養成所編◆座学
2020/8/13 改稿
※物語の流れに変更はありません。
透とツキミは朝8時に昨日と同じ部屋に入るとラティが既にいた。
挨拶をし席へとつくと、早速講義が始まる。
「まずは、皆が退屈だと言う話から先に済ませてしまおうか」
ラティはそう言って苦笑いしつつ、世界の現状について話し始めた。
現在このワーズという世界には6つの国が存在している。
樹海や森、草原といった緑が数多くあり、冒険者の育成に注力している国、シュループ。
炭鉱が多く鍛冶が発展しており商人が数多くいる国、モンブール。
神秘の遺跡と砂漠のオアシスが発展した国、ルメジャン。
深海ダンジョンと海の上に建設してある国、ニーシュー。
神が残した試練の塔や天空都市が広がる国、ワチエ。
そして魔王が統治している国、ヴェニオン。
「各国は王国だったり共和国だったり、はたまたトップが誰もいないような体制を取っている国だったりと特徴は様々だ。そこまで詳しくは話さないから、気になるなら自分の目で確かめに行くといい」
因みにツキミの集落はシュループ国の樹海の中にあるそうだ。
透は異世界にきて気分が舞い上がってはいたが、実際に色々な国があると聞くとすぐにでも世界を見て回りたくなる。
そのうちゆっくりではあるが全世界を旅をしようと決意をした。
「我々冒険者が狩る事になる生き物は3種類存在している。動物とモンスター、それから魔物だ」
体内に魔石と呼ばれる動力源を持っているのがモンスター、持たないのが動物であり、魔石の有無によって知能や魔術使用の有無が変わってくる。
要はモンスターは知能が高く魔術が使える物も多いが、動物には一切無い。
また、魔物は魔王の感情に同調する事ができ、魔王の意のままに動く事ができる。
シュループはヴェニオンよりもかなり遠い所に位置しているため、魔物が出てくる事は殆ど無い。
「さて、強くなる為には剣術・魔術・魔剣術を学んで貰いたい、次はそれについて話をしていこうか」
剣術にはスキルという物が存在しており、どのような技かを理解しスキル名を覚える事で、スキル名を唱えるだけで魔力が体内で勝手に動き技を繰り出す事ができる。
ただし、自分の体を動かしながらスキル名を唱えるとスキルアシストとして発動する為、より発動したスキルの威力が上がり発動するまでの時間も短縮する事ができる。
雑魚相手の戦闘であればスキル名を唱えて魔力に身を任せる戦闘でも問題は無いのだが、生死を分ける戦いの場合は基本的に自分の体術で戦い、ピンポイントでスキルをアシストとして発動し威力を上げるのだという。
スキルは一度発動してしまうと行動が終わるまで自分では止められず、相手に読まれやすく使いどころを見極めないと簡単にカウンターを決められてしまう為、一長一短な所がある。
魔術には一般的に攻撃・結界・回復・補助が存在しており、それぞれに下級・中級・上級・最上級が存在している。
攻撃魔術の中でよく使われるものは、火・水・風・雷・土であるが、イメージと技術によってはどんな魔術を構築する事も可能となる。
事実、一部の上級魔術師達は重力を操り、魔物や人形を使役する者もいる。
また、魔術を発動させる方法として詠唱と無詠唱が存在する。
詠唱の節を覚えるだけで魔力が術へと変換され発動できるというメリットがあるが、逆にデメリットとして、長い節を詠唱しなければならずその間は無防備となってしまう事と、無詠唱に比べると威力が目劣りしてしまう。
無詠唱の方がイメージを明確に持っておかねばならず、難易度が上がってしまうがその分即時発動や高威力を出す事ができる。
現在のワーズでは簡単な魔術に関しては無詠唱、複雑な術は詠唱を行う人が多い。
剣術も魔術もイメージを強く持つと新しい術を生み出す事ができる。
新しく生み出した術に名前を付けると術とイメージが連結しやすく、技の発動を短縮する事も可能になる。
新しい技術を研究開発している最新鋭の施設が各国に存在しているので冒険者を引退してからは、研究員として職に就く者も多くいるそうだ。
「長瀬君には明日から剣術・魔術を教えていこう。身体にある程度浸み込んだら模擬戦をしながら魔剣術に移ろうか」
透は素直に頷く。
早く応用技術をマスターしダンジョン等へ行きたい気持ちが強いが、命あってこそである。
何よりも基本動作が無意識で咄嗟に発揮できるかが生死を分ける、とラティが何度も言っていたので、素直に教育方針に従っていく。
「ツキミ君は……どうするかね?」
多少の戸惑いが含まれた表情でラティはツキミに問いかける。
ツキミはまだ人間の姿に成れないので、剣を握る事はできない。
その為魔術のみとなってしまうのだ。
「魔術の強化と新しい属性を覚える練習を中心にやっていくのだ」
ツキミは胸を張りながら答えた。
獣人族の中には人の姿のまま武器を操る者もいるが、獣人族は元より狩りの際は獣の姿で行う事が大半である。
魔術のみでも膨大な種類が存在し、アイディアと練習次第では無限の可能性が広がる。
ツキミのように魔術特化で戦闘を行う人間も少なくない。
「そうか、では明日からはそのように行っていくとしよう。今日はここまでだな、明日も同じ時間に今度は校庭へと集合してくれ」
「わかりました」
ラティへ挨拶をし透とツキミは部屋をあとにする。
昨日と同じように薬草収集のクエストを受け町の外へと探しに出発した。
昨日新しく開発した術を発動しようとした所で今日の授業を思い出す。
術に名前を付けると技の発動が早くなるとの事だったので、早速適当な名前をつける。
「魔力絨毯」
透は目を瞑り集中力を上げながらそう呟くと、足元から青い魔力が絨毯のように広がり薬草を探し始める。
ツキミが「ネーミングセンスないのだ……」と小さな声でポツリと呟いた。
透はその言葉をスルーし黙々と薬草を集めていく。
その間暇になってしまったツキミは、五感をフル活用しモンスターを探していく。
ラパンが見つかれば御の字、見つからなくても今晩の夕食に食えそうなモンスターを討伐する為に。
透の魔力が残り1割くらいまで減った所で今日の薬草探しは終了する。
ギルドへと戻り依頼完了の報告をしに受付へと訪れた。
今日集めた薬草とラパンを提出すると受付のお姉さんは驚愕した表情でそそくさと奥へとラティを呼びに行った。
お姉さんに連れられラティがやって来て透達の収穫物を見て驚愕する。
「君達は……やはり色々と……いや、なんでもない」
テーブルの上に乗せられた薬草は100本とラパン10匹、どちらも依頼10回分の量だ。
通常のサンロットいるヒヨッコ冒険者達だとこの量を集めるのに1か月以上はかかる事だろう。
それを午後だけで集めて来たのだからギルド職員が驚くのも無理はない。
透とツキミは報酬を受け取り帰路へとつく。
「今日は金がいっぱい入ったし、何か食ってから帰るか?」
透の言葉にツキミは嬉しそうに頷きかけて、少し考え首を横に振った。
透が不思議そうな顔をするとツキミが提案をする。
「美味しいごはんは食べたいのだ。でも透はそろそろ防具とかの装備を買ったほうがいいと思うのだ」
ツキミの言葉を受け、透も確かにと頷く。
透はいまだストライプのポロシャツに明るい色のチノパンという服を着用している為、度々好奇の眼差しに晒されている。
「今日はまたカエルを捕ったのだ。それとパンを軽く食べて、明日の午後にでも装備を見に行くのだ」
透はツキミの言葉に頷き、パンを買って宿へと戻った。
宿でパンとカエルを頬張り、毎日の習慣となっている魔力の鍛錬を行い二人とも意識を手放した。
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