リアの治癒
「人物鑑定と言えば、ステータスだろ!」
この世界ではステータスと唱えてもウィンドウが浮き上がってくる事はなく、ステータスを確認するには魔術具が必要となる。
透はルメジャンでヒラキに迫られた時以降、自分のステータスを確認しておらず、こんな状況でも少しワクワクとした気持ちが沸き上がった。
目に魔力を集め、自分の手のひらを睨みつけると、壁の前に出たものと同じ薄灰色のウィンドウが浮かび上がった。
名前と頭の中で唱えれば『長瀬 透』と表示され、ドキドキしながらステータスと唱えれば、現在のレベルと各ステータス、そしてスキルがウィンドウに映し出される。
「おおおおおおっ!ルメジャンの時のレベルなんて覚えてないけど、なんか上がってる気がする!って、これで感動してる場合じゃねえな。いよいよ本命の現状把握なんだけど……、何を望めばいいんだろうか?」
透の鑑定の大きな利点であり、欠点でもあるのは、自分が望んだ事しか鑑定が発動しないという事。
情報量で脳がパンクする事は無いけれど、知りたい事がはっきりとしていなければ、ウィンドウには何も表示されない。
現状把握と呟くが、何を知りたいのか透の頭の中で纏まっていない事が魔術にも伝わっているのか、ステータスを映し出したウィンドウから変化は無い。
健康状態と呟くと『良好だが、多少の疲労有り』との表示が変わる。
「うーん、確かに……。とりあえずリアの健康状態でも確認してみるか」
現状打破に1歩近づいた事を感じながら、逸る気持ちを宥めつつリアの方を向き目に魔力を集めて行く。
リアの健康状態と呟くと、透の目の前にウィンドウが浮かび上がった。
『貧血、身体に多くの傷があり。疲労困憊、治癒術により小康状態へ』
ウィンドウを読んだ透はがっくりと項垂れた。
「そんな事リアを見れば分かる。何でこうなったとか、今どんな状態なのかとか知りたかったんだけど。……ん?待てよ、最初は気持ち悪くなったって言ってたけど……」
てっきり街や住民達の発する腐敗臭や、色々動き回って疲れた事による体の不調だと透は思い込んでいたが、もしそれが体の不調による気持ち悪さでは無かったのなら。
一晩経っても顔色は悪かったが、それよりも、そんな事よりも、明らかに言動に異常をきたしていた。
「俺は馬鹿なのかっ!そうじゃん、健康状態じゃなくって精神状態を見るべきなんじゃねえか!?」
1つ深呼吸をして生唾を飲み込む。
再び目に魔力を集め「精神状態」と静かに呟いた。
『重度の毒物接種状態による精神異常』
「毒、物?」
原因まで一気に分かったが、予想していなかった理由に困惑をする。
先ほど過去再生をした時に確認したが、透と同じ物しか口にしていなかった上に、住民達は廃人のようになっていて毒物をリアに塗ったり注入したりはできそうもない。
しかも口にした食べ物だって、この国の物ではなくルメジャンから調達した食べなれた物だ。
それを購入してからずっと収納魔術に入れていたのだから、毒物が入る事なんてあり得ない。
「そもそも何で症状が出てるのがリアだけなんだ?同じ生活してたんだから、俺にだって出てもおかしくないのに……。気が付いてないだけで実はもう狂ってたとか……って事はねえか」
自分の手を見つめて再び「精神状態」と呟いて出てきた、目の前のウィンドウの文字をつい2度見してしまった。
『毒物による精神異常を女神の加護にて無効化中』
今まで具体的に何をしてくれたわけでもない女神の加護が、今全力で仕事をしている。
透だけ精神に異常をきたしていなかったのは、透が毒を摂取していなかったわけではなく、毒を無効化していたからだった。
「あのポンコツそうな女神に感謝すべきなのか……、そのせいでしんどい思いをしたと恨むべきなのか迷うとこだな」
文句を言いながらも、毒物を無効化する為に色々試してみる事にした。
鑑定ウィンドウを出しながら、まずは治癒術をリアにかけると、ウインドウの文字に変化が起きる。
『重度の毒物接種状態による精神異常、初級治癒術により微弱な状態緩和』
治癒術をかけている最中、リアは少し苦しそうに小さな呻き声を上げた。
術をやめるとリアの呻き声も収まり、ウィンドウの文字も元に戻る。
「初級じゃ全然無意味って事か……。それにしても一体何から毒を摂取しちまったんだ?」
念のため収納魔術にしまってある食料を出し鑑定するも毒物反応は無い。
直接手が触れるようなドアノブやベッドを鑑定しても反応は無い。
「住民がゾンビだったら噛まれたらこっちも感染しそうなもんだが、別に噛まれてもねえし、そもそもリアは触っても無い。と、なると……、後は空気とか?」
鑑定できるのか半信半疑のまま、何もない空中へと目を凝らしてみる。
すると、鑑定ウィンドウが現れ空気中の成分を表示した。
『窒素、酸素、毒ガス(甘い香りを発する)、魔力、アルゴン、二酸化炭素、水蒸気、軽微なガス他』
「あった、おもいっきり毒ガス舞ってんじゃん……。つか、今も吸い続けてるじゃねえか!そりゃいくら治癒術かけてもよくならねえわけだ」
とりあえず収納魔術に入れてあった着替えでリアの口元を覆うが、気休め程度にしかならない事は目に見えている。
他の何かで口元を覆おうと周囲を見渡してもよさそうな物は見当たらず、何で毒ガスを遮断するか考え込む。
「ただのマスクじゃガバガバだから意味ないだろうし……。ガスマスクとかか?でもあれってどういう構造してんのかな……」
わからない物は考えても仕方ないと、半ば投げやり気味に今漂っている毒ガスを無効化しろと、強く願いながらガスマスクを具現化する。
できた物を自分でつけてみると、常に漂っていた甘ったるい臭いがしなくなったような気がした。
試しに透自身の精神状態を鑑定してみると、先ほど表示されていた文字が消えていた。
「これがイメージの力ってやつなんかな。ってイメージの力なら普通のマスクみたいな見た目でもいけるんじゃ?」
普通の不織布マスクを想像して、同じように毒ガスを無効化しろと願いながら具現化する。
マスクをつけかえて再度鑑定してみるが、普通のマスクは隙間が空いているからなのか、想像の力が固定観念によって弱まってしまったからなのか、女神の加護が仕事をする結果となってしまった。
不織布のマスクは解除し、リアの分のガスマスクを具現化して顔へと固定する。
しっかりと顔を覆っている事を確認して、治癒術をかけていく。
暫くすると、リアの苦しそうな小さな呻き声が段々と大きくなっていき、ついには発狂し暴れ始めた。
「えっ、ちょっ、えっ……なんでだよ……」
透が逃げ出す前の様子へと戻ってしまった事に、涙目で狼狽える事しかできない。
マスクが不快なのか顔を大きく振り、拘束を引き千切ろうと暴れ出ている。
「か、かんてい」
先ほどまでは落ち着いていたのに何故と、藁にも縋る思いでリアの精神状態を鑑定する。
『中等度の毒物接種状態による精神異常』
先ほどまでの重度の精神異常状態から中等度へと落ちていた。
確かにリアの体調の変化は時間が経つにつれて、激しいものから廃人のようなものへと変化していた。
冷静になればそれが逆戻りしているだけだと気付けていたはずなのだが、突然治療していたはずの人間が発狂すれば状態が悪化してしまったのではないかと不安になるのは仕方がない事だといえよう。
自分の頬を叩き気合を入れ直した透は、再度治癒術をかけていく。
すると段々と狂暴性は落ち着きをみせ、今度はよく笑いもごもごと何かを呟くようになった。
「ツキミの事でも喋ってんのかな……」
朝の様子を思い出し、きっと軽度まで落ちたのだろうと予想する。
鑑定で確認するよりも治癒術に全力を注ぐことを優先し、そのまま透持つ魔力の全体量の半分程を使った時、リアの笑い声が止んだ。
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