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最強の武器はこの妄想力  作者: 緒嶋まゆ
第三章
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異様なギルド本部

 廊下の突き当りは左右に分かれていた。

 突き当りの壁にかけられている案内板は、長期間手入れされていないのが一目でわかる程錆が出ていて、今にも朽ちて落下してしまいそうだ。


「えーっと?左が昇降場、右が第1農場、か。」

「農場って建物の中で作物を育ててるって事かしら?」


 とりあえず他にも入口の門から転移できる場所があるのかを聞く為に、早く人に会いたいと考えていた2人は右側へと進んでいった。

 農場なら誰かが仕事しているだろう、と。


 第1農場と書かれた札がかかっている重い扉を開けると、真っ白な床や壁はそのままに一定の間隔を開けながら数メートルの畑が並んでいた。

 換気扇と思われる物が回っている音がするが、土と厩肥の匂いが充満しており、2人は思わず鼻を覆った。


「見た目は綺麗に整えられてるのに……臭いわね」

「動物の糞が作物の肥料になるって聞いた事ある。きっとそれがどっかに溜められてるんだろ……」


 仕方なくそのまま畑の間を歩いて人の姿を探すが、誰も出歩いていない。

 奥に小屋みたいな物があり、嫌な予感を胸に抱えながらもその扉を開けると、更に強い厩肥の匂いに思わず急いで扉を閉めた。


「糞置き場みたいだ……」

「かえりましょッ」


 2人は涙目になりながら速足で廊下へと続く扉を目指していると、突然上から水が降り出し2人を濡らす。

 天井に取り付けられていたスプリンクラーのような物が作動し、作物に水やりを開始した為だった。


 慌てて廊下に出て扉を閉めると、力なく床へと座り込んでしまう。

 臭くないはずの廊下で大きく深呼吸をしても、なんとなく臭う気がして顔を顰めつつ、透がバスタオル2枚を具現化して、身体の水分を拭き温風を出して乾かした。


 看板は今にも朽ち果てそうなのに、重厚な扉は錆てはいても壊れそうな雰囲気は見当たらない。

 農場から戻ってきた2人には、その理由が分かった気がした。

 そして、この街の建物の外がどうしてあんなに臭かったのか、それも一緒に察した。


「扉1枚で別世界ね……」

「あぁ……、この街の人もいないし、この臭いじゃ鼻の良いツキミとテディはもっとしんどいだろうし、農場って書いてある所は立ち寄らないで進んでくか」


 透の提案をすんなり受け入れて、2人は昇降場へと移動した。

 広い円形の昇降場には、大小さまざまな扉が10個並んでいる。


 扉の上には何階ごとに止まるのかが記載されており、馬車がそのまま入りそうな程大きな扉の上には『直通』と書かれている。

 そして、昇降場の中央には途中の看板と同じように、朽ち果てそうな階層案内の看板が置かれていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~


1~10階:農場、牧場

11~15階:生産工場、鍛冶工場

16~24階:商店、宿場、娯楽施設

25階:ギルド本部

26~40階:居住区


~~~~~~~~~~~~~~~~~


「お、25階にギルド本部があるぞ!ここが1番可能性あるんじゃないか?」

「そうね、行ってみる価値はあると思うけど、ツキミちゃんの事を考えたら食べ物屋とかにいそうな気がして……」


 困ったように笑うリアの言葉に「確かに」と納得しながらも、満腹になったらギルド本部をきっと目指すだろうと信じ25階に移動する事にした。


 5階ごとに止まると書かれている扉の隣にあるボタンを押すと、中でゴウンゴウンと音を立て始める。

 少し扉から距離を置き警戒してると、急に静かになり扉が自動で開かれた。

 中には青白い光を発する鉄板が1枚、腰の高さくらいの位置まで床から伸びているだけだ。


 魔力絨毯でサッと中を調べても罠や敵等は見当たらない。

 中に乗り込んで鉄板を見ると、数字が書かれているボタンが並んでいた。


 25のボタンを押すと扉が勝手に閉まり、再びゴウンゴウンと音を立てて足場が上昇を始める。

 リアが動く足場におっかなびっくりしながら周囲を見渡しているのを横目に、透は自分の思考の中へと沈んでいく。


(村の動く足場も凄いと思ったけど、若干形が違ってもこりゃ完全にエレベーターだな。ビル群や要塞みたいな外壁とか、さっきの農場でもスプリンクラーみたいな物とか……、技術が発達してるとはいえ他の国とは違いすぎるぞ。もしかして異世界から来た勇者ってやつか……?)


「どうしたの?ついたみたいよ」


 ボーっと考え込んでいる透を覗き込み、不安そうに扉が開かれた先をチラチラとみている。


「あ、あぁ。考え事してた、ごめん」


 軽く謝ってギルド本部と思わしき階へと降りた。


 ふわりと甘い香りが漂い、煌びやかなシャンデリアがいくつも下がり、足元にはふかふかの真っ赤な絨毯が敷かれている。

 存在感のある白い柱は複雑な模様が彫られており、様々な彫刻や魔石がキラリと光る装備がショーケースに入って並べられていた。


 そんなまるで美術館を思わせるロビーの奥には、荒野を一望できる巨大な窓と座り心地のよさそうなソファやガラステーブルが並べられ、高級ホテルのラウンジのようなバーカウンターが置かれている。


 空中にはどうやって投影されているのかわからない矢印と共に、黄色い光で商業窓口、青い光で冒険者窓口、緑の光で産業窓口と書かれ、その先もその色の矢印が浮かび連なっている。


「凄い光景ね、なんか私達場違いじゃない……?本当にここギルドよね?」

「正直ルメジャンで泊まってた、ちょっと高めの宿よりも全然豪華だな」


 透はギルド本部とは思えない絢爛さに戸惑いつつも、ずっと感じていた違和感に触れてしまう。


「なんで誰もいないんだろうな」


 ギルド職員と思われる人は勿論の事、冒険者や商人も含めて見渡す限り誰もいないのだ。

 シュループやルメジャンのギルドは本部だけではなく、支部までも多くの冒険者や職員で賑わっていた。

 その光景を思い出すと人もおらず、話し声も聞こえてこないモンブールのギルド本部の異様さが際立つ。


 警戒をしながらも、とりあえず冒険者窓口を目指して、青い光の矢印に従って進み始めた。



 ◇◆◇



 一方その頃、別の場所へと転移させられたツキミとテディは、強化ガラスで作られた縦型カプセルの中にそれぞれ隔離されていた。

 周囲を見渡すと同じカプセルが並び、中には何本もの管が繋がれている人や、モンスターや植物までもが個別に入れられている。


 カプセルごしに()()は顔を見合わせ、同時にカプセルを破壊する為に雷撃と石礫を出現させようとしたが……、魔力が魔術に変換されず失敗に終わった。

 具現化ができないのならと身体強化をしようとするが、身体に留めたはずの魔力が強制的に吸い上げられ強化する事もできない。


 自分の意志とは無関係に魔力を吸われていく感覚に気持ち悪さを覚えつつも、カプセルの中以外に人が見当たらないこの場所で喚いても仕方がないと割り切って、なんとか自力で脱出できないかをツキミは考え始める。

 だが、余り深く物事を考えず、我武者羅に全力で突っ走っていただけだった為、すぐに思考は流れ放棄する事になった。


「そういえば転移する前は人間モードだったのに、この中になったら猫のまんまなのだぁ。どんだけ魔力込めても人間にはなれないのだ……」


 しょんぼりとしながらも、とりあえずガラスを力いっぱい叩いてみたり、魔力が吸い上げられているまま中途半端な身体強化をして体当たりをしてもカプセルはびくともしない。


 プゥ。


 力みすぎて小さなおならが1つ零れただけに終わった。


「くさっなのだ」


 密閉空間で自分のおならの臭いに急いで両手で鼻を覆ったが、ぷにりとした肉球では鼻を完全に覆う事ができず、涙目になり諦めてごろりと横になって丸まった。

 隣のカプセルで同じ様に体当たりをしたり、爪でカリカリとガラスを引っ掻いていたテディも諦めて座り込んだ。

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