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最強の武器はこの妄想力  作者: 緒嶋まゆ
第二章
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オンハルトと 3

 その巨体を振って登りくる者を振り落とし、踏み潰され骸骨達の数は徐々に減っていく。


 ヒラキが真っ先に飛び出し、その斧に脈打つように炎を纏わせる。

 薄暗い中、力強く燃え盛り煌々と輝く炎に大熊の視線が捕らわれ狙いを定めた。


 口角を上げ獰猛な笑みを浮かべたヒラキはその斧を高く放り投げた。

 つられて炎を追う大熊を確認しつつ、背後から風を起こし大熊に向けて更に加速する。


「王の住まいし鉄壁の骨要塞(ボーンフォートレス)


 オンハルトの決め台詞と共に大熊の足元に骨で出来た要塞が組み上がっていく、大熊の足を飲み込みその場から動けなくするように。

 落ちて行く斧に向けて石礫を放ちながら、大熊は異変に気が付き足を引き抜こうと暴れるが、既にがっしりと組み上がった要塞は内側からの衝撃にも耐えきった。


 時折ミシッという音と共に若干のひび割れが起こるが、更にその上から骨が覆い被さり大熊の足を埋めていく。

 苛立ちを募らせ抵抗する大熊の咆哮が空気をビリビリと振動させた。


 リアが飛び出し骨に覆われた大熊の脚を登っていく。反対の脚からはヒラキも同様に。

 硬い体毛の上を撫でるように上へ上へと駆けて行くのが、こそばゆいのかまるで蚊を潰すかのように大熊は己の身体を叩くが、不安定な足場でも軽やかな回避をしヒラキとリアはそのまま大熊の顔を目指す。


 こっそりと壁を伝い大熊の背後へと回り、巨大な猫モードのツキミの背に乗った透が宙を駆ける、その手に自分の身長と同じだけの長さをした大剣を具現化して。

 大熊の腕の付け根に斬りつける直前に、キイィィィという不快な音が周囲に響き渡った。


 大熊へと大剣が触れるのと同時に、耐えられなくなったのか大剣が自壊していく。

 それでもなんとか魔力を注ぎ込み補強と修復をして片腕を切り落とした。


「ガァァアッァァアアアアアァッァァッッッ!!!」


 今までとは違う強烈な痛みに大熊が叫びを上げ、更に暴れる力が増幅した。

 ついには絶えず修復がされていたオンハルトの要塞を片足が破り突き抜け、その勢いをそのままに目の前で魔力を注ぎ続けているオンハルトを蹴り飛ばす。


「──ッッッがッハ」


 瞬間的に背中から骨の層を幾重も出現させ壁にぶつかる衝撃を和らげはしたが、それでも勢いを殺しきる事はできず口から血を吐き出してしまう。


「オンハルトッッ!!」


 透の叫びに反応する事も出来ず、そのまま意識を手放してしまった。

 修復していた魔力の供給が止まり、反対の足を覆っていた骨要塞も大熊に破られてしまう。


 そして大熊は残っている方の手で切り落とされた肩を抑えながら悶え暴れまくり、周囲には再び大小様々な石礫が生成され四方八方に解き放たれた。


 ツキミは大熊の背後にピタリとくっつき石礫を避けつつ、オンハルトを守る為に幾重にも結界を重ね、リアは大熊の身体に愛剣を突き立てなんとか振り落とされないように堪える。

 その中でヒラキだけが魔術で起こした強烈な上昇気流に乗り、大熊の鼻先へと躍り出た。


「これは俺の得意分野ではねぇんだがなッッ!」


 拳に猛炎を纏い鼻を踏みつけ駆けて行く、驚きに見開かれた瞳へと向かって。

 爆風が背後から押しさらに加速したヒラキの拳が右眼へと叩き込まれ、猛炎がその瞳を焼き尽くし僅かに開いた穴から爆風が入り込み内側からズタズタに切り裂いた。


 大熊の悲鳴とも言える絶叫が空間を振動させ満たした。

 止まることなく石礫が生成されては、狙いも無く四方八方へ殺意を撒き散らしていく。


 残された左眼が憎き人間を捉えようとギョロリギョロリと動くが、その瞳に映したのは先ほどの半獣のような雄ではなく、今の大熊と同じく片腕を無くしたひ弱そうな少女だった。


 先程と同じように急に己の鼻先へと現れた人間に、今度こそは殺してやるとばかりに大きな口を開きリアへと食らいつく。


 ガキンッ


 歯と歯がぶつかる音がする頃には、薄っすらと緑色に発光するリアが大熊の鼻先に乗っていた。

 その直前には確かに舌の上に何かが触れる感触があったというのに。


 限界まで身体強化を施したリアは1秒にも満たない僅かな時間で、大熊の舌を蹴り歯を掴み方向転換をして鼻先へと着地をしていた。


 大熊に驚く為の時間すら与える事なく、再度全速力で残った左眼に向けて駆け出す。

 まるで体当たりをするかの如く剣を突き立て強膜を破り、勢いをそのまま剣に回し蹴りを叩きこむと水晶体が割れた。


 もう何度目か分からない絶叫が空間を満たした。

 大熊は残った腕で顔面を抑え掻きむしり、どこかにいる人間達を殺そうと全身を使って暴れ石礫を量産していく。


「そろそろっ……オンハルトの結界が限界そうなのだ……っ」


 石礫を止めた後ろから更に次の石礫が飛来し、ゆっくりと結界を1層ずつ減らしオンハルトにじりじりと近付いていっている。

 このまま石礫の量が増えていくと圧死させてしまうだろう。


 ヒラキとリアが大熊からついに振り落とされた。

 すぐに石礫が生成されるラインの内側へと入り込むが、そこは暴れる巨体の真下となりいつ踏みつぶされてもおかしくはない。


「ツキミ、行けるか?」

「……っやるしかないのだ」


 透は再び自分の身長程ある大剣を具現化し、ツキミは振り回される腕を避けつつ大熊の正面へ向かって宙を蹴った。

 心臓を止め、終止符を打つ為に。


 誰に向けたわけでも何処を潰そうとしたわけでも無い、ただ痛みと殺意に自我を失った大熊の1本になった腕が宙を掻く。

 出鱈目に我武者羅に振るわれたその腕が幾度もツキミを叩き落としそうになるが、ギリギリの所で回避をしていく。


 後ろに下がれば石礫の餌食となり、近付けばその太い腕が襲ってくる。

 更には学習したのか成長したのか、石礫を生成する位置が段々と内側になっていき、逃げ場が更に狭くなってきた。


 遂には足元に向かっても石礫が生成されるようになり、ヒラキとリアは大熊の脚と石礫から必死に逃げる事となった。

 石礫の影で休憩をしようにも、痛みなど感じないかのようにそれすら踏み潰していく。


「眼を潰したってのにッ……勘か?」


 透の発した言葉にツキミは返事をする余裕も無くなっていた。

 オンハルトを守る為に絶えず魔力を遠隔で注ぎ強度を保っている結界に、気を抜く事すら許されない僅かな石礫と腕の隙間を掻い潜り、時には大熊さえも足場にしてじりじりと進む。

 心臓の前まで透を送り届けるという使命を果たす為に。


 極限の集中状態がツキミを纏う1秒を引き延ばす。

 コンマ以下の世界で軌道を読み、足場を作り、移動をしていく。

 雷のように、音を置いて光の速さとなって。


「行くのだッッ!」


 腕からの跳躍に合わせてツキミが叫び、軽く電流を透に流し手を離させ大熊のほうへ放り投げた。

 透は驚きに声を出すよりも先に大剣を起動し、再びキイィィィという音が鳴り始めた瞬間、大熊の胸元に刺さった。


 絶妙なタイミングでツキミが大熊の胸元に結界で作った足場を作り、透は落下を免れた。

 まるでバターを斬るかの如くするりと胸に突き刺した大剣を回す、確実にその命を奪う為に。


 その動きに合わせて大熊の胸元から血が噴き出し、透を真っ赤に染め上げる。

 更に憎悪に染まった顔で残りの腕と石礫を使って、せめて相打ちにと大熊が動いた。


 叩き潰そうと振り下ろされた巨大な手が当たる瞬間、風が透を包んだ。

 いつの間にか斧を手に爆風に乗って胸元まで上がってきていたヒラキがその行く手を阻む。

 爆炎と暴風が大熊の腕を包み威力を殺し、炎を纏った斧でしっかりと受け止め、追い風を作り押し込もうとしてくる手と拮抗している。


 苛立たしく咆哮を上げ細かい石礫が大熊の顔の前に生成され、腕と胸の隙間にいる2人を押し流そうと急落下してきた。

 ツキミの分厚い多重結界が2人の頭上へと現れたが、大熊の勢いに負け何枚もの結界が砕け散った。

 それでもなんとか2人を守り切る。


「ッしぶとすぎる」


 感覚で上からの攻撃が効いてない事がわかったのか、悔しそうな唸り声を上げつつ今度は2人の真下に大きな石礫が生成された。


「んにゃっ!?これ以上は無理なのだぁぁッッ」


 上からの細かい石礫の勢いは減らないまま、今もツキミの結界に当たりバキバキと音を立てヒビを入れ少しずつ砕き2人へと近付いている。

 魔力と集中力を他に割く余裕は無い。


 先が尖った大きい石礫が発射され2人の死を覚悟した瞬間、緑色の尾が引いた。

 石礫の側面に全身を発光させたリアが回し蹴りを当て、破壊は出来ずとも軌道を逸らす事に成功する。

 人間の身体から生まれたとは思えないバキィッという音と共に。


 石礫が大熊の腹を貫く。

 ついにその巨体は力尽き、空間を埋め尽くさんばかりに放たれた石礫たちは消滅を始めた。

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