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最強の武器はこの妄想力  作者: 緒嶋まゆ
第二章
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卵の中身は

「そーいやオンハルトの奴、報酬換金しないままどっか消えちまったな」

「1割とはいえ結構な金額になるのにね……」


 とりあえず今回換金した報酬を4等分に分け、次回出会った時に渡せるようにしておく。

 今回の報告をしながら回収した物を渡していると、最下層に行ったことを話しやそこで出た卵や消えなかった血のついた装備を収納から出した途端、職員の目が変わり根掘り葉掘り質問攻めにされた。


 隈が酷く頬がこけてきている状態で、瞳だけギラギラと光を帯び口角が歪に釣り上がった表情を向けられ、3人はこのまま取って食われるのではないかと恐怖した。

 外に出た今もその職員の顔が脳裏にこびりついて離れない。

 いつも帰ってきた時に対応してくれる職員がそのような状態にまで変わり果ててしまった事に、少なからず3人とも罪悪感を覚える。


「やっぱり今ギルドがあんな状態になってるのって、私達がヒラキさんを連れていってしまってるからよね……」

「最初ルメジャンに来た時は皆生き生きとしていたのだ……」


 自分達の懲罰に付き合ってくれるヒラキにも、それを支える為にボロボロになりながら働いているギルド職員の面々にも申し訳なさでいっぱいになる。

 だが、自分達からもう付き合ってもらわなくていいと告げる訳にもいかない、そもそも選択権や拒否権等は罪人である3人には最初から存在していないのだから。



 過去2回よりも長い月日がかかってから3人はギルド本部へと呼び出された。

 職員達の隈の濃さは変わらないが、ギルド本部へ帰還した時に比べると全体的に活気が溢れている。


 3人が受付へ訪れる前に職員達に捕まり、応接室へと連行された。

 今までは宿に次の出発日を連絡されるだけだったのだが、その違いに3人は首を傾げながらも言われるままにソファへと腰掛け職員を待った。


 応接室へとやってきたのはヒラキと白衣を羽織った分厚い眼鏡をした職員、そしてその手には檻に入れられた小熊だった。

 小熊は興味深そうにあたりをきょろきょろをしていたが、透と目が合うと嬉しそうに「くっくっ!」と声を上げ腕をばたばたと振った。


 その可愛さにリアがうっとりとした表情を浮かべ、心なしか手がもぞもぞと動き息が荒くなっている。


(もっもふもふ……!とってももふもふしてるわ……!ツキミちゃんのもふっとしつつも、さらふわな感触も素晴らしいけれど、あの子は完全にもふもふの塊!!!あぁ、あぁ、あぁ、触りたい、顔を埋めたい、肉球に踏まれたい、もふもふしたいいいいいい)


 隣ではぁはぁしだしたリアに、透とツキミは心なしか少しだけ距離を取る。

 心の声は聞こえてはいないけれど、リアの顔が何をしたいのかを如実に物語っている。

 半分引きつつ、半分呆れの混じった視線でリアを見ていたが、それよりもと小熊へと視線を移しじっくりと観察してからヒラキに向けて首を傾げた。


「この小熊は最下層から持って帰ってきた卵から生まれたものだ」

「熊って……卵から生まれるんだっけか……」


 檻に顔が挟まりながらも両腕を伸ばし透へと鳴き続ける小熊に、理解が追い付かないまま頓珍漢な感想を抱く。

 透の感想をスルーしたヒラキ達は研究の結果を3人へと告げていく。


「持って帰ってきて頂いた装備についていた大熊の血液が、部位欠損を修復する薬の材料となる事が判明しました。皆様には1滴でも構わないので、少しでも血が残っている物があればギルドにて買い取らせて下さい。また、この小熊ですが、この子の血液からは薬となる成分は検出されませんでした」


 そしてそのまま小熊の話へと移っていく。

 だが、小熊については調べてもわからない事ばかりで、とりあえず分かった事と言えばモンスターである事、雌雄の区別が無い事、掃除しても掃除してもいつの間にか小熊の周囲に土片が現れるという現象が起こる事くらいだった。


「土片って……」

「あぁ、こいつは最下層で俺達が戦った大熊と同じ種類の可能性が高い」


 ヒラキの言葉に3人は強く頷いた。

 小熊を抱えているギルド職員から話が続けられるが、この世界で発見されている熊型のモンスターのどれを当てはめても意図的に土片や石礫を発生させるような個体はおらず、ルメジャン地下ダンジョン特有の個体の可能性が高いという事だった。


「とりあえずいくら調べてもそれ以上の事はわからなかったので、お三方に引き合わせてみようかと思い連れてきましたが……、思った以上の反応を示してますね。何か心当たりは?」


 ギラリと職員の瞳が光りを帯び、強い視線が透を射抜いた。


「いや……俺もその子とは初対面なので…………。あ、卵を最初に手に取ったのが俺なんですけど、その時ドクンって1回動いたような……?」


 透の言葉に「ふむ」と声を漏らした職員は、小熊の頭を見ながらそのまま考え込んでしまう。

 ずっとばたばたと暴れていた小熊は疲れてきたのか、勢いが落ちてき更には寂しそうな声を上げだす。


「怪我をされる可能性もありますが……、檻を開けてみても?」

「えっ、あ、はい」


 敵意を一切感じない小熊に、そして進展の兆しを見せた小熊の様子に檻を開ける事にした。

 職員が宙に手をかざすと記録用の球体が出現し浮かびあがり、全方向から録画が開始される。


 檻を開けると急に視界が広がった事に驚いたのかきょろきょろと周囲を見渡して、嬉しそうな声を上げながら透へと一直線に飛びついた。

 なんとなく来るだろうなと思っていた透は、そのもふもふした身体を難なくキャッチする。


「がうっくっ!」


 嬉しそうにすりすりと透に頬擦りする小熊と透を見比べて、ギリギリと歯を食いしばる音が僅かに聞こえるが意識して聞こえないように全員が振る舞う。


「初対面とは思えない程懐いていますね。指示に従うか確認していきたいので、私の指示通り小熊へと伝えてみてください」


 念のため小熊に聞こえないように、職員はこの後の指示を全て透へと耳打ちする。


 透が壁を指さしゆっくり指示を告げると、小熊は一言声を上げ膝から飛び降り壁まで歩き、大人しく戻ってきた。

 その後土片を出させ、的を出しそこに土片を当てれるか等実験を続けていく。


 人間の言葉を完全に理解し従順な態度を見せる小熊に誰もが驚きを隠せない。

 透以外が命令をすると、従っていいのか許可を取るかのように透の方を向き小首を傾げた。

 透が頷けばその通りに動き、透が首を横に振れば命令に従わなかった。


 そして全身から殺気を醸し出したヒラキが立ち上がり、巨大な斧を手に取りその刀身に炎を纏わせた。

 そして透へと向かって一気に振り下ろす。


「があああああああああああッッ!!!」


 その瞬間、小熊が叫びながらヒラキと透の間へ入り土片をヒラキに向けて放つ。

 全てヒラキへと命中したが、その程度の威力ではヒラキは止められない。

 僅かに軌道をずらされた斧が透の首の横へと突き刺さり、すぐに引き抜きもう一度上段に構え振り下ろされた。


 土片じゃ敵わないと悟った小熊はヒラキの腕に向かって咬みつく。

 幼くても生えそろった牙がヒラキの腕に刺さった。

 そのまま斧を降ろし椅子に座ると、殺気を消し透へと鋭い視線を向ける。


「ストップ!ストップ!大丈夫だから、ほら、こっちに帰っておいで」


 透の言葉が届いたのか小熊はヒラキを警戒しながらも透の元へと戻った。

 小熊が完全に理解するか疑問に思いつつも、今のも実験の一環で本当に殺されるわけじゃないと説明をしている。

 その間に素早く止血をし治癒魔術を腕にかけたヒラキは、無言のままソファの背もたれへ寄りかかった。


「マスター大変な役目を申し訳ございません。あの少年は小熊に親とでも認識されているんですかね、この様子なら連れていって貰っても問題無いでしょう。条件としては以前提示した形であれば解析班からは問題ありません」


 職員の言葉にヒラキが短く一言だけ返す。


 その間に小熊の説得が終わったのか、小熊からヒラキに対する警戒は無くなっていた。

 代わりに大粒の涙をボロボロと溢し、甘えたような声を上げながら透の周りをわたわたとしている。

 まるで心配したんだとでも言うように。


 その様子を黙って暫く眺めいたヒラキが、長い溜息を吐き口を開いた。


「今後のお前たちの処遇が決まった」

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