そう!決して食い意地が張ってるわけじゃないのよ!!
目的地が決まると、2人は早速行動へ移した。
連絡通路を渡り唯一40階以上の高さがある建物へと移動し、昇降場から最上階を目指す。
「あれ?ここって40階よりも上がある建物よね?ボタンには40階までしかないようなんだけれど……」
「え?あー、本当だな……。とりあえず一番上まで行ってみるか」
40階へと繋がるの扉が開くと、目の前には天井まで届く鉄柵が並んでいた。
鉄柵の奥には本当に屋内かを疑うような広大な庭があるが、長い間手入れがされていないのか荒れ放題になっている。
その庭を超えた正面奥には、どこか寂しげな雰囲気を纏う豪華な屋敷が佇んでいた。
パッと見渡す限り門は無く、鉄柵が来るものを拒むようにフロアの端まで続いていた。
目を凝らしてみても、見える範囲に人影は無い。
「どうやって入るのかしら?」
「わっかんねえ……。とりあえず今日はこのままここで寝て、明日の最初の鐘を待ってみようぜ」
リアはシュコーッと返事をして、2人はフロアの端まで移動して、壁に背をあずけて座った。
透が野営の準備品を収納魔術から出していき、少しでも体を休められるようにする。
広い場所とはいえ屋内で火を使うのは躊躇われ、今日の食事をどうしようかと透が悩んでいると、控えめな声がかかった。
「その……、やっぱりこのガスマスクは外さない方がいいのよね?」
「え?あぁ、そうだな。多少毒を吸っても治癒術で治せるとは思うけど、何があるかわかんねえし、外さないにこした事はないと思う」
透の返答に「そっかぁ……、そうだよね」と小さく呟いたリアはそのまま俯いた。
その声が弱弱しく、落ち込んでいるように聞こえ、透が「どこか具合でも悪いのか!?どうした?」と少し慌てて尋ねる。
「いやっ、別にそんな大した事じゃないんだけどねっ!」
「大した事じゃなくても、何でもいいから言ってみてくれ」
恥ずかしそうにもじもじしながら、何度か顔を上げては俯きを繰り返す。
そのうち意を決したように顔を上げると、クリアになっている目元を手で覆い声をあげた。
「ご飯っ!これ外さないでどうやって食べたらいいかなって!思っただけなのっ」
最後に大きく息を吐いたのか、激しいシュコーッという音がフロアへと響く。
「……へ?」
体の異変を感じたのかと考えていた透には、リアが今言った事は予想外すぎて思考が一瞬止まる。
リアが指を少し開き、その間から透の様子をチラチラッと確認している。
チラッ
もじもじ
チラチラッ
「食い意地……」
ボソッと呟いた透の声は、しっかりとリアに届いた。
「くっ、食い意地が張ってるわけじゃないわよっ!?透くんのご飯は美味しいから……、元気にもなったしちょっと食べたいなーって思っただけで……!そう!決して食い意地が張ってるわけじゃないのよ!!」
慌てふためきながら、何度も食い意地が張ってるわけじゃないと主張している。
「わかった!わかったから!ちょっと考えるから落ち着けって!」
透が落ち着かせたあとも小さな声で「食い意地がはってるわけじゃ……ただ最近ちゃんと食べてなくてお腹減っただけよ……」と繰り返しぶつぶつ呟いている。
声は小さいが、その目はギラギラと怪しい光を帯びており、食べ物を出せば勢いよく襲ってきそうな感じがする。
「保存食じゃ嫌なんだろ?」
「うっ……、こんな状況で保存食だけでも食べれればありがたいとは思う、わ……よ……」
段々と語尾が小さくなり、心なしかしょんぼりと身体も小さくなった。
そこまで食べたがるのなら、味気ない保存食を食べさせるのは良心が痛むのが人間というもの。
透も仕方なく頭を悩ませ続けた。
食べ物は1口サイズにすればいいだけなのだが、どうやってガスマスクを外さずに食べるかが問題になる。
手を使う事もできなければ、そもそもガスマスクの中に食べ物を入れる事もできない。
何か無いかと収納魔術を開いたときに、ピンっと閃いた。
「この収納魔術って割とどこでも出せるし、空中に魔術陣が出てるだけだから、それをガスマスクの中に……って、どうやって収納から出すかが問題か」
「手を突っ込んでも問題が無いのだから、顔を突っ込むっていうのはどうかしら!?あっ!いや、むしろ収納魔術の中に私が入ったら、中でガスマスクを外して好きなように食べれるんじゃないかしらっ!」
透はどれだけ食い意地が張ってるんだ、と思っても言わない。
リアが拗ねるだけだとわかっているので。
「収納魔術って生身で入っても問題ないのか?なんか収納魔術の中に入れた物って時間の経過が止まってる気がするんだけど……」
「えっ?透くんが時を止めてるんじゃないの?」
「え?」
「……え?」
2人で向き合って暫くポカーンとする。
今まで当たり前に使ってきた収納魔術が、実は普通じゃない物だった可能性に驚きを隠せない。
「もしかして、普通の収納魔術って中に入れた物は、時間の経過があるのか?」
「え、ええ。一般的な冒険者の収納魔術は、入れても入れなくても同じだけの時間が経過するわ。だから、食事等は新鮮さを失っていくし、あまり美味しくなくても小さくて腐りにくい保存食を入れておくものよ」
最初の養成所で教えられた通りに収納魔術を展開しただけなのに、何故か透の収納魔術だけは時が止まっているのだ。
(そういや異世界ものの収納魔術なんて、割と多くの作品で時が止まってる事が多かったから、そういうもんだと思ってたけど……。もしかして、そのイメージってやつが勝手に反映されてんのか?)
想像が具現化できる世界、強く思えば思うほど、それは叶いやすくなる。
つまり、当たり前だと思い込んでいる事の方が、世間一般では異常でもその人の魔術には普通だと認識され発現される。
時が止まっていて便利な事はあれど、不便な事はそう多くは無い。
今は困ってないからいいか、とその問題を頭の隅に追いやった。
(人と違うって事は、人前で使う時は気を付けなきゃいけねえって事くらいか。)
暫く考え込んでいた透にリアの控えめな声がかかる。
「大丈夫……?何か思い当たる事でもあった?」
透はハッと顔をあげ、笑みを浮かべる。
「いや、どうやってリアに飯を食わせるか考えてただけだから」
「それは!とても重要な悩みね!良い案を期待しているわっ!」
キラッキラの笑顔でシュコシュコ息を荒くしているリアの様子に苦笑いを浮かべ、今度は本当にご飯の事を考え始めた。
物は試しと下に向けて収納魔術を展開し、空中に浮かんだ魔術陣を上下に振るように動かす。
そのまま出したい物をイメージして振ると、中から食材が落ちてきた。
「これならいけそうだな。ちょっと待ってて」
「ええっ!楽しみだわっ!」
鼻息荒く何度も唾液を飲み込む音をたて、興奮した様子でじりじりと、透というより食材へ寄ってくるリア。
そのうち触るだけ!と言って食材を撫でまわしそうな勢いだ。
あまりのんびりと調理をしていると、我慢できなくなったリアに襲い掛かられるかもしれない。
苦笑いを浮かべ、心の中で飢えた獣か、と突っ込みながら手早く調理をしていく。
透用の普通サイズのサンドイッチに、リア用の1口サイズのサンドイッチを作る。
リア用の物は収納魔術の中へ放り込むと、目の前から「あぁ……」と切なそうな声があがった。
「そのまま上を向いて口を大きく開けて。直接口の中にサンドイッチを落とすから」
「わかったわっ!」
少し俯き気味だった顔が透の言葉を聞いてギュンッと空を切るような速さで上を向いた。
ガスマスクの中に小さな収納魔術を展開し、ゆっくりと振ってサンドイッチを1つ落とす。
「んんんッ!んんーッ!んんんぅ!」
リアがもぐもぐと口を動かしながら、嬉しそうな声をあげ、ジタバタと暴れる。
1口サイズなので、ゆっくり味わってもすぐに食べ終わってしまい、その度に次のサンドイッチを要求してくるわ、最初作った量では足りなくなりおかわりを作らされるわで、透が自分のサンドイッチを食べる頃にはリアはすっかり満腹になっていた。
(なんかアシカとかに餌付けしてる気分になったな……)
ご飯を食べてすっかり元の元気の良さも取り戻したリアに安心し、寝床を準備する。
大きなテントを具現化して外側に結界を張り、念のため交代で不寝番をしながら翌朝の1つ目の鐘を待った。
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