られた。

 正面にニチャっとした笑みを浮かべた、隈の酷い痩せ細って白衣を着た青年が座り、左右に白と黒の少女と少年が無表情のまま立っている。


 白い少女は金属製で蔦の彫りが入った漆黒の目隠しをし、黒い少年は中央に逆十字とその周囲に鎖の彫りが入った銀色の口枷をしている。

 そして何よりも目を引くのが、2人の背中にある翼だ。

 白い少女は純白の、黒い少年は漆黒の、ふわりとした翼が生えていた。


 薄暗い室内で、青年の背後にある巨大なモニターに数字や文字が流れていき、弱い光を放っている。

 天然パーマのボサボサ頭をガシガシと掻きながら、手元のボタンを押すと、今できた道の中央に椅子が2つと机が出現した。


 そこへ白い少女が優雅な動作で、どこからか現れたお茶を2人分入れ、ペコリとお辞儀をして青年の横へと戻る。


「さぁさぁ、座ってくれたまえよ、ゆっくり話をしようじゃないかぁっ!」

「話す事なんて何も無い。テディを解放しろ!この部屋にいる事は分かってるんだ!」


 ルドニールの銃口を青年へと向けながら、魔力の繋がりが示している場所へと視線を向ける。


 面白くなさそうな表情を浮かべた青年は、「バメット」と少年の名前を呼んだ。

 すると少年の口枷が逆十字を分断するように左右へと開く。


「座れ」


 少し高い中性的な少年の命令が室内へ響くと、透とリアは己の意志に反して身体が勝手に動き、椅子へと着席をしてしまった。

 立ち上がろうとしても動く事ができない。


「そうだよ、最初から大人しく座ってくれたらよかったのに。さぁ、気を取り直してお話ししようか」


 青年が2人に対して色々と質問を投げかけるが、2人は答える気は無いとばかりに無言を貫き、青年を睨みつける。


「はーぁ。そんな態度を取られちゃうとねぇ、折角ここまで招待した理由が無くなっちゃうんだよねぇ。後ろの猫は返してあげたのになぁ」


 バメットが青年の方を向き無言で指示を仰ぎ、青年がそちらを見ないまま頷いた。

 再びバメットの口枷が左右へと開く。


「答えろ」


「あの熊はどこで手に入れたのかなぁ?」

「ルメジャンのダンジョンの最下層ボスを倒した報酬の宝箱に入っていた卵から生まれた」


 今度は青年の問いに対して、スルスルと言葉が出てきてしまった。

 透自身が口を閉ざそうとしても、手で口を覆うとしても、答える事を拒否する事ができない。


(あの少年の言葉には絶対服従の何かが含まれているのか……。聞かない、って事もできねぇだろうし……。どうしたらいいんだ)


 テディについて洗いざらい話させられている間、必死にこの状況を打破する方法を考えるが、妙案は沸いてこない。


「そういえば、君はあの熊の居場所がわかるような動作をしているねぇ。どこかと魔力で繋がってるデータがあったけど、もしかして君かな?どんな契約をしたんだい?」

「特に契約はしていない。恐らく最初に卵に触れたのが俺だったからだと思う」


「ふぅーむ。それじゃぁ、繋がりをボクに移す事は難しいかぁ」


 ブツブツと呟きながら、青年は椅子ごと回転をし、2人に背を向けデータと向き合い始めた。

 暫く放置をされている間も、身体の自由は利かず椅子に縛り付けられているかのように動けない。


「あ、そうだ。とりあえずもう君たちはいいや。ボクは実験があるから、退出してもらおうか」


 青年が少女の方へ眼を向けると、一礼した少女が部屋の鍵と思われる物を取り出した。


「また何か聞きたい事ができるかもしれないし、暫くは滞在を許可するよ。まぁ、勿論、ボクの邪魔はさせないから、色々制約をつけておくけどねぇ。じゃ、2人とも頼んだよ」

「お任せ下さいませ、我が主」


 少女が2人へ向き直ると、目隠しの後頭部側にあったボタンを押した。

 するとガシャっと音を立てて、目隠しが首元まで落ちる。


 閉ざされていたその双眸が開くと、オーロラ色に輝いた。

 その瞳が向けられた透とリアは、自然とスッと凪いだ水面のように気持ちが静まり、鈴を転がすような少女の声に従ってしまう。


 極当たり前のように、少女の後ろについて歩き、ツキミの乗っている台車を押して、2人は部屋をあとにした。

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