2個目の帰還魔術陣 3
「まさかマグマの下がこんな空間になってるなんてわかんなかったなぁ……」
「流石ヒラキさんですねっ!どうして分かったんですか?」
「確証は無かったんだがな、宝箱が落ちた時に少し見えたんだ。どうやらあのマグマの層は割りと薄いらしい」
頭上でうねりを上げるマグマを見ながら、3人は「なるほど」と頷き合う。
そして周囲を探索するが、落ちた小部屋は頭上の水とマグマの層以外は全て土壁が立ちはだかっており、出口はどこにも見当たらなかった。
何かギミックが無いかと小さな穴や壁の出っ張り等を探したり、壊せるような壁ではないかと魔力弾を撃ち込んでみたりしたのだが、何も変化を見せなかった。
「折角灼熱地獄を抜けたと思ったのに、今度は餓死かよ……」
項垂れる透に何か声を掛けようとするリアだったが、部屋から出る方法は思いつかず結局口を噤んでしまった。
その時、4人を強い光が包み込む。
光が落ち着きゆっくりと目を開けると、そこは先ほどまでの小部屋ではなくダンジョンの通路へと変貌していた。
曲がり角の先を覗くと、つい先ほど命を奪おうとしていたスパイクだらけの通路があり、先ほどと同じように奥には宝箱が置いてある。
「戻ってきた……のか?」
「何が起こったのかしら……」
状況を把握していない透とリアが呆然としている中、ツキミが「でへへへなのだ」とわざとらしい笑い声をあげる。
訝しげな視線を受けたツキミが、えっへんと胸を張り説明を始めた。
「壁にはなーんも無かったのだ。だから仕方ないし、宝箱の中身は何かなーと思って触ったら、急にぴかーってなってここに飛ばされたのだ!」
言い終わると照れくさそうに頭をポリポリしながら視線を外している。
3人は心の中で「またお前か」と声を揃えて突っ込んでいたが、そのツキミの行動で元の場所に戻れたのだ、口に出して言う事は無かった。
ただ、ツキミがそこで宝箱に触れていなくても、今後どうするかを話し合いながら全員で宝箱を確認して脱出していたであろうが。
もしあの宝箱が転移のキーではなく、モンスターを大量に呼び寄せる罠だったら、水の層が消えてマグマが落ちてきてしまうギミックだったら、悪い事を考えれば考えるほどいくらでも可能性はある。
その時全員が宝箱を触るぞという認識があるのと、完全に油断しているのでは生死を分けるのだが……、かなりの確率で迂闊な行動をしてしまうのを、いくらツキミに注意しても全く改善されない事がこのダンジョン生活で3人には身に染みて分かっている。
今後はツキミから目を離さないようにして、今よりも気を張っていなければならない事を再度心に決めた3人だった。
「もどろうなのだー」
そんな3人の心の内を知ってか知らずか、ツキミはスパイクの通路とは反対の方へと既に歩いており、のんびりとした声で3人を急かすのだった。
それからまた数日間下層を彷徨いながらツキミが罠に嵌ったり、そんなツキミに巻き込まれないように退く危機察知能力が異様に高まったりしつつ、なんとか2個目の帰還魔術陣を敷く場所を見つけた。
前回と同じように魔術陣を描き地上へと戻る。
またサブマスターが駆けつけヒラキを拉致していき、3人は別室にて今回の宝の納品と前回の配当金の受け取りを行い、束の間の休暇を楽しむために街へと出発した。
前回と違うのはギルド本部へ戻ってきた瞬間、ヒラキが指を鳴らし3人の片腕に手枷を付けた事くらいだろう。
貰ったばかりの金で少し贅沢な食事を取り、体を休める為に良い宿を押さえる。
宿の1階にある少しお洒落な酒場でのんびりと過ごす3人のテーブルに影が差した。
「こんな所で会うなど奇遇だな」
フッと笑うと少し控えめにバサッとマントをたなびかせながら、手に持ったワイングラスを3人のグラスへ当て勝手に乾杯していく。
「オンハルトか、お前もこんな店に来るんだな」
オンハルトは勝手に透の隣の席へ腰掛け、香りを楽しむようにグラスを回し口をつけゆっくりと味わっている。
完全にスルーされた形となった透だが、やれやれといった様子でため息を吐き自分もグラスを傾けた。
「あぁ、我が滞在しているのがこの宿屋だからな」
「偶然なのだぁ~、あたし達もここに泊まるのだ!」
少しお酒を楽しむと思いだしたかのように透への返答をするオンハルト。
その返事に3人は少し驚きながらも、オンハルトの纏っているマントや衣類が上質な布を使っている事に気が付き納得をした。
「そーいやダンジョンで会った時も家の試験が云々言ってたな。結構坊ちゃんなんだな」
「ッフ。凡夫とは分かちえない苦労が我には多大にあるのだよ」
オンハルトの言葉に透が言い返しぎゃいぎゃいと口論が始まる。
店の主人のわざとらしい咳払いが響き、リアが宥め2人が周囲へぺこぺこと謝罪をした。
「そういえばお前たちは揃いも揃って珍しい手枷を付けているのだな。修行の一環か何かか?」
「あー、これな……」
オンハルトとダンジョン内で分かれてからの出来事を大雑把に説明していく。
視線でリアの許可も取ってジェイク殺害事件の事、その後商人に復讐しに行った事、そこで囚人として捕まって現在懲罰を受けている最中だという事、その懲罰の内容と今は1度地上に戻ってきたタイミングでまた数日後からダンジョンに籠るという事等。
酒の肴として面白そうに話を聞いていたオンハルトだったが、下層で出会った様々な罠とツキミの奇行の部分で堪えられなくなったようで笑い声を上げた。
「面白い事になっているのだな。そうだ、丁度暇を持て余していてな。次回のダンジョン攻略には我の力も貸してやろう」
「そっ、そんなっ!ダンジョンは遊びじゃないのよ!?それに見つけた宝は全て売却になって1割分の金額しか手元に残らないのに……そんな条件で付いてくるだなんて美味しくない上に危険すぎるわ」
「んー、多分オンハルトなら大丈夫だと思うのだ」
「そうだなー、むしろきっとすんげぇ楽になって、こっちが暇になっちまうんじゃねえかなぁ」
オンハルトの提案に危険だと騒ぐリアとは対照的に、のんびりとした様子で歓迎する姿勢を見せるツキミと透。
そんな2人の声にリアは更に反発をする。
「何をそんな呑気な事をっ!?関係ない人を巻き込むなんてできないわ!」
「我のダンジョンの進み方を見ただろう?前方の罠は闇の眷属達が察知し全て防いでくれよう、罠が無くなった場所から我々は進めばよい。それでも不安であれば鉄壁の要塞で守ろうぞ」
それでも巻き込めないと意固地になって断るが、飄々とした様子の3人に何を言っても聞かないと諦めて苦渋の決断を下す。
「じゃあ、とりあえずオンハルトさんも一緒に行く準備だけ進めて、当日ヒラキさんに決めて貰いましょう」
「我はそれでも構わぬ」
「うっし、じゃあ何か暇潰しになりそうな玩具があれば買っていくか」
「賛成なのだー!」
うっきうきした様子の3人にリアのため息は止まらない。
心底疲れた様子で「遠足じゃないんだから……」と呟いたが、誰の耳に入る事も無かった。
僅かな休暇を思いっきり楽しんだ4人は、ダンジョンの目の前でヒラキと合流していた。
決めポーズをしているオンハルトへ、誰だこいつという視線が突き刺さるが、気にした様子も無くクルっとターンしては腕の包帯やマントをたなびかせている。
リアがこっそりとヒラキへ休暇中の出来事を報告し、オンハルトが今回のダンジョン攻略に付いてくると伝えた。
「ふむ……。好きにさせたらいいんじゃねぇか」
「そんなッ!?」
ギルドマスターという立場の元、必ず断ってくれるのではないかという期待を多いにしていた分、ヒラキの言葉に驚愕を隠し切れない様子のリア。
何故許可を下すのかと問い詰めると、ニヤリと獰猛な笑みを浮かべた。
「だが、守るとは言ってねぇ。こういう輩はここで止めたとしても勝手に付いてきやがるからな」
「それはっ……そうかもしれないですけど……」
ヒラキはオンハルトの元へと行き、観察するように上から下までじっくりと眺める。
そんな不躾な視線に気を悪くするどころか、よりキレ良くターンをし何度もポーズを決めて見せつけ始めた。
「俺達は前と同じように全速力に近い速度で下層へと駆け抜ける。それで置いて行かれるようならそのまま帰れ。付いてこれるようであれば同行を認めようじゃねぇか」
「そうだな、それで問題無い。よろしく頼もう」
そうしてオンハルトが増え3回目のダンジョン攻略へと出発したのだった。
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