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最強の武器はこの妄想力  作者: 緒嶋まゆ
第三章
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やっと出会った初めての住人

 ビルとビルを繋ぐ連絡通路を何本か超え、青い光の矢印が消えた先には『冒険者窓口』と書かれた看板がかかった扉があった。

 誰かいてくれという願いを込めながら扉を開けるが、やはり中は誰もおらず心なしか煌く装飾品が寂し気に見える。


「受付窓口っぽい所にも誰もいないのか……」

「この街何かおかしいわね……」


 誰もいない部屋をぐるりと回ると、エレベーターの中にもあった鉄板がいたる所に置かれていたのが目につく。

 近づくと鉄板は光を放ち、『依頼』『登録』『売買』『募集』『その他』と書かれた文字が浮かび上がる。


 とりあえず依頼を押してみると、鉄板の文字が変化し『依頼登録』『依頼一覧』へと変わった。

 一覧の方を押すと、『アイアン』『ブロンズ』『シルバー』『ゴールド』『ルビー』『全て』と表示され、全てを押すと画面が切り替わり『戻る』の文字以外が全て消えてしまった。

 戻って別ランクの部分を押してみても、依頼は何も表示されなかった。


「依頼が何もないって……他の国なら何かしらいつもあったんだが」

「人がいないから、依頼を出す必要も無いって事かしら」


 ギルド本部ではツキミとテディに会う事は勿論の事、誰に出会う事も無く終わってしまい、仕方なく別の階層へ移動する事にした。

 美味そうな食料がある所や、面白そうな所にツキミが出現する可能性が高い、という意見で一致した2人は、16~24階の商店や娯楽施設がある階層を探索する。


 16~24階の全てを移動したが、結局どこにも人影を見つける事はできなかった。

 商店階の本来青果やら、精肉等が売られていると思われる店には、1口大に切り分けられた茶色く正方形の物体が並んでいる。


「ツキミちゃんだったら、とりあえず食べてそうよね」

「わかる」


 得体の知れない物を見てどうしてすぐに口に入れようとするのか、いつも理解ができないまま行動に振り回されているのだが、そのツキミがいないとなんとなく物足りないような寂しいような感覚に陥ってしまう。


 その素っ頓狂な行動でピンチになる事も多々あれば、幸運な事に物事の突破口になる事もあったのだ。

 もふもふがおらず変態性も発揮されないリアと透の2人になり、どれだけ探し回っても人に出会う事ができず状況が停滞していると、どうしても重苦しい空気が2人の間に流れてしまう。


「ツキミもいなさそうだし、居住区を見て回るか」

「そうね、そうしましょ」


 昇降場へと戻ってくると、どこからともなく低い金の音が重く響いた。

 耳が痛くなるような大きな音ではないが、脳ミソや内臓が直接揺さぶられるように体内に響き渡り、思わず2人はそのまま地面にへたり込んでしまう。


 鐘の音はゆっくりと2回鳴っただけで、その後は何もなかったかのように周囲は静けさを取り戻した。

 荒くなった呼吸を整え、ドクドクと脈打つ心臓を落ち着かせ立ち上がると、チーンという音と共に昇降場の扉が1つ開いた。


 扉の中にはぎゅうっと人が詰まっており、ふらりと出てきた人々はのろのろした足取りで、1人また1人と商店のある方へと進んでいく。

 身に纏っている服はボロ布のようで、泥や何かわからない物が服は勿論、身体にも多数ついている。


「あっ、あのっ!すみません!」


 あまり近付きたくはないと思う気持ちを押し殺して、初めて出会えた人を逃がすまいと透は慌てて声を掛けるが、まるで聞こえていないかのように無反応なまま全員が歩いていく。

 住民へ少し近づくと農場で嗅いだ厩肥の臭いが漂ってくるが、ぐっと堪えて軽く肩を叩きながら再び声を掛けてみるが、やはり透の存在に気が付いていないかのように反応が無い。


 顔を覗き込んでみると髪はぼさぼさでゴミがくっつき、ぼんやりとした瞳は焦点が合っておらず、死んだ魚のように濁っていた。

 表情筋は全く仕事をしておらず、重力に負けぽかんと口が小さく開き、涎が少し流れ出ている。


 他の人を見渡しても誰もが同じ表情をして、立っているのがしんどいかのように猫背になり、腕はだらりと下がったままふらふらと歩を進めている。


「まるでゾンビだな……」


 先ほどの商店に並べられていた茶色い謎の物体をいくつか袋に入れた住民たちは、またふらふらとしながら今来た道を戻っていく。

 その様子を後ろを歩きながら観察していると、開け放たれたままの昇降場の扉の中へ再び戻った人は、そのまま足場の奥まで進んでから止まった。


 後から後から袋を手に持った人が1つの扉の中へと入って奥から並んでいく。

 全ての人が扉の中へ入り切った時には、開いたときと同じように人でいっぱいになっていた。


「さっきの人?達って、もしかして居住区へ行ったのかしら……?」


 ゾンビを知らないリアですら、先ほどの住民たちが人とは信じられないのか、言葉の端々に疑問符が浮かんでいる。


「多分、そうじゃねぇかなぁ……」


 行きたくないという気持ちが2人の心の中に沸き起こるが、ぐっと堪えて嫌々昇降場のボタンを押す。

 暫くして開かれた扉の中には嫌な臭いが残っており、鼻と口を押さえ居住区の1番下の階へと向かった。


 足場が停止し扉が開かれると、転がり出るようにして居住区の昇降場へと降りた。

 右手にすぐ突き当りがあり、廊下が2つに分かれている。真ん中には1階でも見た朽ち果てそうな看板が掛かっていた。


 左の矢印と共に2601~2610、右の矢印と共に2611~2620と書かれている。

 とりあえず番号の若い方へと進んでみると、廊下が続き左右に扉が並んでいた。


(なんつーか……ホテルの廊下を歩いてる気分になるな)


 勿論誰も出歩いていないので、左右に分かれて片っ端からインターホンのような物を押して、扉をノックしていくが反応は無い。

 端まで歩いて仕方なく引き返そうとする時に、透は何気なく扉を押してみると、錆付きによって少し抵抗があったが割とすんなり扉は開いてしまった。


「すいませ~ん」


 勝手に押し入るつもりは無かった事をアピールする為に、扉を少し開けた状態で遠慮がちに中へと何度か声をかけるが反応は無い。

 恐る恐る扉を開け中を見ると、生気の無い人たちが先ほどの商店階で持ってきた茶色い物体を口に運んでいた。


「あ、あれやっぱり食べ物だったんだ」


 透の口から的外れな感想がポロリと漏れた。

 後ろからひょいっと顔を覗かせたリアが、中の人たちを痛ましそうな目で見ている。


 ダメ元で中に入り食べてる人の肩を叩くが、やっぱり反応は無かった。

 部屋の中には腐敗臭のような物が薄っすらと漂っており、溜息を吐いた2人はすぐ部屋を出る。


 他の部屋も何件か開けてみるが、同じような光景が広がっているだけだった。


「ねぇ、透くん。ちょっと気持ち悪くなってきたわ……」


 リアの方を見ると顔色は青白く、額に薄っすらと汗を浮かべ息遣いが荒くなってきていた。

 口元を押さえている姿からは、今にも吐きそうなのが伝わってくる。


 透も若干鼻が麻痺してきたが、不快な臭いに晒され続けて気分が悪くなってきていたし、いくつ扉を開けても話しかけても反応は返ってこないしで心身ともに疲弊してきていた。

 居住区をあとにして、宿屋がある階層へと移動する。


「宿にもやっぱり誰もいねえか、鍵も掛かってないみたいだし今日はここを借りるか」


 商店階は腐敗したような臭いが無く大きく深呼吸する事もできたが、既に気持ち悪くなっているリアはどこからともなく漂ってくる甘い臭いを嗅ぐだけでも辛そうだ。


「え、えぇ、足を引っ張ってしまって、ごめんなさい」


 リアがゆっくりとベッドへ腰掛けて謝罪を告げる。


「いや、俺もあの臭いは結構きつかったし。今日は疲れたからゆっくり休もうぜ。俺の術じゃそこまで効かないかもしんねえけど、無いよりはましだろうから」


 そう言って透はリアに治癒術をかけ始めた。

 いつまでたっても拙いままの治癒術を詠唱し、リアの顔に気持ち血色が戻ったのを確認した透は机へと行き、収納魔術の中をごそごそとあさり始めた。


 気持ち悪い時に食べ物の臭いはきついかと思い、とりあえず密閉されている保存食を机の上に置いておく。


「隣の部屋にいるから、何かったら壁叩くか声かけて。保存食になるけど、ここ置いとくから食べれそうなら食べて」

「わかったわ、ありがとう」


 しんどそうに微笑んだリアは、そのままベッドへと潜りこんでいった。

 それを見届けた透も隣の部屋に入り、軽く簡単な保存食を食べてすぐに眠りについた。

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