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最強の武器はこの妄想力  作者: 緒嶋まゆ
第三章
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欲望に飲まれた人々

 眩しさが収まると、周囲からはむせ返るような甘く重い香りと、ガヤガヤとした声が聞こえてくる。

 透とリアはゆっくり目を開けると、先ほどまでいた下層とは全く異なる光景に驚きを隠せないで呆然とした。


 5階分のフロアの中央が吹き抜けになっており、天井からは巨大な像が下へ向かって吊り下げられている。

 電飾が取り付けられているその像は、所々動いているようで、よく目を凝らしてみると、全裸の人間が磔にされていた。


 磔にされた人間の汚物が像から流れ落ち、真下に設置されている池へと落ちる。

 すると餌を求めるように金色の鱗を纏う魚が、水面へと集まってきた。


 池の周囲を通る人々が、濁った眼で魚を見つめてうっとりとした表情を浮かべたと思いきや、上を見上げ苦しむ人間を見て歪んだ嗤いを浮かべる。

 その人々の中には、全裸で四つん這いの人間に首輪をつけ、散歩しているような人もいる。


「な……に、ここ」


 異様な光景に理解が追い付かないまま、リアの呟きが漏れる。

 1~40階も他の国に比べたらかなり異常だったが、一部の人のみが住めるという上層階も狂気に満ち溢れていた。


 全裸の人々は皆首輪をつけられ、踏みつけられ、引きずられ、暴力を振られ、辱めを受けている。

 その人たちを弄ぶように横暴な振る舞いを見せているのは、大きな宝石や上質な布を使ったドレスで着飾った人々。

 それはそれは楽しそうな嗤い声を上げている。


「同じ人間のしている事とは思えないわ……」

「そうだな……。せっかく、今度はゾンビじゃないような人に出会えたと思ったんだが……、どう見てもまともな話はできそうにねえよなぁ」


 同じような出来事があちらでもこちらでも起きていて、2人は止めに入る事もできずに、転移した場所に立ち尽くしている。

 すると、下層とは違った荘厳なパイプオルガンの演奏がスピーカーから響き渡り、どこからともなくドローンのような物体がいくつも現れた。


 着飾った人々は、先ほどまでの嫌な嗤いとは全く違った純粋な歓声を上げ、ドローンに向かって手を伸ばしながら、他人を押しのけ、少しでも近づく為に全裸の人々を踏み台にしている。


 ドローンは決まった場所があるのか、等間隔で空中に停止し、小さく旋回しながら、何か光る粒みたいな物を降らせ始めた。

 人々はその光る粒を手に入れようと伸ばした手で掴み、床に落ちた物を素早く拾い、口へと入れていく。


「何か、あの空飛ぶ機械から落ちたやつを、皆必死に食べてるけど……美味しいのかしら?」

「えっ……」


 透がリアの発言に少し引き気味に、1歩距離を取ろうとすると、それに気が付いたのかガシっと透の腕を掴み、慌てて否定をし始めた。


「ちっ!違うわよっ!決して、私の食い意地が張ってるわけではないの!!」

「あ、あぁ、大丈夫だ。そんな、得体のしれない物を食べたがってるなんて、そんなそんなツキミみたいな事をリアが言い出すわけがないとオモッテイルヨ」


 透の少し棒読みな弁明の言葉に、疑いの目を向けながらも、とりあえず納得をしたようだ。


「とりあえず、何をそんな必死で食ってるか調べてみた方がいいよな」

「そうね、ちょっと待ってて!取ってくるわ」


 群がる人々を踏み台にして、軽々とドローンまで辿り着いたリアは、光る粒を何個かキャッチして、再び人々を踏み台してひょいひょいっと戻ってくる。

 リアに踏まれた人々はそれに気が付いた様子も無く、変わらずドローンからの恵を受け取ろうと必死なようだ。


「人を踏んづけて行くようなタイプだっけ……?」

「えっ?人踏んでた!?大丈夫かしら!?」


「え、あ、いや、なんでもない、大丈夫だ」

「そう?それならいいんだけど、もし人踏んでたら謝らないと!って思って!」


 そう言って軽く辺りを見渡しては、リアの意識の中の人間が見つからなかったのか軽く首を傾げ、透へ持って帰ってきた光の粒を渡した。


(さっき、同じ人間とは思えない、みたいな事を言ってたけど、まさかそのまま本気で人間と認識しなくなるとは……。これはリアの元々の性格なのか、この国に来ておかしくなっちまったのかどっちなんだろうなあ)


 ふと、サボテンとの戦闘で恍惚とした表情で体液にまみれ、触手を生き生きとした動きで切り落としていた様子を思い出し、元からなのかもしれないという結論へ至る。

 軽く頭を振ってその思考を追い出し、光の粒の鑑定を始めた。


『モンブールの科学者が作った麻薬。飲むと快楽に溺れ、己の欲求に素直になる』


「麻薬……か」

「それ、麻薬なの?依存症ってやつなのかしら、だからあんなに皆必死に群がってたのね」


 恐らく毎日摂取しているであろう麻薬のせいで、上層にいる人間達も理性が無く、まともな話ができそうにない。

 どうしたもんか、と透が吹き抜けになっている部分を見上げていると、リアから控えめな声がかかった。


「あの、このマスクっていつまで付けていればいいかな?」

「……え?あー、どうし……っあ、まさか」


「いやいやいやいやっ!勘違いしないでねっ!決してその麻薬が食べたいってわけじゃないのよっ!?」


 顔の前で両手を振り無実を訴えるリア。

 そんなリアに胡乱げな視線を一瞬向け、空気を鑑定し始めた。


『窒素、酸素、グナスタガス、魔力、アルゴン、二酸化炭素、水蒸気、軽微なガス他』


 見覚えが無く、魔力よりも多く空気中に含まれているグナスタガス。

 より詳しく成分を鑑定する。


「あー、なるほど」

「どう?何がわかったの?」


「とりあえずそのガスマスクはまだ外せないみたいだ。空気の中に思考を止める効果のあるガスが入ってる」

「そっかぁ……。つまり、この人たちは呼吸をする事で考える事を止めさせられて、麻薬を毎日食べておかしくなってるって事なのね」


 このまま転移した場所に立ち尽くしていても仕方がないと判断し、2人は吹き抜けになっている部分から見える1番上のフロアまで移動する事にした。


 フロアを歩いてみると、どこかのショッピングモールを思わせるような内装で、各区画はどれも煌びやかながらも、趣の違う飾りが施されている店が並ぶ。

 その合間合間に居住区と思われる部分もあった。


 下層と同じく昇降場があり、それに乗って45階へと移動した。


 45階も最初転移したフロアと変わり映えがする事もなく、同じ様に店や居住区が並んでいたが、最奥には無機質な白い扉がある。


「なんか、この扉だけ雰囲気が全然違うわね」

「そうだな。今まではギラギラ装飾!豪華さが命!みてえな感じだったけど、ここだけは一切飾り付けられてない」


 テディとの繋がりは、まだ上を差している。

 きっとこの先が上へと続いていると感じた2人は、とりあえず扉周辺を観察してみるが、扉の横に設置された無地の黒い板以外に何かを見つける事はできなかった。


 警戒しつつも2人が近づくと、無地だった板に升目模様が浮かび上がった。

 透が指先で触れると、そこに光が集まってくる。


『ERROR』


 板の上にエラーの文字と共に、半透明のウインドウが現れた。

 指を離すと、ウインドウの中の文字が切り替わる。


『感知面積が小さく、認証が行えません』


「どうやら、この板で体内の何かを認証して、問題無ければ扉が開くってことか」

「認証って事は登録されてないときっといけないわよね?私達多分ダメだと思うのだけれど、その場合はどうなるのかしら……?」


「わかんない……けど、普通に考えたら襲われるとか、警報が鳴るとかか?」


 うーん、と2人で考え込むが、結局悩んでも仕方ないという結論に至り、リアが愛刀を構え警戒態勢となり、透も手に拳銃モードのルドニールを具現化した。

 大きく深呼吸をして、左手全体を板につけると、再び光が集まってくる。


 ウインドウの文字が切り替わり、扉が静かに開いた。


「あ、れ?開いたわ」

「あぁ、とりあえず入るか」


 扉の中は何もないただの白い空間。

 恐らく転移魔術陣が起動するのだろうと思いつつも、警戒をしたまま2人は部屋へと足を踏み入れる。


「実験体0581番の魔力を感知って書いてあったから、もしかしたら俺に繋がってるテディの魔力を読み取ったのかもしれない」

「なるほど、そうだったのね。よくわからないけど、ラッキーだったって事かしら?」


 足元には黄色い魔術陣が現れ、2人を光が包み込んでいく。


「まあ、襲われなくてラッキーだったのかもな。きっとこれでやっと敵の本陣に辿り着くって事だろうから、気を引き締めていかねえとな」

「ええ、そうねっ!ツキミちゃんとテディちゃんを取り戻しましょっ!!」

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