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最強の武器はこの妄想力  作者: 緒嶋まゆ
第二章
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旅立ち

 場の空気が一気に張り詰め、ゴクリと生唾を飲む音が響いた。


(そういや今回のダンジョン生活って懲罰だったっけ……。やべぇ、自由にしすぎたか……!?結局稼いでるし、危機的状況に陥る度ヒラキさんの力借りまくっちまってるし……、何より地上に帰ってくるといい宿に泊まって観光して遊びまくってる……あ、これ、罰になってないからもっと厳しい罰にするっていう事なんじゃ……)


 透の頭の中でぐるぐると悪い考えが巡り、嫌な汗がじっとりと身体を湿らす。

 懲罰が更に重くなるのであれば、せめて今後の利益の全てを没収と、地上に戻ったらギルド本部の収容所で質素な生活をする位に止まってくれればいいなと。

 檻の中で監視されながら少量の食事を摂って内職して、一生を過ごすような事だけは避けたいと祈りながらヒラキを見つめた。


「3つの帰還魔術陣の設置、下層の探索済み地域の拡大、最下層の発見、多大な売却利益と既に多くの貢献をしたと判断し減刑処置とする。一定の条件の元、自由を与える」


 3人は言われた言葉を理解するのに時間がかかり、無言の時が流れる。

 一番早く再起動をしたのはリアだった。


「一定の条件というのを教えて頂いてもよろしいでしょうか……?」


 一言頷いた後、ヒラキは胸元から折りたたまれた書類を取り出し読み上げた。


・1人あたり金貨1000枚を納める

・最低でも1年に1度は帰還魔術陣の設置を行う為にルメジャンを訪れ、地下ダンジョンの探索へと臨む

・帰還魔術陣の設置に伴うダンジョン探索の場合には、入手した物全てを販売しその売却益の9割を納める

※それ以外の目的でダンジョン探索を行った場合には、入手した物の全ては冒険者の所有物となり、ギルドオークション利用時の手数料以外は徴収しないものとする


・小熊に対して24時間の監視魔術をかけ、ギルド本部で観察する事を承諾する

・帰還魔術陣の設置の際、ルメジャンギルド本部へと訪れ小熊の検査を行い、必要に応じて職員の指示へと従い実験に協力をする


「今読み上げた内容を承諾するのであれば、減刑処置が適用される。この書類にサインをすると契約完了となりお前達の魂に刻み込まれる、書いてある内容を遂行しなければ強制的に履行する為の魔術が働くので注意をしろ」


 3人は顔を見合わせ頷き合った。

 透は予想とは裏腹に良い方向へと転がり、安堵で胸を撫で下ろした。


「勿論そのお話しありがたく受けさせて頂きたいのですが、確かギルドへ預けている金額で金貨1100枚程度だったかと……1人分にしかならないです」

「私の残っている財産合わせても600枚位です……」


 稼ぎにダンジョンに行く事は問題ではないのだが、お金を払えていない段階では減刑処置が適用されないのではないか、という部分を3人は心配していた。

 適用されなければ9割は没収されてしまい、残り1300枚を集めるのは無理ではないが、かなり時間がかかってしまう。


「お前たちの実力であれば数回下層を探索すれば払えない事もねぇだろう。暫くは帰還魔術陣を設置しには行かねぇから、この紙に書いてあるとおり入手した物は全てお前達の物だ」


 すぐにでも減刑処置が適用される事に再び安堵した。

 3人は笑顔で頷いて早速ダンジョンへと出発しようとし、小熊をギルド職員へと差し出すが透の腕に張り付いて取れない。


「俺達はダンジョンに行くんだ……危ないからここで待っててくれないか?」

「がうううううううがうがうがう」


 可愛らしい甘えたような唸り声を上げながら、イヤイヤと首を横に振ってさらに強く腕に抱き着く。

 その様子を苦笑いしつつも透以外は温かく見守るだけで、口も手も出してこない。


 説得を試みるが最終的には小熊の強情さに透の方が折れ、おんぶ紐を具現化しそこから出ない約束をしてダンジョンへと連れていく事となった。


「そういえばこの小熊名前はあるんですか?」

「いや、こちらでは付けていないよ。とても懐いているようだし是非君から付けてあげて」



 お礼を言ってギルドをあとにした3人と1匹は早速ダンジョンへと向かった。

 いつものようにサクサクと下層まで降り、めぼしい所を探索していく間、小熊は透の背中で安心したようにすやすやと眠っていた。


「可愛いわね……このもふもふ……私もおぶりたい……」

「リア、心の声が漏れ出てるのだ」


 ツキミに猫モードをしつこくせがみその身体を抱きしめているリアは、それでも飽き足らず小熊のもふもふを堪能できないかを考え続けている。

 小熊に心を奪われまくっている状況でも罠を華麗に回避してモンスターを倒す所は立派ではあるが、段々と息遣いが荒くなり小熊を見つめながら代わりに撫でくりまわされているツキミは堪ったものではない。


「そういえば名前は決めたのだ?」

「あ!私も気になるわ!」


「んー……特に思いつかないんだよな……もふもふしてるし、もふ太郎とか」

「「却下」なのだ」


 適当につけた名前は2人に食い気味に却下された。

 その後も名前の候補をあげていくが、『もふ子』やら『くま次郎』やら『ベアリーヌ』やら『がうっち』やら透のセンスの無さが炸裂し全て2人に却下されていく。


「じゃあなんだったらいいんだよッ!」

「大きな声出さないのっ!起きちゃうでしょうっ!?」


 片っ端から全て却下されていく事にイラつき始めた透が怒鳴り、それを注意するリアの声も大きくなった。


「……がぅ?」

「あーあ、2人がうるさいから起きちゃったのだー」


 結局目覚めてしまった小熊へと謝りながら、小熊に名前を決めてもらう事にする。

 3人が1つずつ順番に名前の候補をあげていき、小熊が鳴いたらその名前にするという若干雑な方法で。


「もっふる」

「リズ」

「ツァシィ」

「くまんた」

「リリィ」

「ツプア」

「テディ」「ぐぁ」


 小熊が欠伸と共に漏らした声が透の言葉へと重なった。

 2人から抗議の声が上がるが、透が小熊に「テディ、この名前でいいか?」と尋ねると、小首を傾げたあと嬉しそうに鳴き名前が決定される。

 その声を聞いた2人は小熊が納得してるなら、と残念そうに引いた。


「それにしても2人は自分の名前の頭文字を入れようとばっかりしやがって」

「そりゃあだってねぇ……」

「こぐ……テディが可愛いのだ……あたしの名前が入ったらもっと可愛いのだ!」


 2人は顔を見合わせながら「えへへ」と照れ笑いを浮かべた。




 そして月日が過ぎ数回ダンジョンへと潜っていた3人は、無事に保釈金となる3000枚を確保する事ができた。

 支払いを終えヒラキとの最後の対談が行われている。


「確かにこれで3000枚だ。国外に出る事も可能となったが、契約内容はくれぐれも忘れるんじゃねぇぞ。そして、リア。今後はどうするんだ?お前の実力なら片腕が無くとも、案内業は十分に続けれるだろう」


 ヒラキの言葉に悩みながらも、チラチラ透とツキミを見る。

 その視線に気が付いた2人はアイコンタクトで語り合い、リアへと同時に笑いかけた。


「もし、リアが望むなら俺達と一緒にどっか行くか?」

「リアなら大歓迎なのだ!」

「がうっ!」


 パッと花が咲いたような笑顔で頷き、ヒラキに再び向き合った。


「私も長瀬さん……透くんとツキミちゃんとテディちゃんと、一緒に外の世界を見に行きます!」

「そうか……、ジェイクも喜ぶだろう。あいつは自分の所為で、お前を案内業という仕事に縛り付けてしまっていたのではないか、と不安がっていたからな」


 今まで知らなかった父親の感情を知り、目を丸くして首を振って否定の言葉を上げようとしたが、ヒラキのまるで娘の成長を見るような温かい眼差しと微笑みに、思わず涙がこみ上げ緩く首を振る事しかできなかった。


 激励の言葉を貰い、ヒラキだけではなくギルド職員の人々にもお礼を伝えギルド本部をあとにした。

 この先どこに向かうかを話し合っていると、目の前に高笑いをする黒い影が現れる。


「あ、オンハルト丁度良かった。これ前回の分け前、貰わずに行っちまっただろ?」

「む、すまない」


 突然の出現に慣れたもので、驚きもせずまるで道端で見かけたかのようにオンハルトへと話しかける。

 オンハルトも出鼻を挫かれた事に対して思う事は無いのか、そのまま受け取り中身を確認する事もなく懐へと金貨を仕舞い込む。


 そして気を取り直したように再び高笑いを上げ、クルリとターンきめた。

 3人はその一連の流れをスルーして会話へと戻った。


「そういえば俺達この国を出て違う国を見に行こうと思うんだけど、オンハルトはいつまでルメジャンにいるんだ?」

「我も目的は達成したのでな、そろそろ出発をするつもりだ」


 この後は天空都市ワチエを目指し、試練の塔と呼ばれる場所を攻略しに行くと続ける。

 無事に攻略する事ができれば、今度はニーシューにある深海ダンジョンを目指すそうだ。


 面白そうだとテンションの上がるツキミに対し、リアは悲しみを纏った複雑な表情浮かべ無くなってしまった方の腕をそっと擦った。

 横目でその様子を見ていた透がツキミの頭にポンと手を置き、3人へと問いかける。


「この世界のどこかに義手、っていって伝わるか?機械かなんかで腕の代わりを作ってるような所って無いのか?」

「ふむ……、聞いた事は無いが、技術がかなり発展した国がある。そこならば色々な職人がいるだろう、その義手とやらを作り出す奴もいるかもしれん」


 嬉しそうに頷いているのがツキミの頭に乗せた手から伝わってくる。

 リアは慌てて「そんなっ……私のために……、このままでもちょっと不自由だけど大丈夫よ……」と遠慮をしているが、透とツキミに押し切られ技術大国であるモンブール共和国へと向かう事となった。


「モンブールを見終わったら俺達も深海ダンジョンへと向かおうか、そしたらタイミング的にオンハルトとまた出会えるかもしねえしな」

「賛成なのだ!」「がっうっ!」

「ありがとうっ!ついて行くわっ!」


 3人と1匹の決断を聞いて、オンハルトはフッと微笑みマントを翻し背を向ける。


「我は闇に紛れていつでも見ているぞ」


 オンハルトなりの離れていても心は一緒にいるという表現なのだろう、少し捻じ曲がった言葉を残し人込みへと消えていく。


「……ストーカーかよ、こっわ」

「神出鬼没なのだ、本当にでてきそうなのだ」

「夜道を歩く時は気を付けましょうね……」


 格好良く決めたはずのセリフは3人にドン引きを残した。

2章ルメジャン編がここで終了となります。

3章は少し時間を空けてからの執筆となると思います……。

亀更新が更に亀更新となりますが、どうぞお付き合い頂けますと幸いです。


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