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最強の武器はこの妄想力  作者: 緒嶋まゆ
第二章
54/87

2度目の 3

 その後も調子に乗ったツキミが所々で罠に嵌りつつも、大きな怪我無く探索を進めていく。

 誰も訪れた事の無い場所をマッピングしながら進んでいくので、当然の如く誰かに出くわすという事も無い。


 数日が経過したとある日の昼食を、ダンジョンの壁にもたれ掛かりながら一行が取っていると、急にカチッという音が小さく響いた。


「ん?何、今のお、とおおおおおおおお!?!?」


 リアが確認するより早くもたれかかっていた壁が背後へと倒れて、隠されていた通路が現れた。

 2人が並んで通るにはやや狭い通路には、左右に人間とモンスターを混ぜたような趣味の悪い彫刻が、数メートルおきに全部で6体並んでいる。

 そして突き当りには宝箱。


「こんな変哲もない所に通路が隠されてたなんて……」

「なんか足元にちっちゃな穴があったのだ!うずうずしてつい手を突っ込んでしまったのだ」


 ご飯を食べてる間は確かに人間モードだったツキミが、いつの間にか猫モードへと変わっている。

 小さな穴を見つけ我慢できなくなり、猫モードへと変わりその穴の中に手を突っ込んで、てしてしと手の届く範囲を探ったのだと言う。


 えへへと笑うツキミの頭に透のチョップが落ち、ぐぎゅっと奇声を上げた。


「見つけにくい場所だとは言え、目の前に宝箱がそのままあるのは怪しいな」

「そうですね、この気味の悪い彫刻以外には何もないから……これに何か仕掛けがあるのかもしれないですね……」


 透とツキミのじゃれ合いを無視して、通路の観察をしているヒラキとリア。

 恐る恐るリアが短剣を抜き、彫刻へと近付いていく。


 8本ある人間のような腕とびっしり鱗が生えた上半身に、ドロッと解けたスライムのような下半身、そして腐敗して目玉が飛び出ているドラゴンの顔。

 色彩の無い彫刻だからこそ、まだなんとか直視する事ができるが、このような怪物が生きていたら一目散に逃げだすであろう容姿をしている。


 足元に転がっている小石を手に取って彫刻へと投げると、コツっと音がして石は地面へと落ちていった。

 襲い掛かってくる等、変わった事は何も起きない。


「うへぇー、気持ち悪いのだぁ」

「ちょ、ちょっと、あまり近付いたら駄目よ」


 いつの間にかリアの隣に来ていた人間モードへと再び変わったツキミが、更に彫刻に近づき覗き込みながら彫刻の周囲を回る。

 すると彫刻の瞳孔がツキミの動きを追ってスウッっと動いた。


「ッひゃあ!?なんなのだ!?見られたのだ!!!!!」


 思わず飛び上がり尻尾を巻いて透の元へと逃げだす。

 いきなりツキミが逃げ出した事に驚き「えっ」と声を上げた時には、もう既に手遅れになっていた。


 彫刻が目にも止まらぬ速さで動き、リアの背後から8本の腕全てで抱きしめるように拘束した。

 そして今まで岩でできていたのが嘘のように、スライムのような形をしていた下半身がドロッとリアの足元から飲み込んでいく。


 ヒラキが指を鳴らすと以前透に付けた魔力封じの手枷が、モンスターの8本の()()()()()()()へと出現した。

 だが、再び目にも止まらぬ速さでモンスターが移動した為に、その手枷は地面へと落下し大きな音を立てて消えた。


「あたしのせいなのだ……ごめんなのだ!今助けるのだ!!!」


 ツキミの脚にバチバチと音を立てながら稲妻が纏わりつく。

 まさしく電光石火の如く駆け出し、モンスターへと追いつき頭部を狙って雷撃を落とした。


 モンスターは一瞬だけ動きを止めたが大きなダメージがあった様子はなく、リアを離す事も倒れる事もなかった。

 そのまま並行して壁を走りながら、回し蹴りを頭部に叩き込むがダメージは僅かなようだ。


「駄目だったのだ……あたしにはリアを助けられないのだ」


 サクッと諦めたツキミがとぼとぼとした様子で2人の元へと戻ってきた。

 モンスターに振り回されながらリアが「諦めないでよッ!?!?」と叫んでいるが、耳を折って聞こえていないアピールをしている。


「うーん、俺の腕じゃあれだけ早く逃げ回ってる奴に当てる事なんかできないしなぁ……」

「結構硬かったのだ、ぜーんぜん効いてる気がしなかったのだ」


 ツキミと透の視線がヒラキを捉える。

 先ほどの回転刃で見せた威力、それを当てれば倒す事もできるのではないかと。


 物は試しとばかりに、まだ動き始めていない残りの彫刻に炎を纏わせた斧を振り下ろす。

 直接当たった彫刻は粉々になり、斧から生じた爆撃がその後ろに並んでいた彫刻をも破壊した。

 ついでに素振りをするだけで、残っている彫刻も易々と破壊していく。


(これ当たったらリアの身体も無事じゃないんじゃ……。まぁ、なんとかなるか)


「向かってくる敵であれば、あの速さにも対応できるんだが、追いかけるとなると少しばかし速度が足りねぇな」


 残像しか目視できない程の速さで狭い通路内を動き回っているので、追いつけるのは速度強化したツキミのみ。

 ヒラキの言葉に頭を悩ませる2人。


 振り回されすぎて色々な角度から、グロッキーなリアの助けを求める声が弱弱しく3人の元へと届く。

 時折えずくような声と、壁にびちゃっと水みたいな何かがぶつかる音が響くが、3人は聞かなかった事、見なかった事にしている。


「ツキミの結界に閉じ込めて動けなくさせた所を、ヒラキさんに叩いて貰うってのはどうだ?」

「やってみるのだ!」


 足にバチバチと稲妻を纏わせ、再びモンスターを追いかける為に走り出す。

 何度か失敗をしたようだが、繰り返すうちにコツを掴んだのか、モンスターを捉える事に成功した。


 結界の中でバタバタと暴れ、ヒビを入れて破壊しようとするのを必死に魔力を流し修繕していく。

 久々に確認したリアは既に両足の太腿まで飲み込まれていた。


 その顔と身体は涙と鼻水と吐瀉物でぐしょぐしょになって、折角の美少女が台無しになっている。

 3人は居た堪れなくなり、静かに目を逸らしてしまった。


「このまま叩いたらリアまで真っ二つなのだ?」

「あぁ、それについては問題ない。振り下ろすと同時に正面の半分から下だけ結界を消せるか?」


 ヒラキの言葉にツキミがコクっと頷くと、結界の中で依然暴れているモンスターに向かって呼吸を整える。


 ヒラキが斧を上段に構えると、その刀身に炎が燃え盛る。

 透のごくりと生唾を飲み込む音がやけに大きく響いた。


 思い切りヒラキが斧を振り下ろすと同時にツキミが下半分の結果を解除する。

 斧は結界のギリギリを素通りして地面へとぶち当たり、周囲の土がひび割れを起こした。


 衝撃で舞い上がった土の欠片と炎が風に乗せられ結界の内部へと流れ込む。

 足元からモンスターを削り取ったかと思うと、渦を巻いて昇って行きモンスターとリアを覆った。


「だっだ、大丈夫なのだ!?」

「出てきたら黒焦げかもしんないな……」


 ツキミと透の言葉にヒラキは反応を返さず、結界の中の渦巻いている炎を凝視している。

 そして程なくして炎は消え去り、一緒に舞い上がっていた岩の塊や砂は床へと落ちた。


 結界の内部にモンスターはいなくなっており、支えを失ったリアがペタリと座り込んだ。

 透はタオルを取り出して濡らし、何も言わずリアへと差し出す。


 リアが顔を拭いている間に透が飲み物を用意して、ヒラキが宝箱を開けに行った。

 ツキミはこれ以上余計手出しをせず、大人しくしているようにと視線で2人に言われそっとリアへと寄り添っている。


「りあ……ごめんなのだ……」


 しょんぼりと耳と尻尾を垂らし謝罪をするが、心ここにあらずといった様子のリアは上の空でコクリと頷いただけだった。

 その反応にさらに申し訳ない気持ちになり、尻尾をリアの身体に巻き付けてすりすりするが、反応はかえってこなかった。


 大きな麻袋を抱えて3人の元へと戻ってきたヒラキが目の前にドサっと置き袋を開けると、中には大量の金貨が入っていた。


「ん?なんか色んな模様があんのな、金貨ってそんなに種類あんのか?」

「これはルメジャン、そっちのはニーシューとワチエね。あ、それはシュループの金貨じゃないかしら?」


 いつの間にか復活したリアが金貨を漁りながら説明をしてくれる。

 どうやらここの宝箱の中には各国の金貨が入っていたようだ。


「どうして金貨だけこんなに入ってるのだ……?」

「ダンジョンには死体や一定期間動かなかった物を吸収する働きがあるだろう。きっとそれで冒険者の死体や持ち物を吸収して、似たような物だけ集めて保管する作用があったんじゃねぇか?」


「ダンジョンってそんなに頭いいのか!?」

「透はダンジョンに負けるかもなのだ」


 にっしっしと笑うツキミの頭にチョップを入れ軽い言い合いを始める透とツキミ。

 苦笑いをしつつもそれを横目にリアとヒラキは話を進めた。


「まぁ、まだまだダンジョンの謎は解明されてねぇ。今俺が話した事も仮定の話だ」

「そうですね。でも、確かに上層で出る宝箱の中身には、明らかに使い込まれた武器や、ダンジョンに自生するはずの無い薬草なんかも出てきますもんね……。それがダンジョン内で命を落とした冒険者の物でもあり得る話ですよね」


 この場でいくら考えても答えは出ないという結論に行きつき、とりあえず収納魔術へとしまい元の通路へと戻った。



 そろそろ下層の入り口からかなり距離が離れてきた為、帰還魔術陣を設置できる場所を探していく事にした一行。

 モンスターが少なく、罠が無い場所を詮索していく。


 時折戦闘をしながら迷路を探索し、通路の行き止まりに出会い入念に罠や仕掛けが無いかを確認する。


「問題ねぇな。ここに帰還魔術陣を設置し、そのまま一度地上へと帰還を予定している」

「はい!」


 ヒラキが収納から小瓶に入った光っている粉、そして粘度の高い黄色の液体を取り出しバケツに入れ混ぜ合わせ始めた。

 粉と液体が混ざると輝きが増し、液体の色が黄色から赤へと変わる。


 その液体を使って地面に魔術陣を描いていく。

 光り輝いていた赤色の液体は陣が完成すると共に一度大きく光り、その後すぐに光を失ってしまった。


「失敗……なのだ?」


 ツキミの呟きにヒラキは首を振り、収納から出した緑色の石を魔術陣の中央に水たまりとなっている場所へと落とした。

 赤い液体に緑色の石が触れた瞬間、液体の色が全て緑へと変色する。


「これで完成だ」


「ほおおお、よくわかんなかったけど、なんかすごかったのだ!」

「結構幻想的な光景だったわね」


 女性陣が滅多にに出会えない光景に目をキラキラさせ、魔術陣を見つめている。


 帰還魔術陣を設置する際には冒険者も案内人も立ち会う事ができない。

 その手順や材料、製法は国家機密となっており、ギルドや国の上層部以外は知る事ができないのだ。


 早速出来立てほやほやの魔術陣を起動させ、一行は地上へと帰還した。

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