復讐 2
私兵等見えてないかのように商人だけを目指して、怒りに身を任せただ命を刈り取る為だけに刃は振られる。
駆け出そうとする度にリアに付いた2人の私兵に止められ、元の場所へと押し戻される。
「邪魔をするなッ!」
「残念ながらそれは無理なお話しですね……、四肢を切り落としてでも生け捕りを命じられているので、抵抗しないで頂けるとありがたいのですが」
リアの耳には届かない。
返事の代わりにまた駆け出そうとして、溜息を吐いた私兵に足を切り裂かれる。
朱が走り痛みでやっと私兵2人を相手にしないと、復習が遂げれない事に気が付き相対し直した。
すぐに勝負を付けようと身体強化に掛ける魔力量が多くなり、リアの身体が爛々と輝く。
だが、怒りで普段の精細な魔力制御が明らかに荒くなっているのが、烈火の如く魔力が天に吸い込まれていっている様子から明らかだ。
打ち込む場所を探しつつ各段に上がったスピードに物を言わせ私兵の周辺を猛スピードで旋回する。
スピードが速く身体が追いつく事は無いが私兵2人は背中合わせとなり、リアが刃を振るう瞬間を確実に捉えカウンターを叩きこむ。
音や光を置いていくような速さで敵を翻弄できたのはほんの一瞬、溢れ出る殺気が居場所と軌道を相手へ教えてしまっている。
無傷な私兵2人に対して、徐々にリアの身体には傷が増えていった。
6人の私兵を相手に攻撃を避け続ける透とツキミ。
時折反撃をしようとしても私兵達はお互いをカバーし合い、隙を作るような事はしない。
「このままじゃリアが最初にぶっ倒れちまうぞ……どうすっかな」
「やっぱりこいつらをボッコボコにして、応援にいくのだ!」
案外血の気が多いツキミに、苦笑いしつつも頷く。
だが、それを易々と許してくれる程敵も甘くはない。
目の前の敵に当てようと放ったツキミの雷撃は、後方に陣取った私兵達の元へ吸い込まれて行き魔術障壁に無効化された。
猫モードで足元をちょこまかと動くツキミに攻撃を上手く当てる事は私兵もできていないが、ツキミの攻撃も当たらずお互いに決定打に欠けている。
透も普段から素振りを行ってはいるが、モンスターと戦う時は銃撃戦が多く近接戦闘をする事が少ない。
近接戦で尚且つ対人戦となると殆ど経験は無く、余裕そうな顔をして敵の連携の取れた攻撃を避けるのでいっぱいいっぱいだ。
正面の敵と僅かな時間でも鍔迫り合いになれば右後方から別の敵が襲ってき、左後方に引けば待ち構えたように着地する場所に斬りかかってくる。
ガンブレイドのでかい刀身に身を隠しつつ転がって何とか避ける事ができた。
(あっぶねえッ!ツキミは膠着状態、俺はこのまま剣で戦っててもジリ貧……何より一番やべえのは魔力をアホみたいに垂れ流しつつ、相手に届いてないリアだ)
なんとか距離を取ろうとするが、2人は完全に包囲されており後ろに飛ぶ事もできない。
ツキミと相対している3人も段々と足元をちょこまかと動く猫を標的とするのに慣れてきたのか、1人が遠距離から魔術を放ち退路を塞ぎ、2人が追い込みをしている。
まだ僅かな隙間からなんとかすり抜けてはいるが、私兵達の吸収が速くツキミに傷が付くのも時間の問題になっている。
そんな3人の様子をニヤニヤしながら見つめる商人は大きな声を張り上げた。
「どうですかァ!?私の揃えた兵達は!素晴らしい強さでしょう!そろそろ勝てないという事がお分かりになりましたか?回復させるのも面倒なのでねェ、できれば大人しく従って貰えると楽なんですけどねェ」
「黙れッ!お父さんの無念、刺し違えてでもお前を殺すッ!」
「お前なんかの言う通りになんかしてやるかなのだ!ばーかなのだ!」
「どっちにしろ、俺は殺されるんでしょ……」
怒りに震える者、なんとなく挑発する者、悲しみを背負いつつ仕方なく剣を構え直す者、三者三様ながらも抵抗する意志を見せる。
再度溜息を吐いた商人はもっと痛めつけるよう私兵達に注文を下した。
私兵達の攻撃が激しさを増す。
今までは連携と純粋な剣技のみで3人を追い詰めていたが、スキルまでも使用し始めた事で間合いが伸び、威力が上がり、速度が上がった。
着実に先ほどまでよりも3人の身体に刃が到達する事が多くなり始めた。
一番血を流し魔力を流していたリアに限界が近づいてくる。
明らかに速度が落ち、出血でふらつき始めた。
「クソックソッ!どうして……ッ」
息が上がり意識が朦朧とし始め、悪態すらまともに紡げなくなった。
何故、どうして、という思いと自己嫌悪がリアの意識を埋めていく。
何故ジェイドが殺されなければならなかったのか、変な奴に目を付けられてしまったのがいけないのか。
復讐すらも力及ばず達成する事ができないのか、どうしてこんなにも無力なのか。
「──ッッ」
ついに私兵の剣がリアの腕を撥ねた。
斬り飛ばされた腕は透とツキミの戦っている元へと飛来する。
飛ばされても尚しっかりと握りしめられていたリアの愛剣が、この激しい戦いの中で初めて私兵に傷を付けた。
予期せず意識の外側から現れた腕に私兵達の反応がワンテンポ遅れ、その一瞬が命取りとなる。
体制を崩しつつも避けきれず肩に剣が刺さり、大きな隙を作った敵の首を透のガンブレイドが叩き切った。
人の首を落とす感触に思わず顔が強張り怯んでしまう。
1人失った衝撃からすぐに持ち直した私兵達はそんな透の隙を見逃さない。
ツキミに付いてた私兵が1人透の方へ移動し再び追い込み始めた。
その時、状況を理解したツキミが吠えた。
「リアッ!?!?あたしのっ!大切な仲間にっ!何するのだッッッ!!」
ツキミの纏っていた魔力が膨れ上がり、激しくバチバチと稲妻を発する。
足を止めたツキミ目掛けて剣が振り下ろされるが、高火力の稲妻に当たりドロリと溶かされてしまう。
これには流石に私兵も驚き慌てて後退をしたが、音を置いていく速さで迫る稲妻から逃げれる筈も無く丸焦げにされた。
「あれ?当たったのだ」
先ほどまで全て後ろの私兵に誘導され魔術障壁によって雷撃が無効化されていたが、今は普通に目の前の敵に当たった事に首を傾げる。
だが、そんな事よりも敵を減らす事に意識を集中させ、発した稲妻は魔術障壁をぶち破り後方にいた私兵1人を丸焦げにした。
フリーになったツキミは透とリアを覆うように結界を出し、敵から隔離をして叫んだ。
「透!上からならいつものいけるのだ!」
「あ、あぁ!」
透の跳躍に合わせて着地地点に結界を張って足場を作っていく。
私兵の剣が届かなくなった所で周囲の結界が解除され、ガンブレイドモードだったルドニールが大きく光ったかと思うと、マシンガンモードへと変形した。
後は引き金を引くだけで死の暴力が私兵達を散らす、という所で透は戸惑い固まっていた。
「透?どうしたのだっ?」
自分も同じように結界を足場にして同じ所まで上がってきたツキミが透に問いかける。
歯切れ悪く「いや、なんでもない」とだけ返事をして、目を瞑り1回大きく深呼吸をした透はそのまま下に向けて引き金を引いた。
魔術攻撃が来るだろうと予想して、全員が魔術障壁を展開していたが、それを貫き私兵達へ魔力弾が到達する。
「グアァッ」
止む事の無い苦痛の雨に訓練された私兵達から思わず声が漏れる。
弾の届かない所で見ていた商人と、その護衛としてついた2人は見た事も無い武器と魔術に青ざめる。
呻き声が聞こえなくなり、引き金を放すと透はゆっくりと目を開けた。
透とリアに相対していた5人の私兵達から広がる血の海に、思わず胃の中の物が全て逆流し滝のように流れ落ちた。




