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最強の武器はこの妄想力  作者: 緒嶋まゆ
第三章
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頭と体と心を

「リア……?」


 透の遠慮がちな呼びかけに、リアの小さな返事があがる。

 治癒術を止め、鑑定で体内に毒が残っていないかを調べるが、異常は見当たらなかった。


 毒物による精神異常は治癒し、もとのリアに戻っているはずだと透は自分自身へと言い聞かせるが、正気を失ったリアの姿が脳裏にチラつきつい体が強張ってしまう。


「ん……。んん……んぅ……」


 小さく戸惑ったような声がリアの口からあがった。

 恐る恐るリアの顔を覗き込むと、光を取り戻した力強い瞳が、ガスマスクの向こうから透の事をしっかりと捉えた。


 リアが訴えかけるようにくぐもった声を上げ、拘束されている体を控えめに揺らして主張する。

 外してくれないか、と。


 その様子に思わず透の頬を涙が伝い、力なく膝から崩れ落ちた。


「んんんーん……?んんんんーん」


 視界から消えた透を気遣うような声色が優しく鼓膜を震わす。

 涙を拭いながら笑うと、リアの猿轡と拘束の具現化を解除していった。


「色々とごめんな、でもそのマスクだけは外さないでくれ。どうやらここの空気には毒が含まれてるみたいだから」

「ええ、わかってるわ。その……恥ずかしいのだけれど、私が可笑しくなっていた時の事はちゃんと覚えているから……、色々とありがとう」


 照れたように唯一クリアな目元を手で覆い、大きく深呼吸をする。

 吐いた息に合わせて、ガスマスクがシュコーッと大きめの音を立て、リアは不思議そうにきょろきょろと辺りを見渡した。


 治癒術で外傷は治ったけれど、血や透がいない間に撒き散らしてしまった汚物はまだそのままリアに付着している。

 少し楽し気にシュコーシュコー言ってるリアに、大きなタオルとリアの着替えが入っている袋を収納魔術から取り出し、目を逸らしながらシャワーを浴びてくるように伝えた。


「顔はちょっと我慢して欲しい。後で一瞬だけガスマスクを解除するから、その時に濡れタオルで拭く感じで」

「あっ!そ、そうね!わかったわ」



 リアが体から湯気を上げつつ戻ってくると、暖かいタオルを用意していた透は、リアの準備が完了したのを確認してガスマスクを解除した。

 パパっと顔を拭きすぐにガスマスクを再度具現化して、空気を吸い込まないようにさせる。


 念のため身体的、精神的に異常が無いかを鑑定で確認するが、問題は無いようだった。

 リアを拘束してしまった事や、恥ずかしい姿を晒させてしまった事等を再度しっかりと謝罪する。


「勿論恥ずかしいけれど、それでもあんな状態の私を必死に救ってくれて感謝しているわ。ありがとう。でも、透くんはこのガスマスク?ってやつをつけなくても大丈夫なの?空気中に毒が入っているんでしょう?」

「あぁ、俺はスキルっつーか、加護っつーか、とりあえず無効化してるみたいだから大丈夫」


 そんな説明でリアは納得したようで、今度はリアの体に起こった変化を話しだす。

 最初は段々と体が重くなり、体の中に鉛が入ったようなもったりとした気持ち悪さを感じた。


 そのまま眠りにつき、まだ暗いうちに目が覚めたと思ったら、視界の中に薄っすらとツキミやテディ、ジェイクがおり、それに喜びを覚え思わず話しかけていた。


 喜びに浸り薄っすらと存在するツキミ達に向かって話しかけていたかと思えば、ふと冷静になって見渡すと部屋には誰もおらず、重苦しく甘い空気に吐き気を覚える事を繰り返す。


 皆の事が見えている自分と、見えていない自分。

 どちらが本当の自分か理解できないまま、暫くすると段々と頭の中に靄がかかって思考する事が億劫になっていった。


 その後徐々に人格の乖離が進み、冷静なリアは意識の奥の真っ暗な所に閉じ込められていく。

 確かに自分の目で見て、何かを触った感覚は伝わってくるのに、冷静なリアの意志では体を動かす事ができず、もう1人の感情豊かなリアの意志にしか体が従わない。


 その後透が部屋に現れ、行動を透に止められると急に視界が真っ赤に染まったような感覚が起こって、怒りと憎しみに支配されてしまった。

 もう1人のリアの激流のような感情に溺れ意識を手放す寸前、透のごめんという声と共に拘束された感覚が伝わってきた。


 暫くして冷静なリアの意識は痛みで目を覚ますと、既に部屋は荒れ怒りに身を任せたもう1人のリアが暴れまわっている最中だった。

 やめて、と声を上げようにも体の自由は利かず、心の中で叫んでも怒り狂ったもう1人に届く事は無い。


 そして、徐々にまた人格の乖離が始まり、今度は無気力の意志の無い人格が体を支配し始めた。

 頭の中でぎゃんぎゃんと怒り続けるもう1人の声が響くが、体を支配している無気力な人格は何も感じず動こうとしない。


 透が戻ってきた時、怒りで再び激しい人格が度々表に出て暴れていたが、段々と体を動かす事が出来なくなり、心身共に無気力に支配されていった。


 そんな中、透が色々と試しつつ、最終的には元のリアの人格を取り戻してくれた。

 感謝こそすれど、恨む理由は無い。


(そう、頭ではわかってるいるんだけど……、ね)


 リアは心の中でぽそりと呟いた。

 透はリアが心の中で何を思っているかなんて気が付く様子はない。



 2人で状況を確認し合ったら、この後どうするかを話し合う。


「多分だけど、ツキミとテディの居場所がわかった」

「えっ!?本当ッ!?どこにいるの?無事なの!?」


 ガタっと音を立てながらリアが立ち上がり、透を問い詰める。

 苦笑いを浮かべながらリアを宥めると、テディとの魔力の繋がりを感じた話をしながら宿を出た。


 フロアの端、大きな窓まで行って外を見上げると、最上階が全て揃っているビル群の中で、唯一その上まで伸びている所を指差した。

 そこは外界に暗い夜の帳が降りても、煌々とした光が窓ガラスから漏れており、誰かがいる事を感じさせる。


「あの1番高いビルの最上階付近にいる」



 ◇◆◇



 一方その頃、各カプセルに隔離されていたツキミとテディは……。

 実験台として色々な検証が行われようとしていた。


「獣人族も何人か捉えたけど、猫科は初めてな気がするねぇ。お楽しみは後に取っておいて、そっちの猫からサクッと実験を始めようかぁ」


 舌なめずりをしてニチャニチャとした嫌な笑みを浮かべ、()()()を見つめる白衣を着た青年。

 寝ぐせが積み重なって大爆発している頭髪は、フケだらけでテカっている。


 目が死んだままの助手らしき人々が3人、その青年の後ろに無言で立っており、青年の言葉に助手たちが動き始める。

 助手の1人がツキミが入ったカプセルの隣のボタンを押すと、ツキミの上から小さなカプセルが降ってきてツキミを閉じ込めた。


「離すのだ!あたしをここから出すのだっ!」


 ツキミの言葉を無視して、助手が別のボタンを押すと大きなカプセルが開いた。

 ツキミが入った小さなカプセルを台車に乗せ、別の部屋へと移動していく。


 その間も青年はツキミには関心を向けず、テディのカプセルの周りをくるくると周回し、色々な角度からテディを観察しようとしていた。

 テディは背中を見せたくないのか、青年を睨みつけながら一緒にカプセルの中で回転する。


 そんなテディの様子を楽しそうに暫く観察すると、ツキミで実験をする為に青年は部屋を出ていったのだった。


 残されたテディは不安そうに小さく鳴いた。

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