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最強の武器はこの妄想力  作者: 緒嶋まゆ
第三章
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魔力の繋がり

「なんだ!?」


 思わず声を上げて起き上がってしまう程だが、決して痛いというわけではない程度の力強さで身体の内側から叩かれたような衝撃。

 敵襲かと思って辺りを見渡して耳を澄ませても、誰かいる気配はない。


 その間もドクッドクッと体の内側から、自分の心拍音とは違う魔力の鼓動が感じ取れる。

 とりあえず再び座り込み、自分の内側を観察するよう感覚を研ぎ澄ませてみた。


 魔力の鼓動は一定のリズムを奏でているが、先ほどの力強さは無くなり、代わりに慰めるような優しい強さが感じられる。

 そして透の身体全体を包み込むように、薄っすらと魔力の膜が展開されていた。


 魔力が一番強く感じる場所を探ってみると、心臓のすぐ隣に魔力の塊があるのがわかった。

 透自身の魔力とは似ているような、どこか違っているような、よくわからない不思議な感覚の塊が体内に確かに存在している。


 その塊を自分の魔力で包み込むようにして探っていると、くすぐったがるような照れたような感情が流れ込んできた。

 心なしか少し魔力の塊が身をよじっているような気がしてくる。


「魔力の塊が……照れた?」


 調べているはずなのに、余計に分からなくなってしまう。

 疑問符を浮かべたまま更にしっかりと魔力で包み込んでいくと、体外へと続く細い糸のようなものが伸びている事に気が付いた。


 自分の魔力を沿わせてその線を追いかけていく。


「今までこんな物気が付かないだけであったのか……?それとも、この国に入って皆がおかしくなっちまってるのに関係してんのか?」


 魔力の糸は壁をすり抜け、窓ガラスをすり抜け上へ上へと延びている。

 透の魔力で糸を包み込むようにしながら糸の先を目指しているのがわかるのか、魔力の塊からは嬉しそうな感情が溢れ出してきた。


 暫くすると透の中にあった物よりも大きな魔力の塊へと辿り着いた。

 その塊に透の魔力が触れた瞬間、不安や寂寥感といった感情が透の中へと急速に流れ込んでくる。


 だがすぐに透の魔力が触れた事に気が付いたのか、その感情が喜びへと一気に染まっていった。

 そして、耳元で「がうっ!」という、テディの声が聞こえた気がした。


 嬉しそうに鳴いたテディの声に、何かを感じ取ったツキミが騒ぎ出したのか、呆れたような鬱陶しそうな思いが透の中へと勝手に流れ込んでくる。


「もしかして、この魔力の塊ってテディなのか?」


 透の呟きに肯定する意志が感じ取れる。

 言葉を交わす事はできないが、魔力の塊を通して何を感じているのかは、なんとなくわかるようになったようだ。


(それにしても、テディはツキミの事をちょっと鬱陶しいと思っていたのか……?まあ、確かに煩い時は煩いからなぁ)


 テディとツキミのわちゃわちゃしている様子が思い浮かんで、くすっと軽い笑みが零れる。

 先ほどまでは一切手がかりがなかったテディとツキミの無事がとりあえず確認でき、いつもと変わらない状態に一安心した。

 今度ルメジャンへ戻った時に報告する事が増えたな、と考えながら気持ちが少し前向きなものへと自然に変わっていった。


 だからといって、状況が好転したわけではない。

 だが、塞ぎ込んで全てを諦め、思考を放棄していた状態に比べれば、少しリラックスして気持ちを切り替えただけでも、新たな発想は生まれやすくなる。


「テディとツキミも待ってるみたいだし、早く迎えに行ってやんねえとな。と、なれば……、やっぱりまずはリアからなんだけど、どうすっかなあ」


 リアの様子を見に宿屋へと戻ると、先ほどよりも無気力状態でぼーっとする時間が増えていた。

 恐る恐る透が声をかけてみても、反応を返さなくなってきている。


 どうしたらいいかわからないまま、とりあえず原因を探ろうと、過去を映しだす魔術をリアに魔力を流し、リアの視点から展開する。

 モンブールへ入った所から早送りで再生していったが、特に怪しい物を口にしたりしたわけでもなく、透と同じように過ごしていたのが分かる。


 同じように行動して、同じように物に触れて、同じように食事を摂ったのに、何故リアだけが異常になった。

 過去を何度再生しても原因はわからず、進展はない。


「過去っつーか現状どうなってるかわかればいいのに……。現状把握といえば、やっぱり鑑定か?」


 知識として知っていたとしても、いきなり使った事の無い魔術を人に使うのは気が引ける。

 とりあえず壁に向かって手を付いて「鑑定、鑑定、鑑定」と呟いても反応は無く、それならばと魔力を壁に流してみても何も起こらなかった。


「んんんん……。過去再生は対象に魔力を流せば記憶を引っ張り出せたんだけど……。鑑定はまた全然違った理屈なのかなあ。いや、そもそも魔術に関する理屈なんて1ミリもわかんないけど」


 自分の内側にあるテディを感じる魔力の塊に向かって、「どうしたらいいと思う?」と問いかけてみるが、どこか気落ちしたような感情が返ってくるだけだ。


 アニメや漫画で見た主人公たちはどうやって鑑定していたかを思い出そうとするが、徐々に日本の頃の記憶は薄れており、皆簡単そうに鑑定スキルを使っていたような記憶しか思い出せない。


 壁に関する事だって、いつ建設されて何の物質が使われて、どれくらい耐久が残っててとか、そんなに細かい事が知りたいわけではない。

 今は壁は壁と表示させるだけでいいのだ。何か鑑定をする取っ掛かりやコツさえ掴めるだけでいいのに、ともやもやしながら壁と睨めっこを続ける。


 その間にもリアは激昂状態が無くなり、たまに小さい呻き声を上げるだけになった。

 リアの変化が死に近づいているように感じて、透は焦燥感にかられる。


「鑑定……鑑定……。イメージしろ、強く、強く。俺には見える、見えるんだ。ゲームでよくみるウィンドウみたいなのが」


 浮かび上がって、と続けて口にすると同時に、薄灰色のウィンドウが浮かびあがった。

 だが、そこには何も書かれてはおらず、ただ無地の四角いウィンドウだけが壁の前に浮いている。


「ええ……、いや、そうじゃなくないか……?」


 ウィンドウが浮かび上がって成功したと喜んだのに、何も表示されていないウィンドウに振り出しに戻されたように感じられて気落ちする。


「なんか、鑑定すると情報量が多すぎて頭が痛い!とか、眩暈がするとかっていうのは見てたけど、鑑定がそもそも出せないっていう悩みは無かったような気がするんだけど……。もっと異世界もの見ておくべきだったか」


 アニメや漫画、はたまた空想の世界で楽しんでいた物が、本当に自分の身に降りかかるとは思っていなかった日本時代。

 自分も異世界へ行ってみたいとは思っていても現実問題はあり得ない、だから知識を吸収する為ではなく、あくまで楽しむだけだった。


 頭を振って雑念を飛ばして再び意識を壁に集中させる。

 見るという事を強くイメージしているうちに、無意識化で魔力が目に集まってきていて、そのうち壁と唱えればウィンドウに『宿屋の壁』と表示されるようになった。

 だが、透が知らない事を映し出せなければ、本当に鑑定ができているのかはわからない。


「でも知らない事って本当に合ってるのかもわかんないよなあ……。鑑定って色んな意味で思ったより難しいな……」


 物は試しと、とりあえず壁の状態を見たいと念じる。

 すると、『経年による色あせ、ひび割れ、長期間の高湿度状態におけるカビの発生。過去に宿泊した人間が破損させた修復跡あり』と表示された。


 透が認識していなかった出来事までウィンドウへと表示され、合っているかを確かめる為に壁を隅々まで観察する。

 色あせやひび割れはすぐ見つかり、カビも今まで気にしていなかったが隅っこに生えていた。


 修復跡だけは綺麗に直されていたからか発見する事はできなかったが、鑑定が魔術として機能しており、透の知らない事を教えてくれる事は分かった。

 新しい魔術の成功に思わずガッツポーズをして、早速人間へ試してみる事にした。


「んでも、最初からリアを見るのはなんか気が引けるから、とりあえず俺の事でも鑑定してみるか」

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