オンハルトと 4
「──っっ」
微かな呻き声と共にドサっという音が、何も無くなった空間に響いた。
3人が音のした方へ視線を向けると、リアが落ちている。
「だ、大丈夫なのだっ!?」
急いでリアの元に駆け寄ると脚は腫れ上がり、本来曲がってはいけない方向へと向いていた。
あまりの惨状にツキミの顔が青くなる。
そして同じ様に駆け付けた透の姿を見て、更に血の気は引き真っ白になった。
「あ、俺のは大熊の血だから!そんな大した怪我もしてないし気にすんなって。それよりもリアが……っっそれと!オンハルト!?あいつも無事か!?」
ヒラキとツキミが治癒魔術をリアへとかけている間に、壁際に倒れたままのオンハルトの元へ透が様子を見に行く。
その間にも歯を食いしばって痛みをリアは頑張って耐えていたが、あらぬ方向を向いている足を元の位置に戻した際の激痛に思わず絶叫が零れ透の肌までもを震わせた。
心配そうに1度振り返るが、治癒魔術を碌に使えない透が戻った所に周囲でオロオロするしかできない。
それよりも今は重症そうなオンハルトの現状を確認する方が先決だと自分に言い聞かせ足を速めた。
「オンハルトッ!大丈夫か!?」
オンハルトの肩を軽く揺すると微かな声が漏れ出たかと思いきや、大きく咳き込み再び血を吐き出した。
透が慌てて3人の元へ戻る為におぶろうと手を伸ばすと、オンハルトが薄っすらと目を開けまるで制止をするように手を上げた事に驚き「大丈夫か?」ともう一度聞く。
「──が……命じる……っっ、我のッ尊き血を、媒介と、し……漆ッ黒血脈……治癒術、式、てんか……い」
オンハルトが荒い息のまま詠唱をすると、オンハルトが横たわっている場所の真下の地面から骨が生え急速にベッドを作り上げた。
そして、頭から黒いレースで作られたベールを被った骸骨が2人現れ透に優雅にお辞儀をしたかと思いきや、そのままオンハルトと骸骨を包み込むようにして地面から骨のドームが組み上がり覆い隠していく。
1人取り残された透はどうする事もできないまま、とりあえずドームの前に座り様子を見る事にした。
その間にもリアの治療が終わったのか、猫モードで巨大化したツキミの背に乗せられ透の方へとやってきている。
「もう大丈夫なのか!?」
「2人のおかげでなんとかなりそうよ。歩けないから今は大丈夫とは言えないけど……」
困ったように眉を下げながら苦笑いを浮かべるリアに、大事には至らなかったのかと胸を撫で下ろした。
「それでも、良かった……。リアが身体張って最後の石の軌道を逸らしてくんなきゃ、大熊を倒せてたかもわかんねーし……、むしろ俺もヒラキさんも、死んでたかもしんねーから。ありがとな」
「そんなっ、むしろそれまで沢山皆には助けてもらってたし……結構足手まといになってたし……、結局2人に治癒してもらって、歩けないからってツキミちゃんに私の足の代わりになってもらっちゃって……!感謝するのは私の方よ」
恐縮して縮こまってしまったリアの頭に大きくてごつごつとした手が乗せられた。
その手の方を見ると今まで見せた獰猛な笑みとは全く違う、柔らかくて温かな微笑みを浮かべたヒラキがいた。
ヒラキの見た事の無い表情に驚愕で目を丸くしていた一同だが、リアを娘のように思い労り感謝を伝え珍しい程に饒舌なヒラキを言葉を聞いてリアの目が潤みだす。
大粒の涙がそのクリっとした瞳から零れ落ちそうになったが、視界の端に入っていた骨のドームが音を立てて崩れ落ちた事で涙は引っ込んでしまった。
土埃を上げてドームが崩れ落ちていく。
その中には2人の骸骨がオンハルトへと左右から跪き、中央にはスタイリッシュに決めポーズをしたオンハルトがいた。
ドームの崩壊と土埃が完全に収まり、オンハルト達の姿がはっきりと視認できるようになっても皆唖然としすぐに口を開く事はできなかった。
その中でオンハルトだけが「フハハハハハハハ」と笑い声を上げクルリとターンをし、穴が開き自分の血が所々ついたままのマントをバサっとはためかせる。
そして、それを察知した骸骨達が顔を上げ、コツコツコツと拍手を送り始めた。
「……もう大丈夫なのか?」
「死の淵こそ我の立つべき場所、むしろ活力が漲ってくるわ」
呆れながらも先ほどまでとは打って変わってかなり元気そうなオンハルトに透が声を掛けるが、オンハルトの言葉に4人の目がじっとりと湿り気を帯びた。
「それにしてもお前も随分血を流したのだな。治療は済んでいるのか?」
「え?あぁ、これ?これは大熊の返り血で俺のじゃねーよ」
透の返事にツキミと透以外が合わせたように首を傾げた。
「どうして返り血が残っているんだ?」
「……え?」
オンハルトの問いに意味が分からないと首を傾げ返す。
呆れたように吐かれた溜息が3つ重なった。
「此処は地上ではないから、基本的にダンジョン内のモンスターに由来する物は倒された時にダンジョンへと吸収されるわ。例えば、モンスターの身体や魔術として放った物等ね。そして勿論その中にはモンスターの身体の一部や体液も含まれているの。だから今長瀬さんの身体に大熊の血が残っているのはおかしい事なのよ」
「あぁ、その通りだ。モンスターには例外的な物も稀に存在してるがな。血が付いた装備は全てそのまま保管しておけ、地上に戻り次第ギルドの解析班に確認させる」
ヒラキに指示され、わかったようなわかっていないような顔をしたまま血が付いている物を脱ぎ収納魔術へとしまっていった。
「さて、いつまでもここに居てもしょうがねぇ。さっさと調査して戻るぞ」
ヒラキの言葉にそれぞれが賛同の声を上げた。
広い空間を見渡しても魔術陣も無ければ、最初転移させられた部屋に戻る場所以外の通路も無ければ、この部屋の主を思わしきモンスターを倒したにも関わらず普段は現れるような宝箱も無い。
念のため壁際を沿いながら移動していくが、結局何も見つからなかった。
「おいーオンハルトー。最下層の主みたいなの倒したら下層に戻れる魔術陣が沸くんじゃなかったのかー?しかもこんなに死にそうになって倒したのにお宝も無しかよ……」
「我に文句を言うでない。それにまだ調べてない所があるだろう?」
オンハルトは横方向の回転だけでは飽きてきたのかバク宙を決めながら、最初転移された部屋を指さす。
信用しないまま他に調べる所が無く、仕方なくオンハルトの言う通り先ほどの部屋を調べに戻ると、そこには今まで見た中で1番大きな宝箱が鎮座しており、その前には煌々と光り輝く魔術陣が出現していた。
透がこっそりオンハルトを振り返ると、言った通りだろうと言わんばかりのドヤ顔で透の事を見つめていた。
悔しそうに表情を歪めながら宝箱へと向き直る。
「これが罠ってことは……流石にねえよな?」
「注意をするに越したことは無いねぇ。いつでも戦える状態にしておけ」
ヒラキの忠告を受けとりあえずルドニールを具現化し握りしめたまま、宝箱に向かってゆっくりと進みだした。
ツキミもリアに当たらないように気を使いながらもバチバチと雷撃の準備をし、ヒラキも斧を構えるている。
オンハルトは顔に手を当てたまま仰け反り片足を上げたポーズで静止していた。
透が宝箱へと触れるとゆっくりと宝箱はその口を開け、中から現れたのは腕の中にすっぽりと納まりそうな大きさの1つの卵だった。
「…………え?」
今回はどんな宝石や魔石が出てくるのか、はたまたどんな伝説級の装備やアイテムが出てくるのかと期待していた一同は少し拍子抜けしてしまう。
透が恐る恐る手に取ると、ドクンッと1度大きな鼓動を叩きそのまま大人しくなった。
「誰かこれが何の卵か分かる人は……?」
誰もが首を横に振り、それを予想していたかのように「ですよね……」と呟き、とりあえず割るわけにもいかないと収納魔術へと入れた。
全員で臨戦態勢のまま光り輝く魔術陣に乗ると、先ほど最下層へ飛ばされた転移陣の場所へと戻ってきた。
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