最初の村で
「つっ、つきみちゃんっ!?」
リアが慌ててツキミを持ち上げようとするが、片手ではうまく持ち上げる事ができず、しょんぼりとした顔で透の方を見た。
仕方なくテディをリアに預け、ツキミの両脇部分に手を入れ、ゆっくりと身体を持ち上げる。
抵抗無く、されるがままに持ち上げられたツキミは静かに泣いていた。
「いたかったのだ……。しぬかとおもったのだ……」
テディも心配しているのか、リアの腕の中で手をツキミの方へ伸ばして小さく鳴いている。
透がいまだに拙い回復魔術をかけつつ、疑問を投げかけた。
「普通だったらあの高さから落ちたら死んでると思うけどな。って、そうじゃなくて、戦闘でちょいちょいやるように自分で結界張って足場作ればよかったのに、なんでしなかったんだ?」
きょとん、と首を傾げるツキミ。
そのまま暫し沈黙が流れ……、てへっと舌を出した。
「すっかり忘れてたのだっ」
その答えに2人と1匹はがっくりと項垂れた。
いつの間にか消えていたモグラロボットが、ずんぐりむっくりとしたお爺さんを連れて戻ってきた。
「何をしている」
歩きながら先ほどのやりとりを見ていたお爺さんは訝しそうに目を細め、改めて透達の様子を観察し、猫の形に少し凹んだ地面を見た。
透は大慌てで釈明をする。
「あ、いや、これはですね!うちの大馬鹿が先ほどの昇降する足場から落ちまして、その際にできてしまった穴なんですけど……、もしかしてこれも器物破損に含まれます……?」
「大馬鹿とはなんなっ」
ツキミが大馬鹿呼ばわりされた事に対してぷんすこと怒り声をあげるが、透が全て言い終わる前にサッと手で口を覆った。
じたばたとしながらもごもごと手の中で文句を言っているが、透はぐっと押さえつけつつ愛想笑いを浮かべお爺さんを見る。
「お前らがそこにいるのが答えだろう。儂はここの纏め役をしている者だ。ここに住む人々を集めてある、こっちへ来い」
つまり、村から弾き出されていないので、器物破損には含まれていないという事らしい。
透達は胸を撫で下ろしながら、お爺さんの後について行く。
「いいか、村の人たちと話すのは俺がする。特に、ツキミ。お前は絶対に何も余計な事はするなよ」
歩きながらこっそりと、ツキミとリアに小声で忠告をする。
まだぶらーんと抱えられているツキミは「わかってるのだー、全くうるさいのだー」と文句を言いつつ、足をぶらぶらさせて遊びだした。
片手で顔をぐにぐにと揉みながら更に念を押すが、本当に分かっているのかは疑問が浮かぶ様子だ。
「テディ、地面に降りても大人しくしていられるか?」
「がうっ」
元気よく頷きながら返事をしたテディを地面に降ろし、ツキミをリアに抱かせた。
テディは大人しく透の後について歩き、ツキミは暇を持て余して尻尾でリアの足をくすぐり始める。
リアとツキミの小声でキャッキャウフフしているのを聞き流し、案内された少し大きめの建物に入ると、老若男女入り混じった人々が15人程集まっていた。
その全員がずんぐりむっくりとした体形をしており、子供から大人まで殆ど身長に違いが無く、年齢を判断できそうなのは毛やシワ等だけで、なかなかぱっと見分けがつかない人々だ。
「この者達が外界からやってきた旅人だ。先ほども軽く伝えた通り、香辛料を持っている。買取や物々交換等、欲しい者は直接交渉を行うように」
お爺さんの言葉に同じような顔をした人々が、少し険しい同じような表情で頷く。
見分けの難しさに苦笑いを浮かべつつも、透は一歩前へ出てぺこりと頭を下げた。
「ご紹介に預かりました旅人の長瀬透です。後ろの少女がリア龍河、猫がツキミ、熊がテディです」
軽い自己紹介をして、香辛料達を収納魔術から取り出し、どこの国の物でどんな味がするのかを説明しながら並べていく。
自己紹介には全く反応を見せなかった住民たちが、1つまた1つと香辛料が出てくる度に説明に聞き入り、食い入るように眺め近くの人と話をしていた。
香草やスパイス、薬草等を20種類程並べ、自分達で組み合わせて作った肉用ふりかけや野菜用ふりかけを最後に並べた。
特にふりかけ類は色々な香辛料が既に混ぜられていてお得だと思ったのか、住民たちのキラキラとした視線により一層光が増す。
「えーっと、それでですね。私達の欲しい物なんですけど、1番は情報です。この国で最も栄えてる場所に行きたいんですけど、方角や何でどれくらい時間がかかるのか、それから街に入る為に必要な物があるのか等。それ以外にも街の中の様子とか、どんな職人がいるとか、どんな食べ物があるとか、機械で出来た腕を作れる物はいるのか……とか。とりあえずどんな事でもいいんです、この国の事を教えて下さい」
情報が欲しいと言い出した時は皆きょとんとしていたが、透が例えばこんな情報がいい、知っている事を何でもいいから教えてくれと言った時には皆良い笑顔を浮かべていた。
自給自足で生きている村のため、交換として出せる物はそう多く無い。
それに住民たちは貨幣だって殆ど持っていないのだ、ただ知っている事を話すだけで香辛料が貰えるなら、それほどありがたい事は無いのだ。
「ただ、情報については誰から聞いたとか関係なく、集まった情報量に対してこの香辛料達を置いていくので、後ほど皆さんで分けて合って下さい。それ以上欲しいという方は、別途販売でも物々交換でも応じますので、気軽に声をかけて下さい」
極力不公平感が無いように、聞いたらその場で渡すというより、後で分けて貰うように話したのがよかったのか、ある少女が発言すると、それに付随して青年が情報を付け加え、それを聞いて思い出したお婆さんが他の人が知らなかった事を呟く。
ツキミとリアにもメモを取らせ、3人で聞き逃さないように住民たちの会話を書き留めていった。
情報を聞けるだけ聞き出し、その後の物々交換では村の余剰食料と透達がシュループで買った香草や作物の種を交換した。
「色々聞けたし、食料の補給もできたし、万々歳だな!」
「そうね。でも、どうしてあんなに種を持ち歩いていたの?」
透はシュループで見つけた種類を片っ端から購入して、収納魔術へ仕舞い込んでいたのだ。
勿論何の種か分からなくならないように、個別に袋に入れて作物の名前とどんな味がするのかまでメモして。
「いやぁ、なんかいつか使えるかも、嵩張らないならいいかって思って、ついつい色々持ち歩いちまうんだよなあ」
「ちゃんと育つといいのだ~」
どこかしら抜けている透は、種を買ったはいいが育て方は聞いていない。
作物は温度や水分量等、環境で育つかどうかが大きく決まるのに、それを聞いておらず、尚且つ今までのんびりと1つの場所に長期滞在するという事が無かったのだ。
このまま持ち歩いても結局使う事が無いと判断し、多めに交換に出してきた。
勿論、育て方はわからないので、無駄になってしまうかもしれないと正直に話し、それでも余剰食糧をただ腐らせてしまうより全然いいと、お互いの利害が一致した結果だ。
「ルメジャンの門番さんも言っていたけど、最近商人が全然この国を移動していないのね……」
「村の人たちも普段なら何回も来てるはずの期間を待ってても、行商人が来ないから困ってたのだ~。仕事をしろなのだ~」
行商人の人々も普段自由気ままに生きて、透やリアにちょっかいばかりかけ、危険に突っ込んでいくツキミにだけは言われたくないだろうな、と2人は思うが口を噤んだ。
「まぁ、そのおかげで余剰食糧を全部交換に出してもらえて、俺らも補給できたんだんだけどな」
「でもおっきい街まで、まだまだかかるっていうのはショックなのだ……」
住民たちは一番栄えている街まで行った事は無いが、いつかの行商人がポロリと溢していた事を覚えていた。
この村がルメジャンから来て一番最初の村となり、首都に行くまでに後3つは村を回っていかなければいけないと。
「もしかしたら、その商人が遠回りをして村を回っていただけかもしれないわよ?案外すんなりついたりして」
「その可能性は無きにしも非ずだな、ルメジャンで買った物を村である程度捌いてから行くだろうし」
そして、透とツキミはニカっと、とても気持ちの良い晴れ晴れとした笑顔を浮かべてリアを見る。
「まっ!一番の収穫は、義手を作れる職人がいる可能性が高くなったって事だな!」
「ほんとーに、よかったのだっ!」
機械の腕を作った話など聞いた事は無いが、首都では武器を作る以外にも、透達を迎えたモグラロボットを作った職人や、人間に近いロボット等を作っている職人たちもいるらしい。
その人たちならもしかしたら腕くらい作れるんじゃないか、という情報を得たのだ。
「職人たちは気難しいって話だから、なんか興味を引けるような物とかあった方がいいんだろうけど……どんな人達かもわかんねえからなあ。誰かしら作ってくれるといいんだけど」
「駄目でも仕方ないわ。私の為に、本当にありがとう」
「お礼を言うのはまだ早いのだ!腕が完成してから言うのだ!」
頬を薄っすらと染め、瞳を潤ませ嬉しそうに微笑むリアを、太陽のような笑顔を浮かべたツキミが引っ張り昇降板へと乗り込む。
テディを抱きつつ村の住民たちへ挨拶を済ませた透も昇降板へ乗ると、モグラロボットが再びどこからともなく現れて一緒に乗り、足場を動かす支度を始めた。
住民たちが嬉しそうに手を振り、ゆっくりと地上へ向けて登っていく透達一行を見送ってくれた。
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