表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強の武器はこの妄想力  作者: 緒嶋まゆ
第三章
83/87

じゅるじゅる、じゅばじゅば

 転移した先は、全てが白で埋め尽くされていた。

 白い床、白い壁、白い天井。


 後方は壁で行き止まり。

 前方には窓の無い、ただただ白い廊下が続いている。


 空気を鑑定すると、身に覚えのない成分は消えていた。

 リアのガスマスクを消し、鑑定をしながらリアの状態を観察するが、異常はみられないようだ。


「やっとこのガスマスクを外せるのねっ!ありがたいわ」

「あぁ、不便だったよな、おつかれ」


 思わず自然と2人の顔に笑顔が浮かぶ。


 ずっと上を示していたテディとの繋がりが、やっと壁の向こうを指し示すようになった。

 それを頼りに、2人は警戒を強め、ゆっくりと廊下を進んでいく。


 時折胸元辺りの高さに45階の扉の前で見た黒い板が壁に貼りついているだけで、暫く進んでもその他は変わり映えの無い白い空間が、2人の感覚を奪っていく。


「ここにいる人達は迷子にならないのかしら……」

「ずっと同じ光景で、今どこにいるのかわからなくなりそうだな」


 警戒が緩みそうになっているのを、引き締め直していると、遠くから叫び声のようなものが聞こえてきた。

 2人は顔を見合わすと武器を握り直して、足音を殺しつつも速足で声への元へと近付いていく。



「──ッたい!────だァッ!」


 苦痛に満ちた叫び声が大きくなるにつれ、2人の進む速度は駆け足へと変わっていく。

 更に速度を上げる為、身体強化を使おうとした矢先、閉塞感のある廊下の壁に突然ぽっかりと大きな穴が開いていた。


「嫌ッ!嫌なのだッ!離せなのだッッ!!」


 ツキミの拒絶が廊下にまで響き渡る。

 壁に空いた穴の中へ勢いを殺さぬまま突っ込み、中にいた人々を瞬く間に制圧していく。


 透が出力を抑えた雷弾を浴びせると、怯んだ隙に思い切り胴体を蹴りつけ、壁際まで吹っ飛ばす。

 次のターゲットへ視線を動かすと、視界の端に朱が映り、男の断末魔とも言える絶叫が耳を劈いた。


 驚いて声の方を見ると、両腕を切り落とされた男が床で蹲っている。

 その間にもリアが2人目の腕を落とし、部屋を震わせる叫び声が増えた。


(いやいやいやいや、流石にやりすぎじゃねえか!?)


 止めようと声をあげても男たちの叫び声にかき消され、身体を張って止めに行くのは、敵と間違えて透の腕が落とされる可能性が高い。

 驚異的な速さで動くリアを捉える事も難しく、次に狙うであろう研究員の周囲に雷弾を撃ち込んだ。

 ついでに残り2人の研究員達へ、先ほどよりも強めの雷弾を撃ち込み怯ませておく。


 リアは超人的な動きで雷弾を回避し、透の方へギラついた瞳を向けた。

 視線だけで人を殺せそうな鋭さに、思わず小さな悲鳴を上げ、襲い掛かられたらいつでも逃げられるように、リアに対して警戒をする。


 だが、透の警戒など無駄だと言わんばかりに、視線の先にいたリアが忽然と姿を消し、それを認識した時には腕に小さな痛みを感じた。


「何で、邪魔を、するの?」


 くだらない理由なら許さないとばかりに、腕を剣先でゆっくりとなぞりながら、透の耳元で囁く。


「あっいやっそれはっ」


 味方のはずの少女に向けられている鋭い殺気に、透は小さく震え口ごもってしまう。

 その態度に更に機嫌を落とし、声のトーンも低くなったリアが唸るように再び耳元で囁いた。


「ツキミちゃんを酷い目に合わせた塵屑に、まさか温情をかけろと言うわけじゃぁないよねぇ?あぁ、そういえば、透くんの倒した屑は、ずいぶんと外傷も少ないみたいだね?……何で?」


 いまだに男たちの絶叫が耳を劈かんばかりに響いているのに、低く小さな声で囁かれたそれは、はっきりと透の意識に届いた。


 リアの納得のいく答えを考えていると、遅いと言わんばかりに腕に当てられた短剣がゆっくりと上から下へと動いていく。


 よく研がれた刃が、優しく薄く透の皮膚を切り裂いていく。

 リアがその気になれば、透が回避するよりも早く、腕が胴体と別れを告げるだろう。


「それは、ほら、あれだ。今のままだとツキミの状態がよく分からないだろう?もし、俺達じゃどうする事もできない状態だった時、脅してでも使える奴が必要じゃないか?腕が無かったらその時に俺達が困るかと思って」


 透の言葉を聞いて考え込むように腕が止まる。

 この答えで納得してくれ、と願いながら、緊張による大量の汗が背中を伝っているのを感じる。


「ふーん、そっか。確かに、そうかもね」


 納得したのか、スッとリアが離れた事に、安堵のため息を小さく吐く。

 ツキミの方へと向き直り、1歩踏み出そうとすると、透の顔面を何かが掠めた。


 はらり、と前髪が落ち、疑問の声をあげる前に、男の悲鳴が上がった。

 声の方へ視線を動かすと、リアの愛刀と思われる短剣が、逃げ出そうとしていた男の肩へと刺さっていた。


(もう少し進んでいたら、俺の顔が切れてたんじゃ……?)


 更に冷や汗が首を流れ、錆びついた玩具のようにぎこちなくリアの方を向くと、何か問題でも?と言わんばかりの優しい微笑みを浮かべられた。


(ルメジャンで出会った時は、もっと快活で爽やかで可愛らしい子だと思ったんだけど……、いつからこんな怖い感じになっちまったんだ……)


 やはり空気に精神に作用する毒でも含まれていたのではないかと、こっそりリアを鑑定しても心身共に異常なしの表示が出るだけ。

 極力怒らせないようにしようと心に決め、再びツキミへと向き直った。



 そう、透は、ツキミに、向き直った、はずだった。

 聞こえている声からはソレはツキミと思われる。


 ツキミを見ているはずなのだが、透の視界に映っているのは、鎖に繋がれ宙に浮いた薄い桜色の毛玉だった。

 透の記憶にあるツキミとはサイズが違いすぎていて、思わず疑問の声が漏れてしまう。


「ツキミちゃんっ!大丈夫っ!?」


 そんな毛玉に躊躇いなく近寄り、小さく突起した四肢と思われる部分を繋いでいる鎖を、いつの間にか拾ってきた愛刀で断ち切り、抱きしめるリア。

 両手を大きく広げているのに、毛玉を全て包み込む事はできていない。


 呻くツキミに心配そうな声をあげていたリアだったが、徐々に呼吸が荒くなっていき、声に艶が出てくる。

 時折、涎を啜るような音も混ざり始めた。


 リアのブツブツと呟く声に耳を傾けると、先ほどまでの心配の言葉は無くなり、随分と欲望と変態さが溢れ出ている。


「ツキミちゃんが増えた増えた増えた増えた増えたッッ!はぁ、はぁんっ、いい匂い、獣の匂い、もふもふ、もふ、もふもふもふ、サイッッコウッ!」


「とー……る……、助けてなのだ……」


 弱弱しい声で助けを呼ばれ、とりあえず顔と思われる場所へ向かう。


「えーっと、その、何から助ければいい……?」

「……リア、なのだ」


 そうだよな、と内心で思いながらも、スッとツキミから目を逸らし、助けを求める声を聞かなかった事にした。


「体に異常は無いか?動けそうか?」

「体中重くて痛くて、魔力が使えないけど、リアを退けて貰えば動けるのだ」


「そうか、問題無いようでよかった。念のため鑑定で異常が無いか確認するな」

「リアを退かして欲しいのだ。無視しないで欲しいのだ。なんかじゅるじゅる言ってて、ほんのり湿ってるのだ」


 3度目のツキミの訴えをマルっと無視して、鑑定に集中するフリをする。

 ツキミの恨みがましい目と、リアの発するじゅるじゅるという音と、荒い息遣いと、今も聞こえる男たちの悶える声を、必死になって意識の外へと追い出す。


「っつぅ……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁうぅんっっっ!」


 だが、リアの官能的な叫び声で、強制的に意識を戻された。


(可愛い?女の子?の色っぽい?声のはずなのに、心ってこんなにも冷え切っていくんだな……)


「……あー、どうした?」


 小さな声で「あんまり聞きたくないけど」と付け加えるが、聞こえているのか聞こえていないのか、ツキミが泣きそうな声で説明する。


「透が助けてくれないから、リアを退かそうとパンチしたのだ。そしたら、少し掠ったと思ったら、この状態になったのだ……」


 いつの間にか頬を高揚させて、ツキミの大きな体から、ひょっこりと生える小さな手と思われる部分を、口に含んでしゃぶっている。

 時折ツキミが爪を立てているようで、その度にリアが喘ぎ、ツキミの瞳から光が消えていく。


「えぇっと、その……。無力で……ごめんな」

かなり久々の投稿になってしまいました。

とても忙しいですが、なんとか生きています_(:3 」∠)_



気に入っていただけたり、応援して頂ける場合には、

下の評価を

☆☆☆☆☆ → ★★★★★

にしてもらえると励みになります(/・ω・)/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ