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最強の武器はこの妄想力  作者: 緒嶋まゆ
第二章
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戻り、懇願される

「なんとか戻ってこれたな……」

「しんどかったのだぁー、またこのまま最下層に飛ばされるってなると今度は死んじゃうかもしれないのだ……」


 全員が安堵の為に少し息を吐き、そのまま壁際へと寄って休憩を取り始める。

 ツキミがリアを乗せたまま香箱座りをして目を瞑った。


 手が体の下に入りきっていないちょっと下手くそな香箱座りを見て、透は先ほどの卵を取り出し腕と胸の間にすぽっとはめる。

 ツキミが片目を開け視線で「何をするのだ」と訴えるが、へらっと笑った透は悪びれる様子も無く「なんか卵って温めた方が良さそうじゃね?」と言い放ち、そのままツキミへと寄りかかって目を瞑った。

 文句を言ってやりたくなるが透が聞く耳を持たない事はわかっている、それよりも少しでも休息を取る為に溜息を吐きながらも再び目を瞑った。


 リアが上で「重いよねっ……」と呟きながら降りようとわたわたと動いているのを、二股に分かれた尻尾で挟みそのまま乗っているように促す。


 急に体を包むようなもふっとした感触に思わず「はふぅ」と恍惚とした表情と溜息を溢してしまい、透から怪訝そうな眼差しを受け再びわたわたと慌てだす。

 そして恥ずかしい所を見られてしまった羞恥と動揺を隠そうと動くと、元々薄着なリアの身体に直接押し当てられているもふもふが擦れ、再び恍惚とした表情を浮かべる事となった。

 徐々に「はぁはぁ」と息を荒げていくリアに、誰もが見なかったフリ聞かなかったフリをする。


 暫くの仮眠と食事を取って休憩をした一行は、再び帰還魔術陣を設置できる場所を選定する為に探索へと出発した。

 リアを乗せてるツキミは今までのようにスリルとリスクを求めず、大人しく骸骨の後ろを歩いている事に口には出さないが誰もが安堵をしていた。


 先ほどの最下層へと続く魔術陣からそう遠く無い行き止まりにて帰還魔術陣を設置し、地上へと戻る事となった。



 いつものようにギルド本部へと飛ばされると、一息つく間もなくギルド職員が飛んできた。

 普段どこか余裕を持った表情を浮かべていたサブマスターの姿は見えず、現れたギルド職員の面々は出発した時に比べて全員目の下の隈が濃くなっており、瞳は濁りどことなく生気が無くなっている。


「大丈夫かしら……」

「超絶ブラック企業だな……」


 3人は治癒術師の治療を受け怪我を治しながら、ギルド職員達の様子を見て思わず感想が零れる。

 オンハルトだけは元気が溢れる様子で、ギルド本部に到着した途端治療も断り高笑いしながら颯爽と消えていった事に最初は全員が驚いていたが、すぐに考える事も面倒になり思考を放棄していつもの流れに身を任せている。


「ぶらっくきぎょーってなんなのだ?」

「あー……休みを全く取れなくて、寝る暇も無い上に給料は安くて、過労で倒れるまで身体を犠牲にして働かせられるような職場って事だ」


 透のざっくりとした説明に治癒術師が苦笑いを浮かべただけで否定の声を上げない事に、3人はブラック企業というのが現在のギルド本部の状況に当てはまっているのだと悟った。

 ツキミとリアは納得したように頷き、心配そうな視線をギルドマスターが連れ去られた扉の方へと向け、心の中でエールを送った。


 部屋に戻ったヒラキの机には奥が見えない程に書類が乗せられ、崩れていないのが不思議な程になっている。

 重要な事柄は全てギルドマスターの承認が必要となり、ヒラキがダンジョンに潜る時間が長くなればなるほど仕事が溜まっていくのは仕方の無い事だった。


 勿論最初にヒラキが同行すると決まった時から覚悟をし、ヒラキ無しでも運営に支障が無いように準備を整え、一時的に戻ってくる時でも優先順位の高い物から手を付けれるように仕分けをして積まれていた。

 だが、今回ヒラキを送り出した後にサブマスターが倒れ、各支部からギルドマスターを派遣して貰いなんとかギルドとしての機能を回す事はできたが、各方面から仕事の遅延やミスに伴う苦情が数多く入り、職員が次々と過労で倒れ誰もがヒラキの帰還をまだかまだかと待ち望んでいた。


 書類に目を通しペンを走らせながら軽く現状を聞いたヒラキは顔を顰めつつ、会議の為に上層部を集めるよう指示をする。

 サブマスターを除きギルド本部の幹部達と、応援に来ていた各支部のギルドマスターが集まりヒラキの机の前に置かれているソファへと腰を下ろした。

 誰もが隈を作りフラフラと今にも倒れてしまいそうな様子だ。


 書類の壁に阻まれヒラキの姿を目に映す事は叶わないが、そのまま会議が始められた。

 各々からの詳しい報告がされていく。誰もが最終的には、もうダンジョンに行かずに通常業務に戻って欲しいと言いかけてはぐっと堪えた。


「言いたい事は分かった。だが、俺がダンジョンへ潜るのはあの3人の懲罰内容を遂行するにあたって、他の職員では力不足だからだ。後ほど3人からの報告書が来ると思うが、今回は最下層と思われる場所にまで足を進めた、無駄死にさせる為に職員を派遣する事はできねぇ」


 ヒラキの最下層にまで踏み入れたという言葉に職員達は疲労を忘れザワりと沸き立った。

 最下層について詳しい事を調べる為の調査隊の派遣や、冒険者に知らせる為の注意事項の作成等をする為に各々が段取りを組み始める。


 そこに相変わらずペンを動かしているヒラキが飽きれたように口を開いた。


「脱線しているぞ。報告書が来たら確認し配布してやる、それまで最下層の事は忘れておけ」


 皆が「失礼致しました」と声を揃え、再び当初の話が繰り返される。

 経理の担当が数十年分の売却益を既にこの2回の探索であげていると告げれば、珍しい魔石や装備が定期的に出るからと商人の往来が増え街が潤い活気づいたと東支部のギルドマスターが続ける。

 それにつられるようにして国外から冒険者が多く訪れるようになり、そのままダンジョン探索へと乗り出し一般の買取等も少し前に比べ4割ほど増えたとほくほくとした顔をして経理が再び告げた。


「今回の持ち帰って頂いた品物の売却益、更には既に帰還魔術陣を3つ、下層のマッピングも大幅に進んだ事を鑑みても、かなりの利益と貢献を十分にしたと私共は考えております」

「ですので、異例とはなりますが……、減刑処置を施しても良いのではないかと……」


 ヒラキに怒られる覚悟を持ちながら、おずおずと減刑処置を求める幹部達。

 ヒラキが抜けた穴が大きすぎて仕事が回らないから、もうダンジョンには行かないで欲しいという本心を誰もが持ち合わせていたが、流石に口にする事は無かった。


 だが、そんな皆の心の声すら言わなくても現状報告と今回の提案を聞けば伝わってしまう。

 大きなため息を1つ吐いて唸るようにして言葉を絞り出す。


「……要検討だ。そろそろあいつらからの報告書が出来上がる頃だろう、ダンジョンモンスターの血液が残された装備と何かの卵が最下層と思わしき場所から出た。解析班に回してできるだけ早く何かを突き止めろ」


 全員が声を合わせて返事をし部屋から去っていった。

 1人残されたヒラキは黙々と書類の山と格闘しながら、提案された内容について頭を悩ませるのだった。

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