2個目の帰還魔術陣 2
前回帰還魔術陣を設置した場所から正反対の方向へ向かう一行。
リアが先頭を歩き罠を感知し避けつつ、他の者が後ろに続きながらモンスターからの奇襲へ備える為、神経を研ぎ澄ませている。
基本的には変わる事の無いフォーメーションではあるが、3日もしてくるとツキミが飽き始め、リアの前に出て先走ってしまう事が多くなってくる。
その度に罠に嵌り、慌てて回避して皆に怒られる。
その後は暫く大人しく後ろをついてくるが、数日経過すると再び同じことを繰り返していた。
「なあ、なんでそんなに前に出て罠に嵌りたがってるんだ?もしかしてそういう性癖?」
「ちっがうのだ!!でも、ずっと後ろをゆっくり歩きながら警戒だけしてても飽きてきちゃうのだー。やっぱりちょっと位はドキドキするようなスリルが欲しいのだ!」
先ほども叱られたツキミは猫モードへとなり、透の腕の中で大人しく抱かれている。
ツキミ以外は厄介な問題児を捕獲しているという認識なのだが、本人だけはその認識が無いのか抱かれたまま小さい足をぷらーんぷらーんと振ってみたり、二股に分かれている尻尾で透の腕をくすぐってみたりと遊んでいる。
「お、ほらお望み通り。あからさまな罠満載ゾーンへ来たみたいだぞ」
曲がり角の先に見えるのは6人程が横に並べる程の通路、そしてその左右の壁にびっしりと隙間なく生えている、スパイク。
トゲの1つ1つが1メートル程の長さをしており、先端は簡単に人を貫通してしまいそうな程鋭い。
そして数十メートル先には誘うように宝箱が置かれている。
「なんかこんなん見てるとダンジョンに意志があるってつーか、知能があるっつーか……、まるで人間を相手にしてる気分になるな」
「そうね……。確かルメジャンのダンジョンは天然物だと記憶しているけれど……本当に不思議よね」
宝を餌にして人を集め、罠やモンスターを使って仕留めて吸収する。
明らかに金貨換算で収支を考えるとマイナスになっているダンジョン運営に、もしこの巨大ダンジョンを人が作ったのであれば目的が分からない。
それでも天然にできたダンジョンとしては、ただ罠を張るだけでなく、その罠にかける為の餌までも用意する、という事が出来るのかが不思議に思えて仕方ない。
それも中身だけではなく、一目で宝だと人間が認識できるような宝箱まで用意されて。
(んー、わからん。これも異世界ファンタジーっつー事なんかな。ダンジョンに宝が出て罠やモンスターが出るのはよくある事だもんなぁ)
よくわからない事をずっと悩んでいても仕方がないと、透は考える事を放棄した。
結局その謎が解けた所で自分の行動は何も変わらず、強くなる為にダンジョンに通う所か、今は釈放される為に通うしか無いのだ。
全員が角を曲がりきると、中に入った人間を潰そうと左右の壁が中央に向かって動き始めた。
慌てて元の通路へ戻ろうとするが、不可視の結界が張られており戻る事はできない。
「退けッ!」
ヒラキが叫びつつ斧を振り下ろす。
ガタガタと音を立て衝撃が通路全体に広がるが、結界を破る事はできなかった。
その間にも4人を潰そうと壁は迫ってくる。
「走れ!」
早々に結界を壊す事を諦め、宝箱の方へ向けて走り出した。
迫りくる壁の勢いは案外速く、既に4人が横に並ぶ事はできなくなっていた。
何もなければ魔力で脚を強化して走れば、数十メートルの距離等1秒もかからずに駆け抜けれる。
そう、何もなければ。
1歩踏み出すと足元はぬかるみにずぶりと嵌り、2歩目を踏み出せば鋭く尖った棘が地面から刺さってくる、3歩目を踏み出すと上半身部分のみ不可視の結界が現れ、勢いよく頭をぶつけた衝撃で2歩後退をしてしまい、同じ罠に再び嵌った。
「ぐっ」
「いたいのだあぁ……」
壁は更にその距離を縮め、横に2人並ぶのが精一杯な程になっていた。
焦りは更にその歩みを遅くさせる。
「落ち着け、普通に走ってもまだ間に合う」
ヒラキの言葉に幾ばくかの冷静さを取り戻し、まずは罠の対策を行った。
足元には踏みしめて割れない程度に強度を保った結界を張りぬかるみや棘の対策をして、前方にガラスボールに入った塗料を具現化し投げつけ不可視の障壁を可視化させる。
そして、1人が走る幅しか残されていない程壁が迫ってきた頃、脚に身体強化を施し全力で駆け抜ける。
最後のヒラキは真っすぐ走る事が叶わず、横向きになりながらも駆け抜けると、左右から迫っていたスパイクが交差した。
一息つく間もなく足元が突然消え去る。
そこにあった宝箱は眼下に現れたマグマの中へと真っ逆さまに急降下していった。
2秒もあれば4人も宝箱と同じ運命を辿るだろう。
熱風が4人を焦がす。
慌ててツキミが結界を足元に張るが、結界が熱を帯び靴越しでも火傷しそうになる。
すぐにルドニールを具現化した透が、結界に向けて魔力弾を何発も放った。
「ちょっ、何してるのよっ!?この結界が壊れたら死んじゃうのよっ!」
「大丈夫なのだ、透はちゃんと加減してるのだ」
魔力弾が着弾した場所から結界全体を凍らせようとする作用が働くが、熱の方が強く氷はすぐに溶けだし水となって流れていく。
「駄目だッ、全員飛べ!ツキミ、新しい結界を!」
「あいなのだ!」
全員が飛び上がるのに合わせて足元に再び結界が生じる。
だが、その結界も4人を焼き尽くさんとばかりにすぐに熱を帯びてしまい、同じように再度飛び上がり新しい結界を作るのを繰り返していく。
すぐに元いた場所まで上がるが、床が存在している部分には先ほどのスパイクががっちりと噛み合っていて逃げ込めるスペースは見当たらない。
スパイクの壁以外の3方はがっしりとした土壁に囲われている。
その間にも新しい結界を作るのを繰り返している為、天井がどんどん近づいてくる。
「何か、何か無いのか……!このままじゃ焼死か圧迫死だぞ……!」
「ヒラキさん……っ、何か思いつかないですかっ?」
「確証はねぇ、失敗すれば全員この世とおさらばだ。それでも俺に賭けるか?」
「勿論だ、1%でも確率があるなら!」
透の相槌に合わせてツキミとリアも同様に頷く。
それをヒラキが確認すると、突如4人の周囲を暴風が取り巻いた。
その風は更に勢いを強めていって、周囲の壁がガタガタと鳴り、土片を巻き込んで旋回していく。
中央はまるで台風の目のように無風で、心なしか先ほどよりも暑さを感じない。
「全員この風の中央へ集まれ。ツキミ、結界を全て解除しろ。」
3人が驚きに目を見開くが、どちらにせよ死しか待ってないのだ。
ヒラキに賭け全ての結界を解除する。
落下が始まると同時に足元から風が吹き付け、4人を暴風の中央へと固定する。
そのまま4人が入った暴風の塊はマグマの中へと落ちていった。
周囲のマグマを巻き込んだ風の渦の中には、土片とマグマが混ざり合い溶岩となっている。
それ程高温になっている熱源が手を伸ばせば届く距離にあるのだ、熱が4人を焦がすかと思いきやむしろ先ほどまでの暑さを感じない。
更に1拍程経過すると、周囲の暴風に巻き込まれたマグマが、パリパリと音を上げながら足元より急激に黒い塊へと変化していく。
「ひゃぁっ、このままあたし達もみんな真っ黒けっけになるのだぁぁ」
ヒラキの魔力がガツガツと削れていくので、ツキミに突っ込む余裕が無いのか険しい顔のまま瞑想をしている。
うわうわ言い出したツキミの口を、ヒラキの邪魔にならないように透が抑え込んだ。
周囲の暴風に飲まれていたマグマが全て黒い鉱物へと変わってから暫くすると、暴風は鉱物を外へ撒き散らしながら霧散した。
襲い掛かるマグマや熱風は無い。
それどころか少しひんやりとした空気が4人を撫でた。
先ほど4人より先に落下したはずの宝箱が、少し焦げつつもその姿を残して転がっていた。
視界は明るく、まるで水面のような影が地面でゆっくりと動いている。
不審に思い上を見上げると氷の粒が大量に浮いた水の層が蠢いており、その上に先ほどのマグマと思われる真っ赤な液体がうねりを上げていた。
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