サボテンと触手
翌朝もどんよりとした空気の中、目覚めた3人は車もどきを走らせ人のいる場所を探す。
方角も分からなくなってしまいそうな程目印になる物はなく、今日もただただ広い荒野が続いている。
時折出会うのは、水分や食料が殆ど無くても生きていけるようなサボテン型のモンスターばかり。
近づくとその身体から無数に生えている針を飛ばし、地面に埋まっていた触手を4本伸ばし透達を捉えようとしてくる。
毎回それをツキミが結界で針を防ぎ、透が具現化した火炎瓶を投げサボテンを焼き払って進んでいく。
「あのトゲトゲのモンスターって食べれるのだ?」
「あー、どうだろうな」
「食べるにしても棘を取ったり、戦闘で焼き払わないようにしたり……結構大変そうよね」
「たしかになのだー」
変わり映えのしない景色に飽き飽きとして、偶に出会うモンスターをなんとか食せないかと考えだす一行。
2日目も村には出会えなさそうな上、サボテン以外のモンスターも見掛けていない。
それならばちょっと魔力を多く使ってもいいかという結論に至り、日が暮れ始めた時に出会ったサボテンを食す為の戦いが始まった。
とりあえず車もどきの外に結界を張り、針や触手を防ぎつつどうやって攻略するかを考えていく。
「そもそもあれって、どこに心臓みたいなのがあんだ?」
「植物っぽいから……核となる部分は無いかもしれないわね」
透とリアがあーでもないこーでもないと話し合っていると、痺れを切らしたのかテディをもふもふして遊んでいたツキミが挙手をした。
「なら!手っ取り早く切り刻んでみるのだ?」
「食うんだろ?粉々にしちまったら駄目だぞ」
「まっかせるのだ~!」
ツキミ以外の2人と1匹が不安そうに顔を見合わせるが、その様子を気に留める事もなく「かったまり肉なっのっだっ~!」と歌いながらサボテンを見据え腕を振る。
するとサボテンの周囲から風の刃が現れ、サボテンを粉々にきざ…………まなかった。
「むむむっなのだ」
先ほどより多くの魔力を注ぎ込み、再び風の刃を発生させる。
だがやはり、サボテンには傷1つ付ける事ができなかった。
「ま……負けたのだ」
「完敗だなこりゃ」
「あいつすっごい硬いのだ!リアならもしかしたら切れるかもしれないのだ」
「うーん……でも近づけないと私何もできないのよ」
しょんぼりとする女子2人。
慰めるようにテディが2人の間でごろりと腹を見せ横になると、すかさずもふもふを堪能し始めた。
透が何かを思いついたかのように、サボテンに手を向け目を閉じ集中し始める。
すると、サボテンの頭上に大きく重そうなギロチンの刃が出現し、手を上から下へ振り下ろすと、刃は重力に従い速度を上げて落下しはじめた。
ズシャっという音と共にサボテンは真っ二つになり、紫色の汁を撒き散らせながら地面へと倒れる。
絶命したように思えたが、うねうねと動く触手は健在で怒り狂ったかのように一行へ向かってきた。
「触手だけなら任せてッ!」
短剣を抜き、勢いよく飛び出すリア。
腕が1本しかないハンデをものともせず、軽やかなステップで触手の攻撃を避け、切り落としていく。
細切れにされた触手からは、本体から溢れたものと同じ紫色の飛沫が噴き出し、リアを濡らしていくが、全く気にした様子を見せず、瞳をギラギラと光らせ、口元には薄っすらと笑みが浮かび上がっている。
生き生きとした様子で、向かってくる触手を切り捨て、切り刻み、蹴り落とす。
普段見ないリアの様子に、透とツキミはスッと視線を逸らし見ないふりを決め込んだ。
戦闘音が止んでから再びリアの方に目を向けると、触手は全て塊肉位の大きさに切り落とされ、地面を埋めてうねうねと蠢いていた。
触手の断面からは依然止まる事を知らないかのように、紫色の液体がどくどくと溢れ続けている。
「気持ち悪いな……」
「食欲失せるのだ……」
短剣についた液体を振り落とし颯爽と帰って来るリアに労いの言葉をかけ、本当にこの不気味なサボテンを食べるのかという問題について話し合い始めた。
3人とも食欲を無くしてしまいこのまま立ち去ろうとした所で、テディがリアを濡らしているサボテンの体液の匂いを興味深そうに「ふんふん」と嗅ぎ、ついにはぺろりと舐めとった。
「ちょっ!お腹壊しちゃうよ!?」
「ぺって、ぺっぺっぺってするのだ!」
慌てて吐かせようとする3人の様子に、小首を傾げ嬉しそうな表情を浮かべたかと思えば、逆にリアに飛びつきべろべろと体液を舐めとっていく。
「あぁぁんっ」
元々露出の多い身軽な恰好をしていたリアの腕や足や顔や腹をべろべろと舐められ、思わず色っぽい声が上がる。
「おい、変な声を出すな」
「テディの教育に悪いのだ」
そんなリアを冷たくあしらいテディを引き剥がそうとするが、テディはがっしりとリアにくっつきべろべろと舐めながら器用に2人へ威嚇する。
身体中を舌で舐められる感覚と、もっふもふが身体中を動くくすぐったさと、テディがくっついて離れたがらないという愉悦に、リアの顔はにやけ押し殺しても艶めかしい声が零れてしまう。
「なぁテディ、その紫の液体そんなに美味いのか?」
「がう!」
嬉しそうに返事をするテディを見て、それならと切り刻まれた触手の塊を1つ拾ってきてテディへと見せる。
すると、更にキラキラと目を輝かせた。
リアをぺっと捨てて透の持つ触手の塊を奪い取り、車もどきの端っこで大切そうに抱えてべろべろと舐めまわしている。
そのまま勢い余って触手本体へ齧り付くと、嬉しそうな咆哮を上げ更にガツガツと食べ始めた。
「テディがあれだけ美味そうに食ってんだから、見た目はあれでも食えるんじゃねえのか?」
テディに捨てられた悲しそうな表情の中に恍惚さが入り混じり、「はぁはぁ」と息を荒げ身を震わせているリアを、見ないように見ないようにと全力で目を逸らしながら透とツキミは地面でいまだ蠢いている触手の塊達へと集中する。
(ちょっとドキっとしちまった……。あいつは女ともふもふが好きな変態なのに……。それでも顔は可愛いし、スタイルだってそりゃいいからなぁ。でも、こんな所で下が反応しちまったら、確実に皆にドン引かれる)
透は内心焦りに焦っているのを誤魔化す為に大きく深呼吸をして心を落ち着かせ、触手から滴る紫色の液体に恐る恐る舌を這わせると……触手を床に捨てすぐに外に駆け出した。
嘔吐いている声がリアとツキミの所まで聞こえてくる。
「そんなに不味いのだ……?」
「テディちゃんはあんなに美味しそうに食べてるのにね?」
暫くして死にそうな顔をしながら戻ってきた透に味の感想を聞くと、表情は更に青白くなり今にも吐き出しそうな雰囲気を醸し出す。
「不味いってレベルじゃ……、これは口にしちゃいけねえもんだぞ……。ドブのような臭さが鼻を通り吐き気を促したかと思えば、強度の酸味と苦みが同時に襲ってくる!しかもねっとりとした舌触りでいつまでも口の中に臭いも味も残るんだ……。なんでテディがあんな美味そうに食ってるのかが理解できねえよ……」
その言葉に女子2人も嫌な表情を浮かべていると、先ほどの触手を食べ終わったテディがやってきて、落ちている触手を奪ってまた車もどきの隅に移動して食べ始めた。
咀嚼音の合間からは嬉しそうな「がうっがうっ」といった声が漏れている。
「いつも私たちと同じ食事を取ってたけど、そんなに美味しくない触手を嬉しそうに食べてる所を見ると、テディちゃんの味覚ってよくわからなくなるわね」
「でも、そこまで気に入ってるならおやつに持って行ってあげるのだ?」
テディがお腹を壊したらその時にでも捨てることとして、地面で今だに蠢いている触手を持っていく事にした。
収納魔術がどんな仕組みになっているか分からないが、紫の液が滴っているまま突っ込みたくはないと主張する透の為に、具現化したスコップを使って大きな袋に触手を詰めていく。
液体や触手を見るだけで、先ほどの味と臭いがフラッシュバックしてしまう透は使い物にならず、女子2人だけがせっせと仕事をする事となった。
透が真っ二つにしたサボテンもリアが細切れにして、ツキミが針を抜き捨て、触手とは別の袋に詰め透の収納魔術へと押し込んだ。
「サボテンの方はなんかちょっと硬そうだったね」
「あたしの風刃が通らなかったから、すっごく硬いと思うのだ……。ぐにぐにの触手と、がちがちのサボテンとの食感の変化で、テディも喜んでくれるといいなーなのだ!」
少し離れた場所で野営をし、明日こそは村か町に辿り着きたいと、明かりの見えない真っ暗な世界を見渡して3人は思った。
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