自業自得
暫くして、リアがやっとツキミの手から口を離した。
満足そうに艶やかな笑みを浮かべる口元からは、次々と赤い血が零れ出ており、恐らく口の中はかなり悲惨な状況になっているだろう。
それでもリアは笑顔を絶やさず、反対にツキミは虚無の表情を浮かべている。
「はへ、ほれはらほうひはひょっは」
「……なんだって?」
痛みは感じているのか、上手く喋る事が出来ない様子だが、気にしない様子で会話をしようとしてくる。
だが、何度聞き返しても、透には理解する事ができず、最終的には紙とペンを具現化し、筆談をしてもらうようになった。
透が不便だと思いつつも治癒魔術を使わないのは、いまだに虚無から帰って来ないツキミを癒す術を思いつかないからでもある。
(まぁ、リアの怪我は完全に自業自得だろ)
『さて、これからどうしましょっか』
リアは先ほど何度も口にしていたであろう言葉を書いて、ババンと掲げている。
「早くテディも取り返しに行きたいが、とりあえずツキミが動けるかが問題だな」
「……あたしの事は、気にしなくていいのだ。後ろからついていくのだ」
感情の籠らない平坦な声が発せられた。
「あ、あぁ……。後ろからついてくるとはいえ、そのーなんだ、あーっと、まぁ、地面についてない、その短い手足で動けるのか?なんかさっき魔力も使えないみたいな感じで言ってたから、人型になる事も難しいんだろ?」
『私が支えようかっ!?!?』
「……確かに歩くのも、人型になるのも難しいかもなのだ……。完全に足手纏いなのだ……」
「へぇ!!!!ふひひはいへ!!」
リアが、先ほどの『私が支えようかっ!?!?』と書いた紙を掲げて、ジタバタとアピールをしている。
恐らく、血を飛ばしながら口にしているのは、「無視しないで」あたりだろう。
透は黙ったままリアの掲げている紙を伏せ、先ほど気絶させた研究員の1人を起こして話を聞いてみることにした。
「……ッ!?わっぷっっ、何事ですか!?」
魔術で水を具現化し、研究員の頭から被せ、無理やりに眠りから覚まさせた。
逃げ出さないようにと、リアが研究員の目の前に短剣を突きつけ、口元に笑みを浮かべる。
「ひっ」
少し顔を動かしたら触れそうな距離にある剣先に驚いたのか。
それとも、服には血がべったりと付き、瞳に仄暗い光を浮かべ、口からだらだらと血を流しながら、真っ赤に染まる口内を見せるように嗤っているリアに恐怖したのか。
(起きたら目の前に今の化け物みたいな姿のリアがいたら、すんげえビビるよなぁ……)
リアを少し横に移動させ、研究員の正面へと透が移動する。
「ちょっと聞きたいんだけど」
「……っは?」
研究員は状況についていけていない様子だが、あまりのんびりしている場合でもない。
ツキミの現状について、研究員らが何を行ったか、そしてどうやったら元に戻るのかを聞く。
だが、思考がまともに働いていないのか、研究員はどもるばかりで会話が成り立たない。
どうしようかと透が悩んでいると、不意にリアが研究員の頬を刺した。
「痛ッ!?!?」
「えっ?リアさん?」
刺さったのはほんの少しだけで、研究員は1度痛みを訴えただけだったが、何の前触れもなく刺したその行為に透が少し震える。
剣の腹で研究員の頬を、ぺしん、ぺしん、と叩きながら、更に笑顔を深め、ドスの効いた声を発した。
「ほっひはひはんははいほ、ほっほほははははいほ、ゆひほほほふわほ」
「……え、えぇっと」
リアが何と言っているか聞き取れなかったのだろう、透の方に視線だけで助けを求める研究員。
ただ、聞き返したり、何も答えなくても刺されると分かっているのか、しどろもどろに何か言葉だけは発している。
だが、透にもリアが何と言っていたのかはわからない。
きっとツキミ関連の事で、苛立っているだろう事だけは伝わってくるので、とりあえず再度先ほどの質問をする事にした。
「ツキミの大きさも違えば、魔力も使えないと言っている。お前達はツキミに何をしたんだ」
「ツキミというと……、あぁ、じっけんt痛っ、ごめんなさい、ごめんなさい」
実験体という言葉を途中まで口にして、リアに頬を再び軽く刺されて中断する。
すぐにまた頬を剣の腹で叩き始め、続きを催促し始めた。
「魔力が使えないのは、手足に付けていた枷から吸い取っていたからで、ただ枯渇状態にあるだけなので、枷を外して放っておいたら、そのうち使えるようになります」
既に救出の際に、手足が壁と繋がっている鎖を途中から切断はしているが、今の話を聞いたリアが急いでツキミの元へと駆け寄り、傷つけないように全ての枷を砕いた。
リアが駆け寄った際に、ツキミの身体がビクリと跳ね、リアから距離を取ろうともがいていたが、透は見なかった事にした。
「それから、身体の大きさに関しては、ただ太っただけなので、痩せれば元の大きさに戻ります」
研究員の言葉を聞いた、透とリアは動きを止めた。
3人の間に沈黙が流れ、ツキミがなんとか寝返りを打とうと、床を滑る音だけが聞こえる。
「太った……だけ?」
「ええ」
「あの大きさで?」
「ええ」
信じられないとばかりに目を見張り、ツキミと研究員を交互に見るが、研究員の顔色に変化はなく、嘘はついていなさそうだ。
先ほど、透の鑑定で心身共に特に問題が見られなかったのは、この変化が何かで無理やり歪められ異常が出ている状態ではなく、その過程が無理やりだったとしても、身体の反応としては正常な範囲だったからなのだろう。
「どうして、太らせる必要が……?」
「私達は盟主様のご意向に従ったまで、理由は存じ上げません。ですが、盟主様は数多の種族の、細やかな身体的能力の情報を欲しておりましたので、まずは第1段階として、どこまで太るのかという事と、太った際の身体能力の変化についてのデータを集めてただけです」
太っただけ、というのは、これまた厄介な事で、時間をかけて努力をしないと元には戻らない。
つまり、急いでテディを助けに行かなきゃいけない現状況下で、まともに自衛どころか動く事すらできない、そして的としてはかなり大きくなったツキミを守らなければいけなくなったのだ。
「魔術具とかで異常が出てるなら、それを壊せば治ると思ったんだけど……、どうすっかなぁ」
悩みながらも転がっている全ての研究員を縛り上げ、自分達が出て行ったあとに変な事をしないようにした。
そして、ツキミの顔の横に座り、2つの提案をする。
「ツキミ、選んでくれ。1つ目は、リアを護衛として2人でこの部屋に残る。その間に俺がなんとしてでもテディを助けて帰ってくる。2つ目は、何か台車とかに縛りつけて、一緒にテディを助けにいく。一応結界は張るが、恐らくこっちの方が危険度は高いとは思う」
「足手纏いなのはわかってるのだ、それでも連れていって欲しいのだ……」
しょんぼりと声を震わせながらツキミは訴える。
「ここにいる方がきっと安全だぞ?正直自分の戦いに精一杯になったら、結界の方に魔力を回せなくなるかもしれないし」
「危険なのはわかってるのだ、でも、でもっ!リアとふたりっきりは、もっと危なくて嫌なのだ!!!!!!!!!」
力の限り叫んだツキミの訴えに、リアは衝撃を受けたようにビシリと固まった。
透は先ほどの場面を思い出し、思わず苦笑いを浮かべる。
「え、あ、うーん……、貞操的な意味合いだったら、そうなのかもしれないなぁ……」
リアが膝から崩れ落ち、はらはらと涙を流す。
「ほ、ほんはぁ……」
「そっちは……残念だろうが、なんだろうが、自業自得だな」
リアの言葉、
「はへ、ほれはらほうひはひょっは」→「さて、これからどうしましょっか」
「へぇ!!!!ふひひはいへ!!」→「ねぇ!!!!無視しないで!!」
「ほっひはひはんははいほ、ほっほほははははいほ、ゆひほほほふわほ」→「こっちは時間が無いの、とっとと話さないと、指を落とすわよ」
「ほ、ほんはぁ……」→「そ、そんなぁ……」
でした。
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