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最強の武器はこの妄想力  作者: 緒嶋まゆ
第二章
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取り調べ

 ギルド本部の地下へと3人は案内される。

 ホテルの客室のように廊下を挟んで左右に扉が連なっている。


 扉には小窓も無ければドアノブ等も存在せず、中央に魔術陣があるだけだ。

 サブマスターが魔術陣に手をかざすと、自動で扉が開いた。


「こちらの3部屋をお使い下さい、食事等は後ほどお持ちします。皆様お疲れかと思いますので、お話しは明日伺います。何もない所ですが、本日はゆっくりお休み下さい」


 サブマスターの言葉は謙遜等ではなく、本当に殺風景な部屋だった。

 端っこにベッドが1つ置かれ、その対面にトイレが置かれているのみ。

 変わった物と言えば、天井の四隅に描かれた大き目の魔術陣。


 有無を言わせず押し込まれ、部屋を見渡している間に扉は閉められてしまった。

 魔術陣の事を聞こうと扉をノックしても反応は無く、隣の部屋に入れられたリアに大声で呼びかけても返事は無かった。


 何も無い部屋で暇を潰せる事も無いと、自然と先ほどの戦闘が脳裏に過る。

 再度胃液が込み上げてくるのを、トイレに吐き出した。


(こんなんじゃ飯も食えねぇな……魔力放出しきって、とっとと意識手放して寝てしまうか……)


 魔力を放出するために集中すれば、先ほどの戦闘を思い出さなくて済む。

 フラフラとした足取りでベッドへ移動し、深呼吸して精神を統一させ魔力を放出させようとしたが、練り上げる魔力が沸いてこなかった。


「あれ?」


 再度試すが体の奥底から湧き上がってくる力の奔流を感じる事ができない。

 まるでただの人間に戻ったみたいに。


 何かしていないとまた思い出して吐いてしまう透は、とりあえずできる事を考えながら狭い部屋の中をぐるぐると回る。


「もしかして、あの魔術陣は中にいる奴の魔力を封じてんのか……まぁ、囚人?容疑者?的な立ち位置なんだろうし、仕方ないか……。魔術が使えなきゃ剣を出す事もできないし。素振りも魔力枯渇もできないとなりゃー、筋トレ位か?」


 仕方なく身体の限界が来るまで筋トレをして、疲労に飲まれ眠りへとついた。



 既に身支度を整え片腕が無い状態に慣れようと鍛錬を行っていたリアは、ノックの音に運動を止め汗を拭きながら返事をした。

 部屋に1つしかない扉が開かれ姿を現したのは、モフモフのオッサン──中央ギルドマスターのヒラキ。


 通常取り調べにギルドマスター自ら出向く事はよほど大きな事件でないと無い。

 そんな人物がわざわざやってきたのだ、驚かないはずがない。


「ヒラキさん……。この度はこのような問題を起こしてしまい申し訳ありません」

「大まかは事情は聞いてる、大変だったな。うちの者たちでは腕を治してやる事はできない、すまない」


「いえ!ヒラキさんが謝罪をする事ではありません。これは私の浅はかな行動が招いてしまった結果です。後悔はしていませんし、早く慣れるようにします」


 少し俯くと「ただ、案内人はもう……難しいですね」と付け足して、ぎこちない笑顔を浮かべる姿には痛々しさを感じさせる。

 ヒラキは返答が思い浮かばず、話を切り替える事しかできなかった。


「まさか、あの屈強なジェイクがこんな終わり方をしてしまうとは……、事件の解決には最大限ギルドとして協力をしよう。それと、ジェイクの遺体については現在ギルドで引き取って保管している。まだいつ釈放できるかわからんが、ここから出たら弔ってやれ」


 ジェイクとヒラキが若かった頃には同じパーティを組んで、ダンジョンへ潜り鍛錬をし切磋琢磨し合っていた間柄だった。

 リア達が塗り替える前の最長地点まで辿り着いたのも、このパーティだったのだ。


 冒険者を引退し案内人とギルド職員といった別々の道へ進んでからも、度々酒を飲み交わす仲だったのだ、亡くなってしまって悔しく無いはずがない。

 この事件を解決するのはリアだけの願いではなく、ギルドマスターの願いでもあるのだ。


 リアは涙ぐみながら礼を伝え、書類の束をヒラキへと手渡す。

 収容される際に紙の束とペンを貰っており、空き時間を使って今回の事件で起こった事を詳しく書き出していた。


「私がお伝え出来る事はそちらへまとめておきました。一緒に収容されている長瀬さんが、どうやっているのかわからないですが過去を映す魔術を使えるようなので、併せて確認して貰えるといいかもしれません」


 チラっチラっとヒラキを見ながら告げる。

 口には出さないが、昨日屋敷から姿を消してしまったベネットの行方を掴んだのか聞きたくて仕方ないといった様子だ。


「わかった、感謝する。聞きたい事も色々あるだろうが、今はまだ話す事はできない。すまないな」

「い、いえ、大丈夫です。ありがとうございます」


 退出するヒラキに何度も頭を下げ見送った。



 続いてヒラキはツキミの部屋へと訪れる。

 ノックしても返事が無かったので、そのまま開けると猫の姿でベッドで大の字になって寝ているツキミがいた。


「こいつに緊張感という物は無いのか……?」


 思わず口にしてしまったが、ぐっすり眠っているようで返事は無い。

 女の子いう事と野生を忘れ、何故こんな収容所にいるかも忘れている様子に呆れつつ、ツキミの腹を突く。


「んぅ……」


 くすぐったそうに身動ぎをするが、起きる様子はない。

 スパーンといった小気味良い音が響き渡る。


「いっっったーーーーーーーいのだ!?何事なのだ!?」

「起きたか。昨日の事を話してくれ」


 頭を押さえてじたばたと動くツキミに溜息を吐きつつ、昨日の証言をするよう促した。

 恨みがましくヒラキを睨んでいたツキミだが、冷たい視線に晒され口を開く。


「リアと一緒にご飯を食べておうちへ戻ったらジェイクさんが倒れてたのだ。そしたら変な奴が来ていなくなって、3人で何かを見たらリアが怒ってずばーっといなくなったのだ。それを追いかけたらひろーいおうちに辿り着いて、よくわかんない人とずばばばばっとしたのだ」


 話し終わったとばかりに胸を張る猫に冷たい視線が注がれる。

 2人の間に沈黙が下りた。


「わかった」


 ツキミの説明では何も重要な事が伝わって無かったが、これ以上話しても収穫が無いと判断したヒラキはそのまま踵を返し部屋を退出する。

 1人部屋に残されたツキミは、首を傾げつつまた広い布団を堪能するように眠りに落ちていった。



 そして透の部屋がノックをされ、中から緊張した様子の返事が返ってくる。

 扉を開けたヒラキは怯える透を尻目に本題へと突入する。


「過去を見る魔術が使えるのは本当か?」

「え?あ、はい、一応。俺が実際見た事柄であれば……俺の視点からならどこででも見れますが……俺が実際見てない事ならその場所にあった物とか建物とかの記憶を借りれば……多分、見れます」


「わかった、腕を出せ」


 意味がわからないまま透が言われた通りに腕を出すと、手枷が嵌められた。

 重量のある金属で、手枷全体に魔術陣が描かれている。


「……へ?」

「ついてこい」


 そのまま手枷から伸びている鎖の先端をヒラキが持つと有無を言わせず扉から出ていく。

 透は内心ビビりながらも引きずられるようにして、収容所を後にした。



 透が連れてこられた部屋にはギルド職員が何人も待機しており、儀式的な物を行うような雰囲気を醸し出している。

 透が中央に立ち周囲の職員たちが手を掲げたと思ったら、透の周囲に分厚い結界が形成された。


 ヒラキが指を鳴らすと、透の手枷がガシャンと音を立てて外れ落下した。


「妙な気は起こさない事だ。過去を映す魔術ってのでお前が見た事を最初から再生してみろ」


 威圧的な眼差しに怯えつつも、コクコクと頷きリアと一緒に店へ戻った所から再生を始めた。


 再生が始まると初めて見る魔術に周囲が色めき立ったが、すぐに映像の中の3人は店に入りジェイクの遺体を見つけ、その様子に緊張が走る。

 その後の展開にヒラキを含め全ての人間が集中しており、時折呻き声や何かを話し合っている声が聞こえてきていた。


 透が過去再生の魔術を新しく生み出した所ではどよめきが起こり、その直後のジェイクの戦闘シーンでは皆が皆心を痛めた表情を受べていた。


「これで以上です」


 サブマスターや警備兵達が駆けつけてくる場面となり、映像を止め透が告げる。

 無表情のまま食い入るように見ていたヒラキだが、瞳には殺意が燃え上がっている。


 一度深呼吸をして指を鳴らすと、足元に落ちていた手枷が浮かびあがり再び透を拘束した。

 それを見届けた職員たちが手を降ろし結界を解除させる。


「協力感謝する。また部屋で休んでいてくれ」


 脇からサブマスターがサッと現れ、鎖を持つと先ほどの部屋まで透を案内する。


「あのっ、これから俺達はどうなるのでしょうか?死刑とか……一生あの部屋から出れないとか……犯罪奴隷落ちとかして、どっかの鉱山で給料も無く食事も満足に与えられないまま死ぬまで鉱石を掘るとか……」


 透の想像に苦笑いを浮かべながら、サブマスターは口を開く。


「私の方からははっきりした事は申し上げられませんが、今回見せてもらった物を参考にしてギルドの方でも調べを進めるので、真実であれば死刑とかは無いと思いますよ。ただ、仕方なかったとしても10人の方を殺めているので……無罪放免というわけにはいかないと思いますが……」


 不安が拭えないまま、1人また部屋に取り残された透は気を紛らせるように必死に筋トレをして身体を追い込んでいった。

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