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最強の武器はこの妄想力  作者: 緒嶋まゆ
第二章
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復讐 3

 透が人間を殺めたのはエム・ド・ハゲヅーラが率いる山賊に捕まった時以来だ。

 あの時は透自身怒りに身を任せ、ボロボロの死にかけ状態で必死に抗ったからこそ結果として人を殺す事ができた。


 日本では勿論、ワーズというこの異世界へ渡ってからも、自分の意識がはっきりしている時に人を殺した事等無い。

 殺人を犯した事、剣で叩き切る時の感触、殺される時の私兵の表情、マシンガンでバラバラになった血肉、その全てが透にトラウマを植え付ける。


 異世界に来て避けては通れなくなった人との戦闘、殺さなければ自分や大切な仲間が殺されてしまうという葛藤。

 その事実が透に重く圧し掛かっていた。


(ラノベやアニメでは皆すぐに人殺しに慣れてたじゃないか……。人を殺しても案外何も思わないな、って言ってた奴等までいたのに、俺は……俺には……無理だ……)



 透のマーライオンする姿に引きつつも、ツキミは人間モードへと変身しリアの元へと駆け寄る。

 ──まだ嘔吐いている透の吐瀉物の被害に遭わないように、少し遠回りをして。


「リアッ!大丈夫なのだっ!?」

「つ……きみ……ちゃん」


 かなり出血をしており、起き上がる事は難しく意識も朦朧としてかなり危険な状態にあった。

 ツキミは急いで苦手な回復魔術を唱え続ける。


「ありがとう……」


 血が止まり若干顔色が戻ってきたリアは、ツキミに柔らかく微笑む。

 涙を浮かべながら更に回復魔術を重ね掛けしていくが、詠唱を使用した初級魔術ではそれ以上かけても変化は起こらない。


 そこに商人の護衛についていた私兵が2人、ツキミに向かって斬りかかってきた。


 間一髪でツキミの結界が間に合った。

 相手は先ほどよりも少ない2人とはいえ、負傷中のリアを守って戦える程器用なツキミではない。

 かと言って、逃げれば即追いつかれ、身を隠せる障害物も無い。


「透っ!何とかして欲しいのだっ!」


 ツキミの叫びに透はヨロヨロと顔を上げた。

 涙を浮かべつつマシンガンを構える。


(もう嫌だ……、殺したくない、でも……俺がやらなきゃ……)


 だが、腕が振るえ照準も合わなければ、引き金を引く事もできなかった。


 結界を維持しながらもリアに回復魔術をかけ続けている為か、魔力が分散し結界の強度が落ちてしまっているようだ。

 私兵の猛攻を受けツキミの結界にヒビが入る。


 それを感じ取ったリアがふら付く身体で立ち上がり剣を握りしめた。

 左右のバランスが崩れ、倒れそうになるのをツキミが慌てて支え、私兵へと対峙した。


「だめなのだ!何とかするから、だから、休んでて欲しいのだ」

「ありがとう、ツキミちゃん。自分の復讐だもの、ちゃんと最後まで戦うわ。むしろ巻き込んでしまってごめんね」


 リアの柔らかな笑みに言葉は出ず、首を振る事しかできない。

 今結界が壊れたらリアが飛び出していってしまう気がして、回復魔術を止め全力で結界の強度を上げる。


「透ッッ!」


 もう1度叫ぶ、使い物にならない仲間に喝を入れるように。


 ツキミの魔力が底をついたら、2人とも殺されてしまう。

 私兵を道連れにできるかどうかわからないが、どちらにせよボロボロのツキミとリアの2人と、今まで戦闘を行っていなかった私兵2人では精度も魔力も体力も差がありすぎてしまうのだ。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっっ!!」


 悲痛な雄叫びを上げ、引き金を引く。

 目はぎゅっと閉じられ、自分の声で私兵達の苦しむ声が聞こえなくなるように。


 ツキミの結界を遮蔽物にしようと私兵達が身をかがめるが、2人は地面に這いつくばり結界の高さを低くした。

 透の弾幕が私兵達の命を散らした。


 長いような短いような時間がすぎ、透は薄っすらと目を開けた。

 先ほど殺してしまった私兵達と同じような姿へと変わり果てている、新たな2人分の私兵が視界に入り思わずルドニールを落としてしまう。

 落とされたルドニールは地面にぶつかる前に光の粒子となって消滅した。


 もう何も吐き出す物は無いが、涙目でゲーゲーと胃液をぶちまける。


(大丈夫、だ。これで良かった、よかったんだよ……。殺らなきゃ、殺られてた。俺は、間違ってない、悪くない、仕方なかったんだ……)


 透が現実逃避をしていると、門があった場所に人が集まってきた。

 ルメジャン国内の治安を守っている警備兵達と、ギルド本部のサブマスターと緊急招集された冒険者達だ。


 既に事切れている私兵達を見て眉を顰めながら、臨戦態勢の人々が敷地内にゆっくりと足を踏み入れ、いまだに空中の足場にいる透へと声を掛ける。


「ここの屋敷で大きな戦闘があったと通報を受けたんだが、話を聞かせてもらっていいか」


 嗚咽を上げながらも新たな来訪者に振り向いた透は、仕方なかった、と言い訳をしようとして這いつくばったまま前に進む。


 足場はそこまで広く作られていない。

 1~2歩進むとすぐに足場は無くなり、そのまま地面へ落下した。


「ッッッは」


 その間にリアを支えながらよたよたとやってきたツキミが、一緒に透の横でへたり込んだ。

 サブマスターがリアの存在に気が付く。


「リアさんッ!?!?ど、どど、どうしたんですか、その腕!?大丈夫ですか!?」

「……え?あ、あぁ、これね。父が……ジェイク龍河がウェイン・ベネットの糞野郎に殺されたのッ、それで私が復讐しようと飛び出してきたんだけど……この有様よ。ツキミちゃんが沢山回復魔術をかけてくれたから、一応はなんとか動けない事も無い位ね。ここの2人は私を助ける為に力を貸してくれたの」


(あの商人の名前ってそういえば知らなかったのだ。それよりもリアの顔が広くて助かったのだぁ)


 心の中で割と興味のない新事実に感心するツキミと、そのリアの説明すらのた打ち回って耳に入らない様子の透。

 慌てて上位の回復魔術が使える冒険者が3人に回復魔術を掛ける。


「それで、ベネット卿は……どちらに?」


 ツキミとリアが屋敷を見ると、玄関付近で観戦していたベネットは既に姿を消していた。


「逃げられたのだ……」

「糞野郎ッッ!あいつは……あいつだけはッ!何が何でも殺すッ!」


 再びリアの怒りが燃え上がり、ユラユラと立ち上がる。

 それをサブマスターが制し、ギルドの方でベネットを見つけ出すと約束した。


「ただ、とても心苦しい限りではありますが……、お三方の身柄を治療しながらという形でギルド本部で預からせて頂かなければならないんです……」

「なんでなのだ?」


 おずおずとオブラートに包みながら3人を拘束すると言うサブマスターに、ツキミが直球で理由を聞く。

 汗を拭きながら気まずそうに口を開いた。


「リアさんの仰った事を疑うわけでは御座いませんが、ただ現在の状況を鑑みるに事件が解決されるまでお三方の身に何かあってはいけないので……。お話等も個別に詳しく伺いたいので……」


 サブマスターの説明を受けても、頭の上に疑問符を浮かべ続けるツキミにリアがこっそりと耳打ちをした。


「簡単に言うと、今の話が本当かどうか調べなきゃいけないし、私達は殺人犯として更に罪を重ねたり逃げたりしないかを管理しておかなきゃいけないってことよ」

「あたし達が悪者にされてるのだ?」


「悪者ってわけじゃないと思うんだけど……、個人的感情は抜きにしてギルドは中立でいなきゃいけないからね、大きな事件起こして通報されちゃうと野放しにする事はできなくなっちゃうんじゃないかな」

「ふーん……なのだ」


 話に一区切りついて透を見ると、すっかり小さく膝を抱えて丸まりプルプルと震えている。


「なんで長瀬さんは、あんなにビクビクしてるのかしら?」

「さぁ?なのだ」


 呑気な2人の声にキッと顔を上げた透は、サササッと這い寄って2人の耳元で器用に小声で叫んだ。


「寧ろ何でお前らはそんな普通にしてられるんだ!俺達は仕方なかったとはいえ、人を殺してしまったんだぞ!?しかももう捕まると来た、きっとこの後は拷問されて死刑台に送られるんだッ!」


「「妄想が激しい」のだ」


 2人に一刀両断される。

 サブマスターを覗き見ると、今の話が普通に聞こえてたのか苦笑いが浮かんでいた。


「あたし達は前にも山賊を殺しちゃったのだ、人を殺したって騒ぐのは今更なのだ。それにあたしの一族では強さが正義、大人になったら殺される程弱い方が悪いのだ」

「……ツキミちゃんの一族はちょっと特殊な感じではあるけど、事件を調べたら悪いのは明らかにあの糞野郎でしょう?まあ、何かしら罰はあると思うけど死刑にはならないわよ。それに長瀬さんの過去を映す魔術があれば、一連の説明もしやすいし拷問にもならないんじゃないかしら」


 2人の話を聞いて少し震えが収まった透。


 サブマスターがゆっくりと3人へと近付き、そろそろ……と移動を促す。

 その間にも私兵の死体は回収され、地面も綺麗に洗浄されていた。


 冒険者に周囲を囲われながらも、一行はギルド本部へと向かい歩き出した。

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